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共和国魔眼事件エルゼターニア-共和の守護者-【完結】  作者: てんたくろー
エクストラ・デイズ『共和国魔眼事件』
102/110

オアシス解放戦線、英雄たちの戦い・5

 快晴を突き抜けて天空に躍り舞う炎竜『オクトプロミネンス・ドライバー』。その背に乗る三人の英雄たちは、眼下に広がる砂漠を視認して、自分たちが正しく中央オアシスユートピアへと到着したことを悟った。

 

「出た! 本当に、中央オアシスだ……!!」

「遠くに微かに見えるのは、あれが首都か!? 近い、圧倒的に近い!」

 

 エルゼターニアが中央オアシスの光景を目にして意気込みの声をあげた。一方でアインは遥か遠くに陽炎めいて揺蕩う町の影を見、事前に確認していた地理的情報と照らし合わせてそれがおそらくは中央オアシスユートピアの拠点たる首都なのだと当たりを付ける。

 

「『ヴィクティム』ッ!」

「っ、セーマさん!?」

 

 瞬間、セーマが叫んだ。手に突如として現れる白亜の剣。同時に彼から莫大なエネルギーと威圧の気配が放たれて、エルゼターニアは思わず仰け反った。

 『救星剣ヴィクティム』。勇者セーマと一体化している対魔王用兵器であり、同時に彼の体内に宿る未知なる無限エネルギーの制御装置でもある、謎の多い剣だ。

 その威力はアインのヴァーミリオンすらゆうに凌ぎ、事実上世界最強の武器として君臨する。

 

 そんなヴィクティムを発現させて、セーマは構えた。立ち上がり、刃の先を首都をも越えた限りない砂漠の大地に向ける。

 何をするつもりなのか。放たれ続ける驚異的な力の波動に慄然とするエルゼターニアを背にして、セーマは続ける。

 

「気配は既に掴んでいる! 別動隊の皆、メイドの三人……方角は、首都の向こう!」

「……『気配感知』!? いや、にしたって距離がおかしい!」

「どれだけ遠くまで感知できるんすか、セーマさん!?」

「俺の『気配感知』は特別製だ! 中央オアシスくらいの範囲なら全土を把握できる!」

 

 別動隊の面々、特にリリーナ、アリス、ジナの三人を『気配感知』で掴んだと、そう宣言するセーマにエルゼターニアもアインも唖然となる。つまり彼は今、関所まで感知できているということであり、すなわち中央オアシス全土に感覚を巡らせることも可能だということに他ならない。

 

 あり得ない知覚範囲だ。いくら地理的にはそう広くない──王国南西部の三分の一程度しかない──土地とはいえ、国一つ丸ごと感知範囲だなどと亜人でも出鱈目に過ぎる。まだ適当なジョークだと言ってくれている方が笑い飛ばせるものを、しかしセーマは至って真剣そのものだ。

 何やら特別製だなどと、人間の身では到底理解できないことを嘯きながらも彼は更に行動する。

 

「ヴィクティム、光を纏え──」

「──っ!?」

 

 言葉と共に、ヴィクティムの刃が極光に輝く。セーマから出ている無尽蔵のエネルギーが救星剣の刀身へと収束し収斂し、眩いばかりの光の奔流となって溢れ出す。

 異常極まる圧力だ。世界そのものが歪みかねないような、あまりに異質な力。戦慄に鳥肌が立つエルゼターニアが息を呑むのも構わずに、勇者はヴィクティムへと力を収束させ続ける。

 

「魔眼に惑う砂漠の民を、救わんとする若き英雄たちのために! 極光よ、今こそ道を切り開け!」

「そ、即座に撃つんですかセーマさん!?」

「ま、まだ正午までにはもう少しありますけど!?」

「言ったはずだ! 地表に出たならここから先は、もはや一刻の猶予もない! さあ二人とも覚悟を決めろ! 開戦の、これが狼煙だ!!」

「は、はい!!」

 

 即座に次なる行動へ移ったセーマに、若き二人は戸惑いも露だが……それでも彼の言う通りだ。奇襲のためにこうして中央オアシスに進入した以上、もはや呑気にしている時間など一秒一瞬たりとてありはしないのだ。

 後れ馳せながらいよいよ戦闘へと意識を切り替えるエルゼターニアとアイン。それを踏まえてセーマは、ついに開戦の狼煙をあげた。

 

「やるぞ、ヴィクティム──光を放て!!」

 

 目標、首都を遥か越えた先。もはや視認できない程彼方の別動隊付近。

 突き出したヴィクティムから迸る熱量。無限エネルギーが、極光色に煌めいて砂漠の大地を穿ち、切り裂いていく──!

 

「こ、これがセーマさんの力っ!?」

「ゆ、『勇者』の……魔王を倒した、光」

 

 途方もない距離を一切減衰することなく伸びていく光。極めて強力なそれは、射程上のあらゆる物質を呑み込んで真っ直ぐに目的地へと向かう。

 すなわち別動隊。ハーモニや『クローズド・ヘヴン』の二人とソフィーリア、そして森の館のメイド三人たちに作戦開始を告げるべく、渇いた空と大地を真っ二つに裂いていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──関所前から多少距離を置いた砂丘の陰影にて。

 

 待機していた別動隊の面々が、『それ』を見出だしたのはすぐのことだ。特にリリーナやアリス、ジナやハーモニらは亜人ゆえの視力でその変化を微かにだが捉えている。

 遥か空の向こう、煌めく極光があった。見るからに分かる熱量、莫大なエネルギー。これ程の力を操ることのできる存在など、彼女らには一人しか思い浮かばない。

 

「主様、お越しになられたか!」

「さっすがお早い! 惚れ惚れするのう!!」

「となれば、作戦開始か……やりますかね、っと!」

 

 歓喜を隠すことなく露にし、メイドたちは即座に関所の前へと降り立った。死んだように虚ろな目をしている兵たちの群れがおよそ1000人程、反応してかゆっくりと迎撃体制を取っている。

 後ろから慌てて、別動隊のメンバーたちがやって来る。ハーモニはともかくソフィーリアやオルビス、ファズは急に進撃開始した三人に対して目を丸くしている。

 

「急に飛び出るとは……俺にゃ分かりやしませんが、何やらありましたので?」

「察するに本隊、『勇者』様方の気配でも察知されたのかとは思いますが」

「アイン、来たんですか!? 皆さん!」

 

 続々駆けつけては言い募る戦士たち。当たり前だが『気配感知』もなければ発達した五感も持たない人間では知る由もないだろう。遠い空の向こうから今やこちらに向けて放たれようとしている、救星の極光など。

 あれが放たれればこちらにまで到達するなど一瞬すらかからない。そうなる前に総員、身構える必要がある。

 メイドたちは即座に叫んだ。

 

「全員、防御態勢!」

「構えよ皆の者、ダメージは無かろうが衝撃は来るでな!」

「な──」

「なんですか!? 防御!?」

「え……まさか、あの光が『狼煙』!?」

 

 戸惑う人間たちをよそに、メイドたち同様彼方の極光を視認していたハーモニが目を見開く。セーマが何やら開戦の合図を放つとは打ち合わせから聞いていたものの、その子細は説明を受けてもいまいちピンと来ないでいた。

 まさか極大の熱量を中央オアシス全体を横断するようにこちらにまで放つなど、常識的に考えれば誰であっても予測不可能だろう──それでもことここに至り、ハーモニは確信していた。あの光はセーマの光で、こちらに向けて撃ち貫く開戦の極光なのだと。

 

「そうさハーモニさん……! あれがご主人さんの、『勇者』セーマ様の無限の力!!」

「──来るぞっ!!」

 

 ジナが頷き、答える。

 ──そして同時に、彼らの視界を光が埋め尽くした。轟く轟音、すさまじい衝撃波。

 

「ぐうううううううっ!?」

「わああああああっ!? な、何だぁっ!?」

「きゃああああああっ!!」

 

 オルビス、ファズ、ソフィーリアが突然のことに叫んだ。咄嗟に防御こそしていたものの、それでもあまりのショックに吹き飛ばされかねないでいる。

 

「くっ! 久しぶりに味わうが、やはり何というお力だ!」

「これがご主人のお力……! マオをも下した『勇者』のエネルギーかっ!」

「す、すごい……!! こんなの、すごすぎるよっ!?」

 

 リリーナ、アリス、ジナのメイド三人もまた、主が放った無限エネルギーの奔流に呑み込まれ、その力と圧力とを身を以て実感していた。

 この中で過去、一度でもセーマの放つヴィクティムの力を経験したことがあるのはリリーナのみ。そんな彼女でさえも圧倒されているのだから、初めて経験するアリスやジナなど未知なる無限のエネルギーに翻弄されっぱなしだ。

 

「ゆ、『勇者』ってこ、こんなの。これ程なの」

 

 そして、かつてセーマに一度だけ挑み、瞬殺されたヴァンパイア、ハーモニは。

 示された力の波動、エネルギーの発露に一人、顔をひくつかせてうめくばかりだった。このようなすさまじい真似をしてのける存在相手に、無謀極まる戦いを仕掛けた過去があるゆえに。

 

「わ、私……命知らず過ぎるでしょ、本当に──」

 

 改めて、とてつもない男に喧嘩を売っていた過去の己に、ゾッと背筋を凍らせつつ。

 光がその後収まるまでの数十秒、一同はただひたすら、勇者の力の威容にただただ、飲み込まれていたのであった。

 

「く──無事か、皆」

 

 そしてすべてが収まって後、静寂の中響くリリーナの声。そして彼女は周囲を見、仲間たちの無事を確認した。

 

「お、おーう……無事じゃ、わしらはな」

「ダメージ、本当に皆無だ……! 傷一つ無いし衝撃だって、すぐに余韻さえ消えた!」

 

 アリス、ジナはもちろん健在だ。初めて体感したセーマの力に唖然としながらだが、それでも既に意識は次の、自分たちのやるべきことへと移っている。

 

「う、うう……な、何だったんだァ? 今のは」

「『勇者』様の狼煙、ですかね……? もはやもう、何が何やら」

「セーマさん、滅茶苦茶ですよぉ……」

 

 人間の三人、オルビスとファズ、ソフィーリアは未だ混乱から脱却していない。当然ダメージはなく精神的な衝撃によるものでしかないが……気分が落ち着くにはもう少しばかりかかるだろう。

 

 そしてもう一人。何やら頭を抱えている弟子に向け、アリスは怪訝な瞳を向けた。

 

「……ハーモニ?」

「うーん、うーん。とんでもないバカだ私ー。あんなのに喧嘩売るなんてどうかしてたよー」

 

 すっかり怯えと後悔とが入り交じった様子で弱々しく呻く。恐らくはかつてセーマに戦いを仕掛け、何もできないまま半殺しにされたことでも思い起こしているのだろう……と、推測するアリスにジナが戸惑い問うた。

 

「どうしたの、この人?」

「知らぬが……まあ、過去の行いを悔い改めとるんじゃないかのう? 今そんなことしとる時間ねーんじゃけどな。おうこら、ハーモニ!!」

「ひううっ!?」

 

 短く鋭く名を呼べば、即座に背筋を伸ばしてハーモニは応えた。恐る恐るこちらを見る彼女に、アリスは呆れたように言う。

 

「反省なり何なりは後にせい。ほれ、関所を見よ」

「は、はい? ……ああっ!? ぜ、全滅してる!?」

「何ぃっ!?」

 

 言われて関所へ視線を向けて、またしても驚愕するハーモニ。つられてオルビスたちも目を向け、同様に驚いた。

 一人残らず倒れていた。1000人程もいる人間たちが、ただの一人とて残さず気絶しているのだ。建築物には一切の損壊もないままの奇妙な事態、それこそが先程のセーマの力によるものだというのは、メイドたちには当然分かることだ。

 

「主様がこうして道を拓いてくださったのだ、我らはそれに応えるべく全力を尽くさねばならない」

「こんなとこで落ち込んだり呆然としてる暇、無いんですよ皆さん。さあ、行きましょう!」

「首都までにも当然、色々と邪魔が入るじゃろうて。そやつら相手にド派手にかますのがわしらの仕事じゃよ」

 

 セーマの助力を無駄にはしない、いやむしろ最大限に報いて見せよう。そんな意気に燃えてリリーナたちは関所へと向かっていく。

 首都までは遠く、それまでにも多く兵士が配備されているだろう……彼らを殺さず、けれど無力化する。別動隊の使命とはまさしく中央オアシスユートピアの戦力を減らすことなのだ。

 

「よ……よーし! 私らも負けてられないよ皆! 三人に続こう! エルたちのサポートを、務めきらなきゃ!」

「そ、そうですなァ……しかしいやはや、『勇者』様周りの御仁らは皆、常識離れていらっしゃる」

「さすがと言うべきか、何と言うべきかですねえ」

「あ、あははは……」

 

 そんな彼女らに完全に置いてけぼりを食らいながらも、けれど続けて動き出すハーモニたち。

 ここに、オアシス解放戦線の火蓋は切って落とされたのだ。

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