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共和国魔眼事件エルゼターニア-共和の守護者-【完結】  作者: てんたくろー
エクストラ・デイズ『共和国魔眼事件』
79/110

特務執行隊、発足前夜・1

 退院して特務執行課のオフィスに戻ったエルゼターニア。打倒『オロバ』の強い意志を表明しヴィアもまたそれを命じた後、さしあたり一同はソファにてゆったりと歓談していた。

 いくら気炎をあげようが現状、エルゼターニアは病み上がりだ。まずはゆっくりと日常を取り戻し、そこから次の戦いへの準備を整えることこそが肝要だった。

 

「とりあえずはしばらく、日常業務っすね……首都の巡回と亜人犯罪への対処と。勘を取り戻さないと」

「特にバトルのね。ほぼ治ったとはいえあれだけの怪我だし、もしかしたら何かしら後遺症とかあるかもしれないよ」

「怖いこと言わないでほしいっすよ。一応、平時の生活には何ら困ることはなさそうなんすけどね」

 

 嘯くエルゼターニアが、熱いコーヒーを一口、啜る。久々に飲むレインが淹れた一杯は、当たり前の日常に戻ることができた気がして格別に思える。

 隣でハーモニが同じくコーヒーを飲むのを横目にしながら考える──たしかに実際の戦いにおいて、何かしらおかしな感覚がありはしないか確認するのは重要だ。特に右目が、今は眼帯に覆われていることの影響がどれ程のものなのかは今すぐにでも確かめたい。

 

 ルヴァルクレークを用いての中距離主体の戦術において、大切なことは距離感の把握だ。『プラズマスライサー』や『エレクトロキャプチャー』などの遠距離攻撃を絡めつつ、『リパブリックセイバー』や『エクスキューショナー』による近・中距離から斬撃する。

 これがエルゼターニアの基本的な戦法なのだが、この基礎となるところに目視による間合いの調節があるのだ。それゆえ今現在片眼が塞がれた状態で一体、どれだけ戦えるのか……そこは未知数であった。

 

「今、こうしていても視野は狭く感じますし、距離感がちょっと違うなって思うこともあります。これが戦いとなるとどう影響してくるのか……たしかめるためにも、早めに軽く、模擬戦くらいはしておきたいっすね」

「じゃあ私とやろっかエル! リベンジマッチだ!」

「いや人の話聞いてもらえますかね!? 軽くっすよ軽く、リベンジとか怖いこと言わないでもらえます!?」

 

 バトルジャンキーの面目躍如と言うべきか、愉しげに闘志を燃やして滅茶苦茶なことを提案するハーモニに、エルゼターニアは叫んだ。

 リベンジマッチ──恐らくは初対面の時の戦いにおいて、エルゼターニアに敗北を喫したことを受けてのものだろう。ほぼ完全に勝っていたところを、僅かな油断と隙を突かれて逆転に持ち込まれた敗北を、ヴァンパイアの英雄は存外気にしているらしかった。

 

 とはいえ病み上がり、しかも片眼が塞がっているという重大なハンデがある状態で彼女と、たとえ模擬とはいえ戦うなど冗談でも笑えない話だ。

 そもそもエルゼターニアの知る中でも最強に近い亜人こそ、目の前にいるヴァンパイア・ハーモニである。そんな彼女と一戦交えるというのは、できることならば二度とやりたくないことだった。

 

 勢いに押されてなし崩しでまた、マニアックな体勢で関節を極められるなど御免被る。必死の形相でエルゼターニアは、ハーモニに告げる。

 

「正直ハーモニさんとはもう二度と戦いたくないんすよ! おっかない!」

「ええ!? い、いやその、さすがに今戦おうってのはジョークだけどさ、完治したら一回くらいよくない? ていうか勝ち逃げはズルくない?!」

「勝ち逃げも何も、ああいう形でしか勝ちを拾えなかった以上、もう何回やろうが私に勝ち目とかないっすし! 弱い者いじめは反対っす!」

「エルは弱くないじゃん! そこだけは断固として主張するよ!!」

「よしんば私が強くても貴女は遥か上を行くんすよ!? 自覚してもらって良いっすかねー!?」

 

 戦いたいハーモニと、戦いたくないエルゼターニアと。お互いの主張がぶつかる、じゃれ合いにも似た騒ぎ。当人たちはそれなりに真剣だが、第三者たるヴィアとレインから見れば何とも馬鹿馬鹿しい、それでいて微笑ましい光景で苦笑が溢れるものだ。

 

「右目はともかく、この調子だとすっかり治ってくれたみたいだなあ。良かった良かった」

「本当ですね……エルちゃんの楽しそうな姿、また見られて何よりです」

 

 しみじみと、可愛らしい少女特務執行官の元気な姿に言葉を残す。エルゼターニアが大怪我をして入院して以降、この特務執行課も暗い雰囲気であったのだが、彼女の復帰と共に空気は明るいものへと戻っていた。

 戻ってきてくれて良かったと、二人穏やかに少女らを見つめる。するとそんなところに、やって来る者がいた。

 

「お……! やっぱエルちゃんか、帰ってきてたんだな!!」

「はい? ──あ、ゴルディン部長!」

 

 唐突に名を呼ばれエルゼターニアが振り向けば、特務執行課オフィスの入り口、熊めいた髭面の大男がいる。治安維持局保安部長、ゴルディンだ。

 先の『魔眼事件』においては外周警備保安隊を指揮し、『クローズド・ヘヴン』のオルビス、ファズと協力して八方から首都に迫る亜人たちを食い止めた、共和国に平和をもたらした立役者の一人である。

 

 そんな彼は入室して、ヴィアの隣に座る。そしてエルゼターニアの姿を見るなり喜色満面に、低く渋い、それでいてよく通る声で言った。

 

「良かったっ! 本当に良かったぜ、退院できてよう。手足はもう、大丈夫なのか?」

「あ、はい。ご心配おかけしました」

「気にすんな気にすんな! ……そんでその、右目の方はどうなんだ?」

「そっちは……レンサスに仔細を聞くまではこのままっすね。変に解放して暴走なんかされても困りますし」

「そう……か。何事もなければ良いんだが、なあ」

 

 眉を下げ、哀しげに大男が呟く。予てよりエルゼターニアに対して何かと気にかけ、親身になって接しているゴルディンにとり、彼女が退院したのは何よりだが、『転移魔眼』を移植されたというのがひどく気がかりだ。

 

 もし、何かの拍子に右目がおかしな力を発動させてしまったら──

 そうでなくとも何かしら、後遺症や代償のようなリスクがあったとしたら──

 

 そう思うだけでゴルディンは心配で堪らなくなる。国を護るために文字通り死ぬまで戦い抜いた、こんな小さく健気な少女がこれ以上、酷い目に遭うなどあってはならないことなのだ。

 心配げなゴルディンを見かねて、当のエルゼターニア自身が励ましの言葉を投げ掛けた。

 

「大丈夫っすよ、部長! この一月、体の方はむしろ調子良いくらいなんすから!」

「そ……そうかあ?」

「はい! 何なら模擬戦でも一つやって、実際にどのくらい動けるまで回復したのか確認したいくらいっすよ! ハーモニさん相手はお断りっすけど!!」

「何でよー!?」

 

 冗談めかしての言葉に、多少だがゴルディンもホッとしたような気配を醸し出した。どうあれエルゼターニアはこうして退院し、元気な姿を見せている。ならばとりあえずはそれで良いのだ。

 そして今しがたの『模擬戦』という言葉に反応する。保安部長として、提案できることがあったのだ。

 

「模擬戦か……もしかしたらちょうど、お誂え向きの相手が来てるかもだぜ、エルちゃん」

「お誂え向き……?」

「おうよ、元々今日はそいつの紹介でやって来たのさ。おい、入ってくれて良いぞー!」

「──はい、失礼します!」

 

 一つ笑み、ドアの外へと声をかける。ゴルディンの指示に一つ、返事がなされた。

 同時に開かれるドア。入ってくる男。エルゼターニアよりか何歳か上の青年で、赤みがかった紫の髪が特徴的だ。顔立ちも悪くない。

 

 治安維持局員の制服を身に付けたその青年はゴルディンの傍にまでやって来て、そして勢いよく頭を下げた。

 

「初めまして皆さん! 私は、この度新設される『特務執行隊』の候補生になりましたエイゼスと申します!! よろしくお願いいたします!」

「特務……執行、隊?」

「え、何それ」

 

 元気な挨拶を行う彼、エイゼスに困惑しきりのエルゼターニアとハーモニ。見たこともなければ会ったことももちろんない、そんな青年と『特務執行隊』なる謎の名前。戸惑うのも無理からぬことだった。

 ゴルディンが立ち上がり、エイゼスの肩を叩いて二人を見やった。虚を突けたことに何やら得意げになりながらも、説明を始めた。

 

「一月程前だ。開発局が『電磁兵装』の量産化に成功したってニュースが国内を駆け巡ってたの、覚えてるか?」

「それは、はい。『魔眼事件』の直前でしたから。印象強いっすね」

 

 思い返すは冬の入り。新聞にて大々的に報じられた『電磁兵装』量産の報せを受けて、ハーモニや『焔魔豪剣』アインやそのパートナー・ソフィーリアと色々と話し合った記憶がエルゼターニアにはあった。

 そうした反応を受け、ゴルディンはうむと頷く。共和国が本格的に、対亜人用兵装を完成させる目処が立った今だからこそ、治安維持局も更なる一手を打つ必要がある。

 

「それでな、エルちゃん。その開発した量産型『電磁兵装』も特務執行課の管轄下で運用されることになったのさ──『特務執行官』の後継部隊、『特務執行隊』としてな」

「私の、後継……!?」

 

 思わぬ成り行きだった。『電磁兵装』量産が為された暁には徐々に、自分の役割も少なくなっていくだろうとは思っていたエルゼターニアだが、まさかここまで早く後釜の話が出てきているなどとは。

 そのこと自体は素直に喜ばしい──亜人犯罪に対抗できる者が増えれば増える程、共和国の平和はより磐石となるのだ──が、何しろ病み上がりの身では目まぐるしい進展に目が回るような思いだ。

 

 エイゼスと名乗った青年に目を向ける。笑顔ながら、どこか緊張した面持ちでこちらを見ているのがどうにも『新人らしさ』を感じさせていて、エルゼターニアも混乱しつつ曖昧に笑う。

 と、その隣でハーモニが挙手した。

 

「ちょっと質問ー! 部隊ってことは、そこのエイゼス? ってのだけじゃないの?」

「ああ。今は候補生が彼だけなんだが、いずれは複数人によるチーム制になる予定だ……何しろ量産型な分、今度の『電磁兵装』は出力が弱いらしくてなあ。エルちゃん程の力を発揮できない分、数でカバーするって話になっているんだ」

「あー……やっぱりオリジナルの再現はできなかったんすね」

「さすがにそこまではなあ。開発局の連中、半分発狂したみたいに悔しがってたぜ」

「は、ははは」

 

 呟くエルゼターニアに、ゴルディンは難しげに唸り、エイゼスは苦笑して頭を掻いた。半ば予想していたことだったがやはり、ルヴァルクレークを初めとする『電磁兵装』オリジナルの性能を完全に再現することは、共和国が誇るマッドサイエンティスト集団たる開発局の面々であっても難しいことのようだ。

 天才科学者クラウシフ。かつては『オロバ』にも在籍していたことが明らかになっている謎多き人物の、底知れない技術力と頭脳が改めて示された形でもあった。

 

 ごほん、と咳払いを一つ。保安部長ゴルディンは、改めてエルゼターニアに告げた。

 

「ともあれ、だ。もしエルちゃんが模擬戦したいってんなら、このエイゼスなんてのは中々ちょうど良いと思うんだよ俺は」

「そ、そうっすかねえ?」

「何しろ同じような武器を持ってんだから、使う側の技量ってのが計りやすいだろ? それにこっちとしても、現状のこいつがどこまでやれるのか知りたくもあるからな」

 

 ぽんと肩を叩く。ゴルディンの期待を受け、エイゼスはあえて不敵に、挑むように続けて言う。

 

「未だ未熟な私ですが決して、最初から負けるつもりで挑むことだけはしません。『電磁兵装』のエキスパートとして、どうかご指導いただければ」

「し、指導? できることなんかないっすよ、私ぃ……」

「矛を交える中で、気付いたことを指摘してくださるだけで良いのです。共和国を護る力を身に付けるためにも、是非!」

「う……わ、分かりました。私で良ければ、微力ながら……」

 

 共和国を護るため、と言われるとエルゼターニアとしても弱い。人に指導などしたことのない彼女だが、エイゼスの熱意に押されるがまま──ついには模擬戦を執り行う運びとなった。

 

 かくして『特務執行官』の、リハビリを兼ねた後進への指導が行われるのであった。

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