異変
トムに関して報告を上げてもらったところ、彼に対して興味深い話を聞くことができた。
彼はサメリア軍から引き抜かれたのだが、誰でもその経歴を見れば引き抜きたくもなるだろう。
数々の破壊工作に、破壊工作を伴う救出作戦。
単独から3人くらいまでの人数で、失敗なくやり遂げている。
罪状は政府高官ならびにその関係者含む12人の殺人、ということになっているが、これもどうやらハメられて作られたようなニオイがぷんぷんしている。
そういえば、ゲーム中でも彼の罪に対して言及されることはほとんどなかった……
まあこれだけの人材だ。スロープ社が声をかけなくても、他の誰かが手を差し伸べるだろう。
そうこうしている間に一ヶ月が過ぎ、そして二ヶ月が過ぎた。
マイケルのサブプロジェクトの実験を遠巻きに眺めながら、俺は少し暇を持て余していた。
「動物実験、どれも成功です!」
マイケルが嬉しそうに言う。
「いいね」
「それでですね、俺に、もう一つアイデアがあるんですが、それも試して進めちゃっていいですかね?」
「ん、予算が必要という意味か?」
「いえ、それに関しては特に。設備も薬品も余り物で何とかなると思いますんで」
「なんかあったら言ってくれ」
「ええ。頼りにしてます」
と、彼は上機嫌で新しいアイデアを試すことにしたらしい。
だが、俺は彼を見て別のことが少し気になっていた。
「マイケル、ちゃんと寝てるのか? 目が血走ってるけど」
「寝てますよもちろん。でもこう、アイデアがどんどん湧き上がってくるので、もうバキバキにキマってまして、頭がフル回転しまくってるとこうなるんです。よくあることなんで、あんまり気にしないでください」
「マリー、本当か?」
「ええ、まあ。大量のカフェインと糖分で無理矢理アイデアを出そうとしてる人はこんな感じになるよ。ここでそうなってる人を見たのは初めてだけど」
ふーむ。そこまで頑張らなくても時間はたっぷりあると思うのだが。
これと決まったら一直線に突撃する。研究者もしくは技術者あるあるなのかもしれないな。
外野としては一応釘を刺しておこう。
「マイケル、しっかり休んでくれ。時間も予算もたっぷりある。足りなければ俺が確保するから」
「ええ。でも大丈夫ですよ。ああっ! そうだ、すみません。ちょっとデスクで作業するので、俺はこれで失礼します!」
彼はちょっと不気味に笑い、変な鼻歌を歌いながら7Fへと戻っていった。
俺はマリーの顔を見上げ、怪訝な表情を向けた。
「本当にあいつ、大丈夫なんだろうな?」
「近いうちに寝坊して遅刻するかもね」
「いや〜。それくらいなら全然いいんだけど」
働き過ぎは害悪だ。
休暇制度に関して経営陣にかけあってみよう。




