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◆ 11・天使の声(前) ◆


 どれほど歩いても先の見えない道に諦めが立つ。

 座り込み、しまいには大の字になって転がっている。


「だーれーかーぁ……!」


 むなしく闇に溶ける声。



 誰か助けてって、結局誰も助けてくれないんだよな……、誰も助けてくれないって分かってても言わずにはおれないんだから、ほんとどうしようもないわ。



 救われる事よりも反応を返して欲しいところだ。それが最低限、助けを求める人間のためにすべきマナーだと思っている。


「エルキヤ・エルティアー!!!!」


 やけくそで一度しか使えない呪文も叫ぶ。もう何度も乱発している。怒り狂った天使すら現れない。


「悪魔、魔王! 今なら入信しますー! 魔王陣営加わりますー!」


 当然反応はない。



 むなしいわ。

 せめてさ、一度だけな呪文唱えたらキレて出てこいよ!!!!



「精神力がガンガン削られていく……」

「そうだね」



 ん?



「ん?」



 今、声が……?



「ほんとね、声がするわ。誰かしら?」

「え? いや、誰よ!!!!」


 慌てて飛び起きる。一気に体中から冷や汗がふき出る。


「私、私はシャーロットっていうんですって」


 暗闇から声が返る。正直ホラーでしかない。


「な、何言って……、私がシャーロットですけど?! ってか、あんた姿見せなさいよ!」

「え? あなたがシャーロットなの? 私ずっと話しかけてたの、話せて嬉しいわ、シャーロット。ついに声が聞こえるなんて、すごいわ」


 一般的にこの声の主の、甘く優しい声を聞けば、誰だって庇護欲(ひごよく)をそそるだろう。だが、私は全く心動かされない。


「よし、じゃー頭おかしくなりそうだし、あんたはグレイスね! 私はシャーロットで」

「うん、いいよ」

「じゃあ、グレイス、あんたはいつからココにいるの? 私はさっきからずっと大声出してたんだけど、聞こえた?」


 グレイスは「ううん」と言う。

 妄想が作り出した人格だったとしても驚かないし、受け入れる気分もある。自分との相談でもいいじゃないか。


「グレイス、あんたはココを何だと思う?」

「閉じ込められた場所、かな?」

「ええ、そうね。で、ドコだと思う?」

「分からないの……」



 うん、自分の作り出した人格って所詮、自分よね……頭イイのが生まれるわけじゃないんだわ。



 悟った気分で声をあげる。


「じゃ、あんたの覚えてる事でも話してよ」

「私の覚えてる事……、さっきまで妹といたよ。あ、えと、シャーロットの妹の」

「フローレンス?!」

「うん」



 マジか、え、どゆ事? ココにフローもいるの?



「それから、ライラさんと、先輩さん」

「え? ライラとスライ先輩も?!」



 意味が分からない。だとしたら、あれだけの大声になんで無反応よ。



「他に何かない? もっとこう、なんかキッカケ的な? この暗闇になる前のなんかこう、そういうの」


 グレイスは黙り込んでやがて、悲し気な声を出す。


「ごめんなさい、思い出せないの……」



 だよな? まぁだと思いましたっ!!!! 大体期待していい思いした事ないし、むしろ期待なんかぶち破るのが世界のことわりな気するし!!!!



「あ、ルフスは私をアーラって呼んでたよ」


 思考停止。

 まさに元凶の名前だった。




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