強化
ジョニーと呼ばれしもの、俺。
ゾンビ化して死ぬ運命は回避できたと信じたい。
「そういえば、ジョニー、お前さんもキメたか? 私もバッチリ入れたところだ。筋力の変化はまだ全く感じないが、アッチの方が本当に凄くなってね。社長も所長も大喜びさ」
ボブと昼飯を食っていると、彼は突然そう言った。
キメる…… とは、うちの会社、スロープ社が先日正式に運用し始めた人間強化ウィルスのことだろう。
「いや、まだだ」
「早いところ打っといたほうがいいだろう。これが噂になれば、なかなか手に入らなくなるぞ」
「社内なのに?」
「非戦闘員に回す優先度は低めだ」
「そりゃそうか」
ボブ爺さんのように歳を食っていると、効果が出るまでに随分と時間がかかるかもしれない。
俺はまだ5歳なので、たぶんすぐに効果が出る。
代謝がいいからだ。
「けど、俺の歳で投与しても問題ないのか? メアリーは倫理的によくないとか言っていたけど」
「倫理は単なる個人の選択にすぎん。彼女も危険だとは言っていないだろう。大丈夫だ」
「そんじゃ、一応この後、打ちに行こうかな」
「それがいい」
ボブはそう言って、うまそうに最後のピザの1ピースを口に運んだ。
で、食事の後、俺はメアリーにも一応相談しておくことにする。
自分の身体能力を強化するというこのウィルス。今後、何かトラブルに見舞われて腕っ節が問われるようになってしまった時のためにも、是非取り入れておきたいところ。
何が起きるかわかんないしね。
「ジョニーさんが自分で選択したことなら、いいと思います。自分で選択したということですから」
「うん。メアリーを守ってあげたい」
「ジョニーさん……!」
俺はマリーに手配を頼み、その日の夕方、8Fにある実験室やってきた。
各々サブプロジェクトの研究実験をしている人もいるが、フロアの隅っこに、人工島にいる人が投与できるように、専用の設備がある。
俺は邪魔しないように静かに設備に近づいて、研究員にお願いをした。
「あのキッツいやつ頼むよ。最強の男になりたい」
「ええ! 本当ですか?」
「本当だ」
「わかりました。では、投与します」
椅子に座ると、上からアームが降りてきて、俺の腕を鷲掴みにした。
「楽にしてください。三つ数えたら注入しますからね」
「わかった」
「3、2」
と研究員がそう言った瞬間、ガチュン!と音がした。
「はい、終わりました」
「騙したな」
「でも、痛くなかったでしょ?」
「やれやれ」
俺は解放された腕をさすりながら、呆れた風に左上を見上げて見せたのだった。




