表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
70/110

vsレンサス、決死のエルゼターニア

 空を覆う巨大な蝶が消え、いつもと変わらぬ色を取り戻した共和国首都。

 その周辺にて繰り広げられていた、外周警備保安隊と亜人犯罪者との戦いは『クローズド・ヘヴン』の加勢もあり、人間たちの勝利という形で幕を下ろそうとしていた。

 

 既にかのS級冒険者たちの手によって、八方から迫っていた亜人たちがその六ヶ所を撃破されているのだ。大勢はもはや、揺るぎないと言って差し支えない。

 残る二つは南西部と北部。その内、南西部を侵攻してきていた亜人たちは、謎の『王国からの援軍』によって真っ先に倒されため実質的に北部のみとなる。

 

「どうにか、凌ぎきれたのか……!」

 

 極度の緊張から著しく解放されていく心地に、治安維持局保安部長ゴルディンは深く吐息を漏らした。

 未だ北部の戦線は継続中のため油断は禁物だが、そちらにも『クローズド・ヘヴン』が向かったとの伝令を受けている。首尾よくいけばそちらも間もなく決着が付くだろう。

 

「よく分からんあの蝶も消えたし、今一つ状況は呑み込みきれんが……ひとまず目に見える範囲、外部からの侵入は防ぎきったわけかな」

「そうなりますなぁ。いやはや共和国の保安ってのも大したもんですよ、実際」

 

 流れ落ちた汗を拭う、ゴルディンに声がかけられた。振り向けば見知らぬ男が一人、気さくに手を挙げてやって来る。白いコートの、筋肉質な中年だ。腕には仰々しい、手甲めいた装置を身に付けている。

 誰かは知らないがゴルディンには大体分かっていた──男から漂う歴戦の雰囲気が、およそのことを悟らせていたのだ。

 

「まともに亜人と戦える戦力……とは失礼ながら申せませんが、それでも専守防衛に努めれば十分に持ちこたえられる練度! いやはや、中々に素晴らしい」

「貴方は……『クローズド・ヘヴン』の方ですな? 早速のご協力、感謝に絶えません」

「いかにも『クローズド・ヘヴン』No.4、『プロフェッサー』オルビスです。そちらは保安部長ゴルディン殿とお見受けします。首都防衛役としてのお手並み、月並みながらお見事でした」

 

 固く、力強い握手を結ぶ。初対面ながらも互いに名誉ある地位にあり、しかも先程まで共に死線を潜り抜いた者同士だ。言葉を多く重ねずとも既に、戦友としてのシンパシーが両者の間には培われつつある。

 笑顔で讃え合いながら、ゴルディンとオルビスは続けて話し合う。

 

「これがあるいは第一波でしかない可能性も大いにあり得ます。オルビス殿には引き続き首都外周防衛ラインの巡回をお願いしたい……その前にまず、未だ戦闘の続いている北部が気になりますが」

「そこはご安心ください。私の同僚……同じく『クローズド・ヘヴン』のNo.6が向かっているはずです。性格には問題ありの若輩ですが、実力は当然S級冒険者のもの。この国の保安官たちと協力すれば、問題なく亜人たちとて倒せているでしょう──失礼、少し一服を」

 

 葉巻を咥え、火を着ける。一服しつつも断言するオルビスからは、弟子でもある同僚へのひねくれ気味な信頼が垣間見えた。

 『亜人の恐怖する姿に欲情する』という危険極まりない性癖ゆえに常日頃は厄介払いしがちなのだが、やはりここぞという時には信じて頼れるものなのだ。

 

「まあ、多少時間はかかるかも知れませんが。何しろあの坊やときたら、どうにも趣味と仕事を混同している節が──」

「何をいらないこと吹き込んでいるんですか、師匠」

「──今回は無かったようですなァ」

 

 噂をすれば影と言わんばかりのタイミングに、オルビスは片目を瞑って肩を竦めた。聞こえてきた声の先──今では同格にまで登り詰めた弟子が、苦笑しながら歩いてくるのを見る。

 金髪の、耽美な顔の作りをした美青年だ。腰には鞭など携えている。

 ゴルディンも続き彼へと声をかけた。

 

「貴方は……貴方がオルビス殿と共に来られた?」

「ええ、お初にお目にかかります。『クローズド・ヘヴン』No.6、『壊感』ファズと申します。以後お見知りおきを」

「ご丁寧に痛み入ります。私は共和国治安維持局保安部長ゴルディン。この外周警備保安隊の総指揮です……北部にいる亜人の、対応に向かわれたのかと。もしや既に?」

 

 名乗りを交わしつつ、北部について問う。侵攻中の亜人に対応すべく、『クローズド・ヘヴン』のメンバーが向かったというのは伝令にて聞いているが、それにしてはファズがここに来るのはいささか、早すぎる気がする。

 そんなゴルディンに、ファズは影一つない爽やかな笑顔で答えた。

 

「ええ。コボルトだったのですが……いくらか打っても大して良い反応をしてくれなくて。仕方ないのでさっさと終わらせましたよ」

「は、反応……?」

「ええ。普通顔の何割か吹き飛べば少しくらい怯むでしょうに、ずいぶんと冷静で──」

「具体的な解説はせんで良い、坊や。あーすみません部長殿。こいつの言うことはあまり、お気になさらず」

「は、はあ」

 

 心底からつまらなさそうに語るファズに、オルビスがストップを掛けた。そのままゴルディンに愛想笑いなど浮かべてくる。

 若干気にはなるが……オルビスの言を考えれば触れない方が精神衛生上、良いことなのだろうと彼は頭を掻いた。ファズが担当した戦線で捕縛された亜人たちの中に、伝令が顔を青くする程に負傷した者がいるらしいことからも、そちらの方が利口だと思える。

 

「……後は、『王国からの援軍』とかいう女二人だな。そんな話聞いて無いんだが、局長なら何か知ってるのかね」

「南西部を攻めていた亜人どもを瞬殺して、首都に入っていったとかいう手合いどもですな……追いますか?」

「ふーむ……」

 

 難しげに腕を組み、しばらく考える。謎の侵入者を追うか、追わざるか。微妙な話である。

 しかしてゴルディンはやがて、首を横に振る。

 

「……いえ、我々は引き続き外周警備を固めます。特にお二方に抜けられては、非常にまずい」

「第二波、第三波の警戒ですね? しかしそうなれば、件の謎の女たちは……」

「『特級王国賓客待遇証明書』を保持していたとのことなので、身元は紛れもなく王国の特級賓客でしょう。となれば事情に関しては後から王国を通して確認すれば良い。どうあれ彼女らが首都防衛に一役買ってくれたのも事実ですからね」

 

 『王国からの援軍』とやら──どうやら特務執行官エルゼターニアの知己らしいが、証明書を持っていたからには王国ゆかりの人物であることはまず間違いない。

 その上でこちらに利する行動を取ったことも事実なのだ。今ひとたび迫り来るかもしれない『オロバ』の亜人たちよりも危険度は余程低いと判断できる。

 

 ならばこちらはひとまず、目の前の首都防衛に専念する。ゴルディンの下した選択に、オルビスも頷いた。

 

「『豊穣王』が気を利かせてくれた可能性もありますわなァ。どうにもかの御仁、『オロバ』殲滅に相当気炎を吐いているようですし」

「そうなのですか? それは……心強いですな」

「まったくです。さぁて、それじゃあ俺たちは仕事の続きといくか、ファズ坊」

 

 依頼主たる共和国の、現状において最高責任者とも言えるゴルディンが決断した。ならば『クローズド・ヘヴン』もそれに従うまでとオルビスは首を鳴らす。

 ファズの背を一つ、強く叩く。それなりの衝撃だろうに慣れているのか、咳込むことなく青年は微笑み返した。

 

「見回りですね、分かりました……はあ、今度はもう少しヤり甲斐のある亜人が来てくれたらなあ」

「お前もう口閉じてろ……ったく。お前じゃなくて他の奴と組めてたらなぁ」

「それは言い過ぎじゃないですかね、師匠?」

「言いたくもなるんだよ、弟子」

 

 軽口を交わす師弟にして同僚。何だかんだと強い絆で結ばれたS級冒険者二人が、引き続き対亜人のために行動を続けるのを、保安部長ゴルディンは祈るように見送った。

 

 もうじき夕暮れとなり、日は段々と地平の果てに沈んでいく。

 もうこれ以上、何も起きてくれるなと──彼は、そう願うばかりであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな一方で首都中心部、全国議会議事堂内では死闘が繰り広げられていた。

 

「──いい加減しつこいんだよ、ガキがぁっ!!」

「『ルヴァルクレーク"クイックフェンサー"』ッ!!」

 

 激怒、憎悪、殺意。ただただ命を奪うために伸びる爪は、そんな邪念ばかりを込めてエルゼターニアを狙う。

 それをルヴァルクレークの力にて強化した身体で回避する──50%。ただ動くだけで、発現しているプラズマが己の身を裂く出力だ。

 

 返す刀で敵を見据える。スモーラの、見かけは子供だが中身は600歳の男、レンサス。何より今にも全国議会へ突入し、虐殺を引き起こそうとしていた凶悪犯罪者だ。

 セットされているいくつものボトルの力を引き出す。一年以上もの間、ひたすらに踏んできた場数、積んできた経験がここにきて複数能力の同時行使を可能としていた。

 

「『ルヴァルクレーク"プラズマスライサー"』──『"エレクトロキャプチャー"』ッ!!」

「! ちいぃっ!!」

 

 プラズマの光刃が無数に形成されレンサスを狙う。一撃とて喰らえば終わりの、威力と追撃性能に優れた大規模攻撃だ。

 加えて捕獲用の電磁ネットも柄尻から放つ。弧を描くような軌道の『プラズマスライサー』とは裏腹に、まっすぐレンサス目掛けて突き抜ける。

 

 即興のコンビネーション──『エレクトロキャプチャー』を避ければそこを光刃が襲う。避けなければそのまま捕縛できる。

 これもまた、一年以上の修羅場の果ての技術だ。エルゼターニアの、特務執行官として歩んできた道のすべてが今、レンサスを止め国を守るための力へと結実していた。

 

 しかし敵もさるもの。レンサスはそうした思考を読んでか鼻で嗤い、その場で足を止めた。当然迫る『エレクトロキャプチャー』をも見据え、叫ぶ。

 

「舐めんな人間風情が……! 僕はただの亜人じゃない、奇跡の力があるんだよっ!! 『停止魔眼"オンリー・ユー"』!!」

 

 左目が虹に煌めき、宿る力を発動させた。『魔王』の力、『停止魔眼』──あらゆるものを停止させる『ストップ』の能力である。

 もはや直撃する寸前での発動。一切動かぬ電磁ネット。それを見てエルゼターニアは、すかさず光刃による追撃を掛ける。

 

「『プラズマスライサー』! 切り裂けぇっ!!」

「無駄だ! 他ならぬお前自身の力が今、僕を護っている!」

 

 吼えるエルゼターニアの意気と共にレンサスへ向け、四方八方から襲い掛かる『プラズマスライサー』の刃。

 しかしレンサスの勝ち誇りの通り、結果は芳しくないものだった。

 

 今しがた停止させられた電磁ネットがそのまま、少年の壁となって特務執行官の追撃を防いだのだ。

 亜人捕縛用の粘着性が、皮肉にも彼の絶対防御シールドとして悪用されたのである。

 

「予測通り!」

「何……っ?」

 

 しかしてエルゼターニアは一切怯むことなく駆けていた。電磁ネットも光刃も防がれる事態など、最初から作戦として組み込まれていたのだ。二段構えどころか三段構えのトリプルコンビネーション。

 プラズマが一際発生し、ルヴァルクレークの鎌の刃を強化する。先程、ハーモニと共に仕掛けた時は防がれた──けれど今、『エレクトロキャプチャー』と『プラズマスライサー』の分のエネルギーもまとめて叩きつければ、あるいは!

 

「っ!? 『防御魔眼"ドント・リーヴ"』ッ!!」

 

 咄嗟に切り札たる『防御魔眼』を発動させ、両目を虹に輝かせるレンサス。同時に彼の周囲に防御層が発生し、その身体を護る。

 それさえも予想通りだ──エルゼターニアは、思い切り横薙ぎにルヴァルクレークを振るった!

 

「その防御ごと叩き斬る──! 『ルヴァルクレーク"エクスキューショナー"』ッ!!」

「ぐっ──!?」

 

 渾身の一撃。一つだけでなく三つのボトルを組み合わせた、特大エネルギーをまとめて叩き付けての超威力。

 『エクスキューショナー』の刃は光刃も電磁ネットをも己の破壊力へと転換し、防御魔眼を発動したレンサスへと直撃したのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ