研究
研究は主に6F、インテグレイテッド・デスクのあるオフィスで行われるらしい。
計算やらの仕事は全部AIがやってくれるため、基本的に研究員はアイデア勝負なのだ。
培ってきた知識と、カンでAIに的確な指示を出す能力が問われるってわけ。
そういうことなので、実際に動かしてウィルスを生成する部分に関わらない人たちは白衣すら着ないのだった。
「これは何をしているんだ?」
「遺伝子導入後の代謝で人体がどのように変化していくかのシミュレーションを行ってます」
研究員がそう説明した。
ホロモニターにチンパンジーから原人を経て人間になるみたいな感じで、クローズアップされた上腕二頭筋が表示されている。
「なるほどね。これ、理想的な変化がシミュレートできたことは?」
「ありますよ。導入するウィルスの生成過程に問題が生じて頓挫しましたが」
「なるほど。それで今は?」
「別経路での変化を模索しています」
「それを経営側は知ってるのか?」
「いえ、頓挫したことは伝えましたが」
「分かった。理想的なシミュレーションを素人でもわかりやすいよう、キャッチーな部分を切り取って俺に送ってくれ。わかりやすさ重視ね」
「分かりやすさ……」
「それと、一番ヤバい変化も同じように用意してほしい。ヤバければヤバいほどいい。例えば、体の中と外が裏返るとか」
「承知しました。しかし何故」
「啓蒙だよ。専門知識の無い連中には、しっかり啓蒙していかなきゃいけないのさ」
これよりはマシだというケースをとりあえず用意しておくことで、溜飲を下げやすくする。とても大事なことなのだ。
マリーは言った。「さすが4歳の柔軟な発想って感じ」
「ウィルスを作ってるのもこのフロアで?」
「作製自体は7Fだね。ここはシミュレートするフロアなので」
「なるほどね」
俺はこんな感じでブースを回っていって、いろんな情報を吸い上げた。明日からは潤沢な予算を確保するために、いろいろと資料を作っていこう。
「マリー、ランチにしよう」
「ええ。食堂は4階」
飯を食った後、俺は猛烈に眠たくなった。全然抗えない。
4歳児の体力はマジで少ないな。
ま、保育園だと昼寝してる時間だしね。
俺は食堂の外にあるベンチにマリーと並んで座り、そのまま眠ってしまった。
一時間ほどで目が覚めたが、マリーの姿はなかった。
一人で6Fに戻ろうとエレベーターを待っていると、おっさんに声をかけられ、13Fの研究所長に会いに行けと言われた。
面倒だな。
もう少し情報を吸い上げておきたかったんだけど。