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共和国魔眼事件エルゼターニア-共和の守護者-【完結】  作者: てんたくろー
エクストラ・デイズ『共和国魔眼事件』
81/110

特務執行隊、発足前夜・3

「せぃっ……ぁあああっ!!」

「くっ!?」

 

 眩い閃光が軌跡を描いて迫り来る。エイゼスが発動させた『オーラ・ブレード』は、すさまじいエネルギーを秘めてエルゼターニアを襲っていた。

 ルヴァルクレークの柄で受け止める。こちらはこちらで『クイックフェンサー』によるプラズマの放出が行われているため、両者のエネルギーがぶつかり合い、交じりあって火花となってはじけ飛んだ。

 

「この、力は……!?」

「ぅおおおおおおおっ!!」

 

 『オーラ・ブレード』を防いだ瞬間、その威力の高さにエルゼターニアは片側だけの眼を剥いた。先程に比べても桁違いの強さだ。

 思わず後退りする。それを好機と捉えたか、エイゼスはがむしゃらなまでにプラスリムラスを振るい、連撃を重ねる。

 

「せいっ!! でやぁっ! プラスリムラス、押し切れぇぇっ!!」

「……威力の高さはっ、刀身に集中させているからかっ!」

 

 激しい攻撃を受け、どうにか防ぎつつもエルゼターニアは、突然跳ね上がった威力について推測していく──プラスリムラスのエネルギーは量産型ゆえ、ルヴァルクレークよりも出力は低い。だがその分、全エネルギーを刀身に込めたがゆえのこの威力なのだろう。

 

「その分、他は脆いッ!!」

「!?」

 

 当たりをつけて、即座にエルゼターニアは戦法を変えた。真正面から防ぐでなく、身体全体で回転しプラスリムラスを受け流すのだ。小柄な体型の彼女らしい、しなやかなスタイルへのスイッチである。

 これがエイゼスには覿面だった。元より威力の大小関わらず実直な剣筋、搦め手などまるでない生真面目な戦法を続ける彼にとり、戦い方を変えたエルゼターニアは相性的に最悪の相手と成り変わっていたのだ。

 

「ん、エル……ノッてきたね。一月前までの、エルらしい姿に戻ってきた」

 

 ハーモニが呟く。その顔は不敵な笑みを浮かべており、エルゼターニアの調子が段々と整っている現状に少なからず満足していることが見て取れる。

 隣でレインが、心配そうに問う。

 

「でも、右目が塞がってるのにそんな……やっぱり前よりは衰えているんじゃ」

「視界の半分が死んでることはもちろん、エルの動きをいくらか制限してるだろうねー。でもそこはさすがに場馴れしてるから、技術と経験とセンスでカバーしてる。うん……そこまで戦力ダウンはしてないよ、間違いなく」

「そう、かしら……」

 

 断言するハーモニだが、レインの表情は浮かない。眼前でエルゼターニアが猛攻を受けていること自体が、彼女には辛い光景だ。ましてや鬼気迫るエイゼスが振るうのは、量産型とはいえ電磁兵装なのである。

 見物人、それも戦いの心得すらもない彼女をしてさえ、本領を発揮したプラスリムラスの姿は威圧を受けるものだ。まさしく全身全霊を込めた攻撃なのだろう……本来亜人に向けられるべき威力が、今、人間の少女に向けられている。

 

 固唾を呑んで見守る。そんなレインとはうって変わって開発局のスタッフたちは密やかに言葉を重ねていた。

 

「『オーラ・ブレード』をここまでいなすか……やっぱり本家は違うものだなあ」

「使用者のスキルが高すぎるのもあるのでしょうね。エイゼスくんも相当なはずですが、それでもあれでは子供扱いです」

「さすが『共和の守護者』か。ルヴァルクレークの機能をろくに引き出すことなく戦って見せるとは……興味深い」

 

 寄り集まって分析するのは、エイゼスでもルヴァルクレークでもなくエルゼターニア。予想を超えた戦闘力を見せ付ける特務執行官に向け、彼らの興味は集中していた。

 何しろ彼女は今、ルヴァルクレークの性能をほとんど引き出していない。『クイックフェンサー』こそ発動させているものの、これは出力としては最低限の段階でも使用できるものだ。『電磁兵装運用法』においては事実上、使用に際しての制限が一切ない唯一の機能なのである。

 

 それに対してエイゼス。彼が今発動している『オーラ・ブレード』は、量産型電磁兵装であるプラスリムラスのフルパワーモードだ。亜人さえ打倒するための技であるゆえ威力は折り紙つきだが、今は『クイックフェンサー』しか発動していないエルゼターニアを相手に攻めきることができないでいる。

 ルヴァルクレークがそれだけ堅牢だということでもあるが、やはりエルゼターニアがこれまでに培ってきた手練手管が巧みなのだろう……鮮やかなまでにエイゼスを受け流す姿からは、見かけ通りの少女らしさでなく熟達した歴戦の戦士らしさが見えていた。

 

「しかしああなると、ルヴァルクレークのデータを取ることは難しいな」

「特務執行官の戦法も一応記録しておきますが、エイゼスくんにはあれは難しそうですね」

「そこは今後追加されるであろう、特務執行隊の他メンバーたちに期待だな。エイゼスくんはエイゼスくんで、今のスタイルのままプラスリムラスを扱ってくれれば良い」

「ですね。ふむ……プラスリムラスも戦闘スタイルに合わせたカスタマイズプランが必要ですね」

 

 あれこれと今後に向けて、更なる開発案を練る開発局員たち。共和国の平和と秩序を護るため、特務執行隊を万全の状態で発足させるために叡知を結集させているのだろうが……ハーモニやレインにはどうにも、彼らがそうした使命や責務以上に好奇心と探求心を重視しているようにも見える。

 

「いやあー楽しそうだねえ、あっちは」

「……自分たちの造ったもので、人が命を懸けて戦うのに」

「モチベーションが高いってことだし、悪いことじゃないんだけどね」

 

 苦笑に留めるハーモニはともかく、レインの方はそうした開発局の姿勢はあまり良く思えないらしく、美しい顔に眉を寄せ、小さく不満を漏らしている。

 言いたいことは分かる──国を護る者が命を託すための武器を、そのような興味本意で拵えられては信用しがたくもあるのだろう──ハーモニであったが、それでもレインはレインでお堅すぎる。

 その肩を軽く叩いて、ヴァンパイアは彼女を宥めた。

 

「結局のところしっかりしたものが出来上がってくれるんなら、過程や動機はどうでも良いもんだよ? 戦士には」

「……そういう、ものかしら」

「心掛けはもちろん大事だけどね。でも楽しむってのも大切だよ。楽しいから究めようとする人もいるわけだし……きっと、あの開発局の人たちのようにさ」

 

 その言葉にレインは、納得はしかねたが理解したようだった。軽く息を吐き、エルゼターニアに視線をやる。

 未だ攻防の最中。鮮やかに走る閃光のプラスリムラスを受け流して回避する、少女の姿がそこにあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 幾度もの攻防を経て、プラスリムラスを扱うエイゼスの焦りは、次第に大きなものとなっていた。虎の子の『オーラ・ブレード』を用いてさえようやく互角という現状は、彼にとってさすがに予想外の展開だったのだ。

 ましてや相手はルヴァルクレークを用いているとはいえ、『クイックフェンサー』しか発動させていない状態のエルゼターニアだ。明らかに全力でない相手に、こうまで攻めあぐねている──悔しさとも畏れともつかない思いで、彼は突き抜けるように叫んだ。

 

「プラスリムラスッ! 量産型でも電磁兵装ならば、せめて一太刀浴びせてみせろぉッ!!」

「くっ……!」

 

 対してエルゼターニアの方も、実のところそこまで余裕があるわけではなかった。身体能力を強化してなお、プラスリムラスの斬撃は激しく強く、そして早い。受け流しての防御に専念している今も、油断すれば防御ごと叩き潰されかねない程の気迫も受けている。

 素晴らしい逸材だと、少女は掛け値なく感じていた。エイゼスを無傷で圧倒するには恐らく、最低でもルヴァルクレークの出力を30%は解放せねばならないだろう。すなわち亜人を相手にしているのと同様に考えねばならないということであり、彼がそれ程までに強力ということでもある。

 

「……だからこそ、ここで負けてられないっすね、私もっ!」

 

 このような強い戦士が後釜に着くならば、己も負けていられない。特務執行官として、特務執行隊員となる彼に向け、前任の力を示さねば──燃え上がる心は少女の身体を咄嗟に動かした。攻防の最中、ボトルホルダーから素早くボトルを抜き取ってルヴァルクレークにセットする。

 一瞬の隙。そこを見逃すエイゼスではなかった。

 

「っ!! 今だ、電磁兵装ッ!!」

 

 明らかに何か、行動を起こそうとしている。そんな特務執行官を相手にこれ以上、悠長に攻めかねている場合ではない。そう判断したエイゼスの、構えが変化した。

 閃光を放つプラスリムラスを、腕を大きく回して円になるような軌跡を描かせる。美しい光の道が彼の頭上高くまで振り上げられて、彼は渾身の力で剣を握った。

 必殺剣──『オーラ・ブレード』から繰り出されるエイゼスの最強奥義が今、放たれようとしている。

 

「ここで決めるッ!」

「……来るかっ!」

 

 決着の一撃を放つ気概を感じとり、エルゼターニアは腰を落とした。一段と輝きを増したプラスリムラスが今まさに振り下ろされんとする刹那。

 彼女もまた、準備を整えていた。セットしたボトルによってルヴァルクレークの出力が解放されプラズマを放つ。狙うはエイゼスの隙、必殺を放った瞬間、すべての意識が攻撃に向けられる瞬間だ。

 

 緊張の一瞬。眩いプラスリムラスを掲げたエイゼスは、すべてを断ち切るような気迫で最後の一撃を放った。

 

「──『エイゼス・アブソリュート』ッ!!」

 

 まっすぐに、真下に一直線に閃光が走る。 プラスリムラスに込められたエネルギーがすべて、倒すべき敵へと向かう。

 すさまじい威力だと、一見して分かる。たとえ亜人とてこれを食らえばただでは済まないだろう、その直感は見物しているハーモニやレイン、ヴィア、ゴルディンにもあった。

 

「ルヴァルクレーク! 覚悟ォッ!!」

「……一つ、助言っす」

 

 さすがにそれ程の威力をエルゼターニア本人に向ける気はないらしく、ルヴァルクレークそのものに狙いを定めるエイゼスへ。特務執行官はぽつりと、短く呟いた。

 ──そのままルヴァルクレークの柄尻にて、『エイゼス・アブソリュート』の切っ先を受け止める!

 

「な……っ!?」

「敵は何でもしてくるものと、思うべきっすよ──『ルヴァルクレーク"エレクトロキャプチャー"』!」

 

 必殺を受け止めた瞬間、即座に放つはルヴァルクレークの機能の一つ。亜人捕縛用の電磁ネット『エレクトロキャプチャー』。対象に絡み付き麻痺させる絶対封印網は、亜人は元より人間相手にも有効だ。

 

「うううぅっ!? こ、れは!?」

 

 プラスリムラスにまとわりつくネット。不意を突かれての衝撃に、エイゼスの体勢が崩れ、動きも著しく硬直する。それをもちろん見逃すエルゼターニアではない。すかさず体勢を変えてルヴァルクレークの切っ先を彼に向け、完全なる『詰み』の状態を作り上げた。

 事実上の決着である。

 

「……終わりっすね」

「くっ──お見事、です」

 

 静かに告げるエルゼターニアに、悔しげに呻くエイゼス。

 電磁兵装同士による世界初のぶつかり合いは、こうしてエルゼターニアの勝利で幕を引いたのであった。

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