オアシス解放戦線、英雄たちの戦い・6
本日二度目の更新ですー
セーマによるヴィクティムの極光が、砂漠の大地を穿ち貫いた後。すぐさまエルゼターニアたちは『オクトプロミネンス・ドライバー』に乗り続けたまま、上空から中央オアシスの首都を目指して突き進んでいた。
邪魔者は一切ない……元より空、有翼亜人でもなければ手出しのできない場所である。加えて『勇者』の一撃によって動き出したと思われる別動隊の面々が派手に暴れているため、そちらへの対処に追われているのだろう。そうした気配を感知してセーマは現状を告げる。
「別動隊は順調だね。関所の連中は全員気絶させたからともかく、それ以降にもそれなりに人間がいるようだけどスピードは維持したままだ。派手にやってるみたいで、技が飛び交ってるよ」
「見てるも同然っすね、何だか……普通の『気配感知』じゃそんなとこまで分かんないと聞きますが」
「本当に特別なんだよ、セーマさんは。この程度で一々驚いてたらその内、心臓止まっちゃうかも」
「そんなに!?」
嘯くアインに抗議めいた声のセーマだが、エルゼターニアもどちらかと言えばアイン寄りの意見だ。
あまりにも次元が違うということを、眼前でまざまざと見せつけられた。広大、かつ精緻な性能の『気配感知』もそうだが先程のヴィクティム──この剣もどこから出てきたのか分からない──を用いたエネルギーを放つ攻撃のすさまじさは、きっと一生忘れられないだろうと特務執行官には思える。
これが『勇者』。10年続いた戦争を、終結に導いた先の時代の大英雄。
畏怖の念も強く見つめていると、セーマはひとつ笑って、さてと話を切り替えた。
「ここから先、二人には首都を目指して進んでもらうわけだけど……どうやら俺は、この辺でお別れみたいだ」
「えっ?」
その言葉に驚くエルゼターニアとアイン。いきなり別行動を取るという彼は遠く、砂漠の果てを見据えている。まるで何か、誰かを待つように。
アインがふと気付き、静かに問うた。
「……何か来るんですね? セーマさん」
「ああ。空を飛んで一目散にこちらに向かって来ている。たぶんだけど『不死魔眼』、シーラって子だろうな。気配はあくまで人間のものだし」
「シーラが、ここにめがけて……!」
予想していたよりも早い行動。しばらく別動隊の方に対処すると思っていたのだが、セーマの一撃を受けてかこちらをより危険視したらしい──シーラが来る。
見れば微かに青空の中、太陽ではない炎が見えてくる。半月前にも見た『不死魔眼』の火炎、鳥の姿だ。すさまじいスピードで迫る。
「っ、来た、シーラ!」
「あれが『不死魔眼』の炎か! すごい、本当に鳥の形をしている!」
焦るエルゼターニアと興味津々のアイン。二度目ゆえ『不死魔眼』の脅威への警戒が先に立つエルゼターニアと、初見かつ似たような能力のため好奇心が先に立つアインとの違いが如実に反応に現れている。
そんな対照的な二人に微笑みつつも、セーマはヴィクティムを構えた。若者二人は更に先のステージで為すべきことがある。今この場は、己が受け持とう。
「二人とも、ここは俺に任せて先に行け」
「セーマさん……っ」
「多少早まったが予定通りだ。君たちはこのまま首都で、敵の首魁を打ち倒すんだ!」
「……分かりました、頼みます!」
告げる勇者に頷く英雄たち。この場は彼に任せて、自分たちは自分たちにしかできないことを、成し遂げる!
『オクトプロミネンス・ドライバー』は更なる速力を発揮する。アインの意気込みに触発されて、出力が増大したのだ。必然、迫り来る『不死魔眼』の炎鳥との接触はより早まって──
『"不死鳥ファイアーバード・アタ──』
「ヴィクティム、叩き落とせ」
『──ふぎゃあああああっ!?』
──そのまま炎にて攻撃しようと突進してきたシーラを、炎竜から飛び出したセーマがヴィクティムの一閃にて迎撃した。炎をまるごと、遥か眼下の砂漠へと叩き落とす。
超常なる存在でさえかくも一方的にあしらう、そんな『勇者』はシーラを追って大地へと降下していく。常人であれば亜人とて即死ものの高度だが、彼ならばもちろん無傷なのだろう。ここまでに見たいくつかの出鱈目な力から、エルゼターニアにはもはや何ら疑うところはない。
であれば。ここから先、自分たちの見据えるはただ一点。
「アインさんっ!」
「分かってる! 『オクトプロミネンス・ドライバー』ッ!!」
中央オアシスユートピアの本拠地たる首都へ向かい、国一つを悪辣な方法で乗っ取った首魁を倒し、捕らえることのみ。
『共和の守護者』と『焔魔豪剣』を乗せた炎竜はこれまで以上のスピードで一路、目的地へと突き抜けるのであった。
『不死魔眼』シーラが関所を突破してくる敵の一団を無視し、まったくの逆方向にいるエルゼターニアたちを即座に標的としたのには、いくつかの事情がある。
まず第一に彼女はその時、中央オアシスユートピアの首都にいた。ヴィクティムの放つ極光がオアシスの空を貫いていくのを、地上から見上げていたのだ。単純に関所まで行くには距離が離れていたのである。
次いで第二、光を放った『何者か』の位置が存外、首都に近いであろうことを彼女は本能的に悟っていた。率直に言えばあまり頭の回る方でないのだが、その分本能的な、野生の勘めいた直感力をシーラは備えている。そしてその直感に、己の行動を委ねる胆力も。
そして第三──実質的にこれこそが最大の理由だが。つまるところ彼女は戦慄したのである。
『何者か』の一撃が、過去最大級に危険な代物であることを予感して、即刻対処しなければならないと理解したのだ。しなければこの日、中央オアシスユートピアは崩壊する。そんな確信をも抱いて。
「──くっ!!」
ゆえにシーラはすぐさま己の頚をナイフで掻き斬った。鋭い痛み、吹き出る鮮血。失われていく何か大切なもの。
そして倒れていく体が、たちまち燃え上がる炎へと変じていく。
「ふ、し、魔眼──』
オアシスの町中、人もそれなりにいる往来で一人、シーラが死ぬ。けれど誰も何も反応しない。できない。既に『魅了魔眼』にてこの町のすべてが掌握されて意識を半分、眠らされている。だから目の前で死に、そして再誕していく少女など気にも留めない。
炎の鳥へと新生する。いつものように少女は、己の命を使い捨てた。
『"リインカーネート"! さあ、空の上空にいるよく分かんない謎の正体不明な敵へ! いざ!!』
文脈の狂った台詞を高らかに叫び、火の鳥はすさまじいスピードで上空へと飛び立っていった。すべては『閣下』、中央オアシスユートピアを統べる偉大な指導者を守るために。
「……ぐっ、がっ!? ぺっ、ごほっ! か、はっ」
──それがつい先程のこと。だが今、彼女は広大に広がる砂漠の砂、いくらかを舐める憂き目に遭っていた。理解不能の衝撃に叩きのめされ、天空から大地へと墜落したのだ。
ことここに至れば『不死魔眼』による炎化も解除され、元のシーラへと戻っている。
まるで理解できない。自分はたしかに攻撃を仕掛けた。『不死鳥ファイアーバード・アタック』。炎に乗る三人組へと、出会い頭に必殺を見舞ってやったはずなのだ。
焼き殺せたはずなのだ。だというのに現実は、シーラがただ一人墜落して砂を噛み、咳き込んで涙目になっている。何故だ。
「ぐ、ぅ……? な、に? 何が、どうして、こうなって……?」
「──話には聞いていたが、本当にまだ若いな」
「っ!?」
混乱するシーラの頭上から聞こえる声。咄嗟に臨戦態勢を取る彼女など気にもしないように、『それ』は少し離れた地点に着地した。
相当な高さから落ちたにも関わらず、衝撃が一切起きていない。叩き付けられたも同然の勢いだったはずだが、『それ』はまるで、ちょっとばかりの段差を飛び降りたくらいの感覚で気軽に大地へと降りたってみせたのだ。
「先程の炎は……あれが『不死魔眼』か。俺たちに仕掛けるために一度、死んだんだな。何てことをする……」
中肉中背、黒髪黒目のどこにでもいるような見かけの少年。本当にそこかしこの町で当たり前に見られそうな、ごく普通の見た目をしている。
けれど既に少女には分かっていた。この男が先程、砂漠の空を光で満たした張本人だ、と。仕込まれた『不死魔眼』を通して見る男から放たれるエネルギーの量がすべてを物語っていた。あまりにも異常なのだ……エネルギーそのものが人間の形をしているのではないかと、そんなことさえ考えてしまう程に。
「あ……あんた、一体」
掠れる声で問う、誰何。いかな『不死魔眼』を持つシーラとて、理解せざるを得ない。
目の前の男には勝てない。殺される。いや殺されるだけならまだ良い。『消される』。
この世から、文字通り消滅させられてしまう。通常ならばあり得ないことだがこの男ならばやってしまえる。不死を、消し去れる。
がくがくと身体が震えてくる。死などより余程怖い『何か』を引っ提げてきた、化物だ。目の前の男は。漠然と直感し、シーラは怯え震えた。
男は一貫してこちらに向け、哀れむような悲しむような視線を投げ続けている。そして誰何を問われたことで、彼は、やるせなさも露に己を告げた。
「セーマ。共和国は『特務執行官』に協力している者だ。これでもかつては『勇者』なんて呼ばれていた男だったりするよ……よろしく、シーラ」
「っウチの、名前を!?」
「聞いているさ『不死魔眼』。たった一つのかけがえのないものを、奪われ続けている哀しい女の子」
声音は常に痛ましく、シーラを慮り労るような優しさが含まれている。それが却って薄気味悪く、少女は身構えた。
『特務執行官』の協力者。つまりは共和国の一味の仲間と言うことだ。そう言えば先程攻撃を仕掛けた三人組に、半月前に見た女がいた。アレの一員なのだろう。
どうしたところで敵だ、目の前の男──セーマは。
腰のナイフを手にする。いつでも斬りかかれるように軽くしゃがみつつ、シーラは怖じける己を克服するように吠えた。
「何さ、気持ち悪い! ウチが何を奪われてるって? 逆に奪うんだよ! この眼を使って全部失くして、そしたら全部手に入ってウチのすべてになるんだ! 『閣下』はそう教えてくれて言ってた!!」
「……その言葉遣い。生来のものじゃないな? 『不死魔眼』のエネルギーが見える……頭部に負荷が掛かっている」
すべてを無視し、セーマは眼を凝らした。改造によって強化され、亜人の限界さえ遥かに凌駕している視覚がシーラの現状を正確無比に読み取る。
『不死魔眼』であろう仕込まれた瞳から、莫大なエネルギーが放たれている。マオやアイン、そしてエルゼターニア同様の無限エネルギーだ。だが彼ら彼女らと違い、一切の制御が為されていない。完全に垂れ流しの状態なのだ。
明らかに人の身に余る力が、まったく抑制されずに常に放出されている。その負担たるやどれ程のものだろうか。
ましてや根源が瞳である関係上、直近にある脳にさえ負荷があるだろう。完全に異常をきたしている言語能力はその影響だとセーマは断定した。
舌打ち一つして、呟く。
「悪質に過ぎる……ここでどうにかしないと早晩、この子は崩壊するな。発狂か、廃人か、それとも自我喪失か。どうあれますます、捨て置くわけにはいかなくなった」
「何をぶつぶつ呟いて言ってるんだよ!? このシーラ様を舐めてたらたくさん痛い思いで傷つき泣くぞ!? お前!!」
「君を助ける」
いよいよ殺気立つシーラへ、端的にセーマは告げた。もはや言葉は不要だ、その時間さえ惜しい。まずは『不死魔眼』を封じ、彼女を苛むすべてを取り除く。
彼女は彼女なりに現状、満足感や誇りを抱いているようなので恨まれもするのだろうが安いものだ。悪辣に使い潰されようとしている命を前に、為すべきことなど決まりきっている。
「ヴィクティム……魔眼を、潰せ」
救星剣を構え、一振り。ただの素振りそのもの。
けれどその瞬間──空間を超えた斬撃が、シーラの『不死魔眼』を襲った。




