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共和国魔眼事件エルゼターニア-共和の守護者-【完結】  作者: てんたくろー
打ち破れ信仰、少女とヴァンパイア
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神の徒の憐れみ、怒れるは復讐者

 特務執行課の馬車は結局、町を通過することもなくそのまま首都に向け走り始めた。決戦終えて午前も半ば、今から向かえば夕方には到着する。

 もはや抵抗する気概は無いにせよ、クラバルを早々に治安維持局本部に引き渡したい思いがあってのものだった……亜人犯罪者を確保した以上は即座に引き返す。一刻も早く人々を安心させるための、それも特務執行課の役目だ。

 

「特務執行官がいること自体、その地に不穏があるってことっすからね。休暇でもない限りはやることやったらすぐ帰る、これも仕事の内っす」

「徹底してるなあ……プロの仕事だね、エルゼターニアちゃん」

「何しろルヴァルクレークの見た目もあってか、死神みたいに扱われることもありますから。変に煙たがられるよりはさっさとホームに戻った方が、お互い気楽っす。あと私のことはエルで良いっすよ、アインさん」

 

 感心するアインにエルゼターニアは柔らかくも微笑む。首都へと向かう馬車の中、暇に飽かして雑談がてら、特務執行官のあれやこれやを話しているのだ。

 エルゼターニアを挟むようにしてハーモニとレインが座り、対面にてアインとソフィーリアが並んで座っている。更に車内の簡易ベッドにおいては、すっかり戦意も失せたクラバルが拘束を受け、疲れ果てて眠りこけているマリオス、リアスの兄妹と共に横たわっていた。

 

 ふとアインが神父に顔を向け、告げる。

 

「エルちゃんやハーモニが戦闘不能の今、僕がこの馬車の護衛とクラバルさん、貴方の監視役です……無いとは思いますが変な真似しないでくださいよ?」

「分かっています。私は法の裁きを受け、すべての罪を償いましょう──エルゼターニアさんのお陰でようやく、私は逃げ続けずに済む」

「クラバルさん……」

 

 穏やかに、清々しささえ感じさせる神父クラバル。歪んだ夢と理想を胸に、もはや己では止まれなくなってしまっていた男は今、ようやく立ち止まって己の所業に向き合い始めていた。

 それに、と苦笑いと共にアインへと答える。

 

「そもそも貴方を相手に喧嘩を売ろうとは露程にも考えられませんよ──『プロジェクト・魔剣』を阻止した新時代の英雄、『焔魔豪剣』。あの天使二人とレンサスを纏めて圧倒した実力は見事でした」

「まあ、今回は奇襲みたいなものでしたからね……僕が星の端末機構の一員だってことも知られたし、いよいよ奴らとの戦いも本格化するかなあ」

「彼らからすれば貴方が星のバックアップを受けているなど、青天の霹靂も良いところでしょうからね。私も正直、信じがたい思いでいます」

 

 率直な言葉に、アインはふうむと考え込んだ。クラバルの言う通り『オロバ』の者たちもまさか、ただの人間が星による無限のエネルギーの補助を受けているなど思いもしなかったことだろう。

 

 星自身の、世界そのものをより永く存続させるという目的のために現世に遣わされる星の化身、端末機構。

 『オロバ』も星の端末機構については把握していたのが、アインがその一員となったことまでは知らないでいた。彼がそこに至った『魔剣騒動』最終局面においては王国南西部の『オロバ』も壊滅状態に陥っており、詳しい顛末を組織に伝える者がいなかったためである。

 

「組織はどちらかと言えば『勇者』を特に恐れていましたが……今回の件を受けて『焔魔豪剣』、貴方の脅威度も跳ね上がるのでしょうね」

「あ、やっぱりあの人、恐れられてるんだ……」

「ええ。レンサスなど、かの者がこの国に来た場合、その時点で国外へ逃亡するとまで言っていたそうです」

「レンサスを含めた『オロバ』大幹部たちを一人で圧倒してたらしいから、そうなるよなあ。やっぱりすごいや、あの人は」

 

 自身についてよりむしろ、師たる『勇者』セーマについて嬉々として話すアイン。『魔剣騒動』最初期に命を助けられて以降、彼はセーマに鍛えられ導かれ、そして助けられてきた。

 そんな少年にとって『勇者』が敵の最大級の警戒対象として恐れられていることは、偉大な憧れが正しく評価されているようで、我がことのように嬉しいのである。

 

「『勇者』セーマ……怖かったなあ、あの人」

「知り合いなんすか? ハーモニさん」

「私の師匠、アリスさんの……ご主人様? って奴らしくて。いつものスキンシップがてらアリスさんに奇襲を仕掛けたら、居合わせたその人にわずか数秒で、死ぬ寸前まで痛め付けられちゃった」

「……ハーモニさんを数秒で半殺しに!? え、人間っすかその人!?」

 

 驚愕してエルゼターニアが叫んだ。ハーモニの実力はよく知っている……ヴァンパイアの英雄として相応しい強さを誇る、今までに見てきた亜人たちの中でも屈指の強者だ。

 ダメージを受けてさえいなければ、あの『オロバ』の天使エフェソスやトリエントとも互角以上に戦えただろう程の彼女を、『勇者』とやらはたったの数秒で殺しかけたという。

 

 アインの師であることから敵では無いのだろう──奇襲を仕掛けたと言った辺り、半殺しにされたこと自体はハーモニ自身に非がありそうだ──が、さりとてどうにも人間とも思えず困惑する。

 そんな彼女に、ソフィーリアが苦笑して答えた。

 

「セーマさんは亜人ですよ、エルさん。王国南西部の大森林に館を構えて、亜人のメイドさんたちに囲まれて過ごしている『出戻り』の方です」

「は、はあ。亜人の、メイドさん?」

「ていうかハーモニ、アリスさんの弟子なんだ。リムルヘヴンの姉弟子的な?」

「リムルヘヴンとも知り合いなんだね、アインさん……そう言えばアリスさんが前、ちょっとだけ貴方の話をしてたようなしてなかったような」

「え、何それ怖い! アリスさん、何て言ってたんだろう」

 

 亜人のメイドを侍らせる『出戻り』の亜人。そのような、一言に言えば意味不明な来歴に理解が追い付かず首を傾げるエルゼターニア。一方でアインとハーモニは互いの交遊関係に一部、重なるところがあるようで話が弾んでいる。

 

 束の間の平穏。

 走り続ける馬車の中、エルゼターニアたちはこのようにして、新たな仲間であるアインたちとの交流を深めていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──エフェソスの具合はどうだ?」

「問題ない。全身焼かれはしたが……一週間もすれば行動は起こせる」

「そう、か……」

 

 深刻な面持ちで俯くレンサスに、トリエントは掛ける言葉が見当たらなかった。彼自身、まったく同じ気持ちでいたのだから当然だ。

 『オロバ』共和国支部。すなわちレンサスによる『ミッション・魔眼』を進行させるための拠点にて、二人はすっかり意気消沈していた。

 

「……人間が星の端末機構だとか、何の冗談だよ」

「……」

「星が、人間に力を貸し与える? そんなことあり得るのかよ。なあおい、トリエント。どうなんだ」

「それ、は」

「お前ら『天使』なら分かるはずだろ……っ! お前らの『神様』とやらも元は、星の端末機構なんだからなぁっ!!」

 

 激昂してトリエントに掴みかかるレンサス。当然八つ当たりだと自認しているが、どうしても苛立ちと焦燥が抑えられなかった。

 

 加えて天使たちならば、星が人間に力を与えることが果たしてあり得るのか否か、あるいは知っているかもしれないという思いもある。

 天使たちが種族単位で崇め仕える至高の存在、『神』と呼ばれるその者が──『魔王』や『焔魔豪剣』同様、星の端末機構が一員であるがゆえに。

 しかしてトリエントは首を横に振り、沈痛に答えた。

 

「我らが『神』は……端末機構にして端末機構にあらず。星の化身として発生してすぐ、その役割のために星から離脱なされたのだ。星そのものの思惑など御存知のはずもない」

「ちっ……超自然や神秘、この世の超越的な事象すべての象徴として、知的生命体の宗教や哲学思想の発展に寄与するための端末機構……とかなんとか抜かしてたな」

「左様。宗教や思想体系の異なりにより形や名称、内容は変わるが……あらゆる者が思い描く『神』、ないしそれに通ずる絶対者のイメージの源泉とはすなわち、我ら天使の仕える御方に端を発するものである」

「星の端末機構の中でも特殊な立ち位置のため、星からも離脱して異空間に君臨している、か」

 

 己たちが崇拝する『神』について、一通りその正体を語る。

 星の端末機構として生まれながらも、その役割のため早々に星との関わりを絶ち異空間に揺蕩うこととなった存在──それが『神』であり、そんな神に仕えるのが亜人種『天使』だった。

 

 遠い昔に星から独立し、そしてそれ以降は異空間に揺蕩うばかりの、存在することそのものに意味がある最上位端末機構。

 それゆえに星の意志、ましてやアインに力を与えた意味など知る由もないのだとトリエントは告げる。

 

「神は全知全能にして無知無能。何もかもが御業にして何もかもが不可知不可能──夢見るばかりの白痴の天帝。星が何を思い何を為したかなど御存知のはずがない」

「じゃあ、お前個人はどう見る。何故星は、あんなただのガキに力を与えた。何故あんな小僧を端末機構とした!?」

「……それは、やはり相手がお前たちだからだろう、な」

 

 若干の言い淀みの後、天使は神に依らぬ己の考えを話し始めた。星が人間に力を与え、対『オロバ』の尖兵とした理由。

 ──そんなもの一つしかあるまいと、言い放つ。

 

「お前たちが……『オロバ』が目指しているものが、星にとって不都合なものなのだろう。人間に手を貸すことさえ選ぶ程に」

「馬鹿な……『オロバ』の目的は星と敵対する性質のものじゃないはずだ。不完全かつ愚かな星の寄生虫、すなわち人間どもの進化を引き出し福音をもたらす──『新人類』の創造が、どうして不都合なものになるんだ」

 

 レンサスは認め難いと首を左右に揺らした。

 このスモーラ自身の目的はともかくとして、『オロバ』そのものの目指すところとは人間の進化を促すことにある。

 無駄に数だけ多い、脆弱で愚かで星を脅かす寄生虫。その癖放置すれば無数に増え、地上を我が物顔で占拠し、亜人種を追いやりおぞましい繁栄を遂げる、それが人間だ。

 

 彼らの蛮行を止めなければならない──そんな思いであの首領は組織を立ち上げたとレンサスは聞いていた。他の幹部も同様だ。

 彼らを進化させ、新たなる亜人種『新人類』に至らせることでそれを為す。人間とはすなわち亜人のでき損ないで、それゆえに亜人に対すべくおぞましい文化文明を発展させたのだ。

 

 人間を『新人類』へと導けば間違いなく他の亜人種同様、身の丈に合った生き方を選ぶだろう。

 『オロバ』とはつまるところ、星の寄生虫に手を加え無害な種へと変じさせることにより、恒久的な世界平和を実現させんとした組織なのであった。

 そのような成り行きを話すレンサスが、続けて言う。

 

「『新人類』が発生して既存の人間どもを駆逐すれば、それは星にとっても良いことだろう! 散々に好き放題してきた連中が大人しくなるんだからな! 違うか!?」

「違わない。違わないが……それはお前たちの前提とする理屈が、合っていればの話だ」

「何……!?」

「『人間は星の寄生虫、ゆえに星は人間を疎んじている』──本当か? 間違いなく星の意志はそうだと言い切れるのか? ならば何故、星は今回お前たちと敵対するような行為に至った?」

 

 天使トリエントの、それは以前からの疑問点だった。『オロバ』が星を想い行動しているにしても、そもそも星の考えるところとは異なっているのではないか。

 役割のため、一時的に『オロバ』に参加しているもののその理屈には疑問符を抱いていた彼が、ここぞとばかりにそれを言い募った。

 

「もしやお前たちは何か、致命的な思い違いをしてはいないか? 人間とは本当に星の寄生虫なのか? あるいは『新人類』の創造とは──本当に星のための行為なのか?」

「……」

「私にはな、レンサス。『オロバ』がどこか、根本的なところで破綻している気がしてならない。掲げている理想と理屈、そして実際に行っていることと、それによる結果とがそれぞれすべて微妙にズレている。気付いているだろう、お前も」

「……さあな。そんなこと、僕の知ったことかよ」

 

 目を逸らしてレンサスは答えた。何よりも明らかなその反応が、彼の思いを物語っていた……『オロバ』がちぐはぐだと。

 それでも関係ないと少年は、憎悪に駆られた表情で言う。

 

「組織の思惑なんか知らない……僕は僕の目的を果たすために、『オロバ』の目的を手伝うまでだ。力を貸してくれた首領に、僕は感謝している」

「……レンサス」

「この地の人間どもを根絶やしにしてやる。僕からあの人を奪った外道どもを根刮ぎ、苦しめて殺してやるんだ……! そのためなら僕は何だって構いやしない!!」

 

 狂気さえ纏った憤怒の相は、どこか泣くことを我慢している幼子のようにも見える。

 トリエントは肩を竦めた──是非も無し。天使とて『オロバ』やレンサスに肩入れしすぎる理由もない。彼らは彼らの目的のため、ただただ邁進するのみ。

 

「これは敵討ちだ……! この地の虫けらどもは、たとえ乳飲み子とて構わず殺し尽くしてやる!! 特務執行官も『焔魔豪剣』も、もはや止めさせないぞっ!!」

「……哀れ、な」

 

 それでもトリエントは憐憫を抑えきれず、レンサスを、復讐に走る狂える子供を見詰める。

 魔眼を巡る共和国の騒動は、今まさに、嵐の前の静けさを迎えんとしていた。

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