啓蒙
とあるアイデアが俺の脳裏に浮かび上がってきた。
この世界、ゾンビを啓蒙するべきなんじゃないだろうか。
元々ゾンビゲーであるからこそ、人々はゾンビというものを一切知らない。怪談話や都市伝説には、不自然なほど不死者というものが出てこないのだ。
シンゴ●ラの世界の人類が誰もゴ●ラを知らなかったみたいなことだろう。
仮に、大量にカネを使い、広告屋に大々的にゾンビの存在を知らしめるようなことをさせた場合、世界の修正力はどのように働くのだろうか。
不自然なほど全く認知されないまま終わる。そんな気がしないでもない。
ゾンビの発生そのものは回避できなかったしね。
この世界の法則に抵触しないように、啓蒙する必要があるだろう。
俺は日に日に激しさを増していくマリアンからのスキンシップをやり過ごしながら、こうして考えているわけだ。
「そこ触ってないでさ、俺の頼みを聞いて欲しいんだが」
「なんでしょうか」
「ウィルスや細菌を題材にしたメディアを収集して、ストーリーがあるものなら大まかなプロットの統計を出して欲しい。データフローダイアグラムにしてくれるとありがたい」
「わかりました」
インテグレイテッド・デスクで作業しながら待っていると、通知がきた。
やはりな。
上がってきたデータフロー図をざっと眺めてみたが、ゾンビに関連するような内容のものは存在しない。
疫病と戦った歴史物や、とんでもない死に方をする疫病との戦いなどが一般的で、パンデミックが起きるものはウィルスを基本的に危険なものとして扱われている。
科学ロマンスでは、頭が良くなったり、スーパーパワーを手に入れてヒーローになったりするものは確認できる。
だが、ウィルスによって理性を奪われて人が人を襲うようになるものは…… あった。
アダルトビデオだ。
とはいってもニッチなジャンルで、コアなマニアに支えられている感じのジャンルらしい。
「なるほど。ウィルスを媚薬と捉えているのか。性欲と理性のせめぎ合いの中に脱構築的実存の躍動を感じざるを得ないね」
俺は適当に難しそうなことを言って肩をすくめた。
「しかし、我慢しようとする描写が100%の確率で存在しています。あらゆる場面で我慢しようとし、欲望に幾度となく負けますが、しばらくすると正気に戻ってまた抗おうとする」
「そこが俺の知ってるゾンビものとは異なる点だな。感染してしまえば、ゾンビ化してしまうことは確定的で、その後、一時的にでも正気に戻るのは珍しいんだ」
The Dead In The Waterのゲーム中でもゾンビが元に戻る描写は存在しない。
とりあえず、このジャンルをベースに、なんとか啓蒙できそうなアイデアを練ってみるしかないだろう。
「このジャンルの第一人者にコンタクトを取りたい。スロープ社で案件を作るか」
そうと決まれば早速行動開始だ。




