涙袋
俺はジョン。ジョニーと呼んでいる人もいる。
20歳くらいでゾンビ化して死ぬので、それを阻止するためにゾンビウィルスが開発される未来を絶賛改ざん中なのだ。
今は、その改ざんしたウィルスの最終段階の実験をしているってわけ。
で、今、カプセルの水の中にいる細胞人体にウィルスが投与されたところ。
その細胞人体はテリヤキ氏のクローンらしいのだが、ウィルスが投与されたというのに特に何も起こらなかった。
「何も起きないので、何も起きなていないですみたいな顔をしていますね」
「ああ」
メアリーはちょっと笑った。
「変化はとてもゆっくりなので、そんなにすぐ変化は現れません」
「そりゃそうか」
いきなり筋肉がモリモリになったりしたらかなり驚きである。
「ウィルスが遺伝情報を書き換えているので、書き換わった遺伝情報が少しずつ広がります。そして、遺伝情報が変化するので、体がだんだん変化していくんです」
「なるほど」
そのために、カプセルの中にウィルスを投与されたその細胞人体がいるのだろう。これは生命維持装置であり、代謝させるための装置なのだ。
「細胞人体は死んでいるので、生きている人が食べるみたいな、ご飯を食べないです」
「うん」
「今、がっちりと細胞人体の腕をホールドしているアームから、ご飯を食べないので、ご飯の代わりになる栄養が、ご飯の代わりに注入されるんです」
「彼のディナーは?」
「私は栄養について詳しくはないので、栄養担当に栄養素を聞く必要があります」
これだけたくさんの知識を必要とする仕事だ。細かく役割分担をして専門化していかないと、学習コストが膨れ上がるばかりなのだろう。
この日、これといったトラブルもなく、実験は順調に進んだようだった。
研究員たちは、各々欲しい情報をサンプリングしてホロモニターに映し、テリヤキ氏の状態をチェックしたり、報告したりしていた。
「代謝が良くなって細胞が活発に入れ替われば実験が早く進むので、細胞の活動を活発化するための薬を投与しました。代謝が上がるんです」
「それって、俺にも使える?」
いわゆる逆コ●ン君ができないかと思ったんだよね。超速で成長して、5歳で20歳の肉体を手に入れる、みたいな。
「無理です。それは禁忌と言われているので禁じられています。だからこそ、不可能なんです」
「残念。……どうしてだろう」
「なぜですか。その理由を知りたい理由を知りたいです」
「早くメアリーと同じ背になりたいからさ」
俺がちょっと気障っぽく言うと、メアリーは頬を上気させた。
「気にしないでください。実は、私はしゃがむと顔の位置が低くなってしまいます。みんなそうだと思います。だから、私、ちいさなジョニーさんとぴったり顔の高さを合わせることができるんです」
そう言いながらメアリーがしゃがんで俺の両肩に手を乗せた。
「視線の高さが一緒で向かい合っていると、見つめ合ってしまいます」
彼女の顔を間近で見る。
薄く清潔な化粧、細かな皺の無い白衣の下のシャツ。
日に日に垢抜けていく。
昨日よりずっと、きみは綺麗になった。




