ベルンの魔法は、おば様譲りです。
おば様の部屋には、お茶の準備がしてあった。
席は三つ。
おば様と私と、ベルン。
そして、おば様の後ろにおじ様が椅子に縛り付けられていた。猿ぐつわ付きで。
見なかったことにした。
「ベルン、貴方が持っているその紙は何?」
席についてすぐ、おば様はそう言った。
ベルンがのろのろとテーブルに紙を広げる。
「婚約解消? ベルンが用意したの?」
おば様の顔がゆがむ。
雷が落ちそうだったので、慌てて手を上げた。
「おば様。それは、私が用意しました」
「エリザベス、貴女……」
「私、最初からベルンの婚約者になんてなりたくなかったんです。だから婚約するときに父に頼んで用意してもらいました」
「でもこれ、ちゃんと王印が……」
「おじ様はご存知です。これをもらうことを条件に、婚約を承諾しました」
「べス!」
ベルンが立ち上がった。
ブルブルと震えて、いかにもショックって顔をしている。
「そう……そうだったのね」
おば様が、ため息と共に顔を伏せた。
ベルンは立ったままだし、静まり返った部屋はひどく居心地が悪い。
暫くして、おば様がようやく顔を上げた。
「ベルン、名前を書きなさい」
「嫌だ! 僕はべスを!」
「書きなさい」
「嫌だ! 絶対に嫌だ! 僕はべスと結婚するんだ!」
バンッとテーブルを叩いて、ベルンが叫ぶ。
ベルンの前に置かれたカップが揺れて、紅茶がこぼれた。
これも、今まで見たことのないベルンの姿だ。
「じゃあ、どうして、アリスを選んだの?」
私は、ベルンを見て聞いた。
久しぶりにちゃんと見たベルンは、すっかりやつれていた。
髪はぼさぼさだし、無精ひげもあった。
やっぱり男の子なんだね。
「それは……」
「それは?」
「……そうしないとべスと結婚させないって言われて」
「ベルン、それはどう言うこと? 誰に言われたの?」
おば様、ベルンと同じ氷魔法を使うんだけど、足元から冷気が……私は気持ちいい
けど、足が床にひっつきそう。
「父上」
「……そう」
ビシッ、っておば様の前にあったティーカップが割れた。
おじ様はうめき声を上げながらガタガタと椅子を揺らしてる。
おば様が立ち上がっておじ様の方へ振りかえった。
「あなた。洗い浚い吐いてもらいますよ?」
そう、おば様は一歩踏み出すと、おじ様は椅子のままひっくり返った。




