〈第15-2話〉爆熱の幼将
スノウダートにて、魔将直轄の部下に関する情報を手に入れたクロスレギオンズ。
新たな目的地「ラグナス」へ向かうべく、一旦ロイヤルへと帰ってきたのだった。
そういうわけで、私たちは一度王都に戻ってきた。
「しっかし遠いな……スノウダートからラグナスまでっていうのは……」
「北の端から、南の端まで横断するような感じだもんね〜」
南北横断……私も初めてだ。
というか、あの砂の国に行くのは「ラプラタ戦争」以来だ。
あの戦いは激しい砂嵐の中をダッシュして補給部隊を救援したり、ラグナス特有の精霊使い相手に四苦八苦したものだ。
ドカァン!!……
なんだ……!? 爆発音が……!
「な、なにあれ……」
フレイが指を差した先には、黒い小さな煙が上がっている……
「行ってみよう……!」
と、とりあえず、私たちは急いでその場所に駆けつける。
煙の元は最近新設された陸軍の演習場だった。
そこには、真っ黒に焦げて倒れている少女の姿と、複数の兵士が駆け寄っているところだった。
「指令! お気をたしかに!」
爆発で焼け焦げた服……金髪の少女……近くには黒くなった白い帽子……
あっ!? い、妹様だ!
「妹様!」
すぐにその場に駆け寄って、肩を揺する。
しかし、反応が無い……彼女の小さな体から心音は聞こえてくるのだが、ひょっとしたら瀕死なのかもしれない……!
「あ、貴女方は……!?」
「クロスレギオンズです! アルバス、今すぐ回復魔法を!」
自己紹介をしているヒマはない!
時間との勝負だ!
「ん……ゲホッ、ゲホッ……あぅ……」
目を覚ました……!
紅いその瞳は、しっかりと光を保っていた……!
「お気づきになりましたか! 今すぐ回復魔法を……」
「え……ああ……いい……要らないよ……」
「えっ!?」
い、要らない……!?
そう言うと、妹様は何事もなかったように立ち上がった……
「はぁ、また失敗だ……服の火耐性をもっと……って、あれ? アリスたちじゃないか!」
え、ええ……!? さっきまで、爆発で真っ黒に焼けて倒れていたのに……
「ま、マジかよ……!?」
「え、どうなってるの!?」
常軌を逸している……私の頭の上にはハインドやフレイと同じように「!?」のマークが出ている……
明らかに大火傷を負っているのに、平然と喋っている……
「あ、はい……」
「どうだ、収穫はあったのか?」
こ、この空気で話すのか……思わず生返事が出てしまった……。
「は、はい……魔将直轄の部下がいる場所を掴みました」
妹様は焼け焦げた体に構わず、嬉しそうな表情をした。
「それは大収穫だ! 「敵の尻尾を掴んだ」っていうわけだな。それで、どうして此処に?」
「それが、ラグナスにその部下がいるという情報でして、向かう途中だったのです」
「なるほど……ああ、なんかすまないね。今、私用の戦闘服を実験していたんだ。ほれ」
妹様は、意気揚々とその完成図を見せてくれた。
が、おかしな点ばかりが目立つ。
戦闘服にしては肩や腹が丸だし、急所の胸元にもくっきりと穴が空いている……
これもしかしてファッション用か……?
「……こ、これ、本当に戦闘服なんですか……?」
「まあ、最初はそう思うよね。なんせ、私に合わせた設計だからね」
そういう問題ではない……妹様の戦う姿は見たことが無いが、こんな装備で戦うとなったら間違いなく一発が致命傷につながってしまう!
「……そんな顔しないでよ。ロマンと効率をすり合わせたら、この形になったんだから!」
「え……」
ロマン……? 何を言っているんだ……戦いを舐めているわけじゃないよね……?
「ちゃんと意味はあるよ? 私が最近開発を進めている魔法と錬金術を組み合わせた、「法術」っていうのを使うためにね!」
な、なんだ? 法術……? 錬金術自体の元が魔法じゃないのか?
イマイチ想像ができない……
「……見せてあげようか?」
「あっ……でも……」
たしかに気になるところだが、また大爆発を起こしたら今度こそ……!
「遠慮するな! 今度は自爆しないから」
そして、焦げた身体から火の粉のような物が流れていく……
パチンッ!
妹様の「指ぱっちん」と同時に、それは「ボン!」と音を立てて爆発した。
「フフ……どうよ?」
一体何が起きたんだ……?
「やろうと思えばもっと大きくできるんだけど、それはまた今度にしておくよ。今度爆発したら、私の服が木端微塵だからね」
爆発魔法か……? いや、あれは多量の魔力を消費して、しかも詠唱時間が通常の倍くらいかかるはずだ……それを一瞬で……?
「指ぱっちんで起爆したり、頭で考えるだけでさっきの爆発因子を好きなところに飛ばせる。これが法術さ」
……すごい! これが普及したとなれば、戦い方が変わる……!
「でも弱点は、メチャクチャ難しいんだよね。私以外だと、まだ一人も使い手がいないのさ」
た、たしかに、妹様ですら扱いに四苦八苦しているとなると、あの錬金術よりも人口は少なそうだ。
それに、王都でバンバン爆発されては民衆から苦情が来てしまうだろう……。
「ま、要は「トライ・アンド・エラー」さ。絶対に究めてやる!」
あ、アグレシッブな方だ……。
私が妹様ぐらいの歳の時は、剣術をやり始めたくらいだったかな。
「し、指令……まだお続けになるのですか?」
「いや、今日はこのくらいにして、このボロボロの服を何とかしよう。続けようにも、アリスたちが気になってしまうだろうからね」
黒く焼けている帽子を拾い上げると、指でクルクル回している。
「じゃ、これからも無理せずに頑張ってね」
「はっ!」
妹様は兵士を引き連れて去って行った。
……なんというか、相変わらず不思議な方だ。
「すっげえな……イリスって人……」
「ああ。去年のラプラタ戦争でも、的確な指示を飛ばして勝利へ導いてくれたお方だからな……」
「私たちの方が年上なのに……なんか不思議な気分だね~」
何はともあれ、任務を再開する。
向かうべき場所は飛行船の乗り場だ。
そこへ行くため、私たちはエントランス街道を歩いている。
「ここはいつものことだけど、色々な人たちがいるよね~」
流石はロイヤルの玄関口だ。
ユニオンのエルフ、ヤマトの獣人、ラグナスの褐色人種も歩いている。
その道の左右には各国の郷土料理を食べることができる店が立ち並ぶ。
「でも、なんか足りなくないか?」
「え?」
足りない……? 言われてみればたしかに、いつもは居るはずの何かがいないような……
まあいいや。今の目標は、ラグナス行きの飛行船に乗ることだ。
「うわぁ……すっげえ行列……」
チケット売り場は毎回これだから困る……ざっと二時間待ちぐらいだろうか……
せっかちの私に「待て」は拷問だな……。
でも、忍耐力を上げる絶好のチャンス……だといいな。
シユウ「なんか、茶を濁してる回じゃない?ブクマが減るんじゃないかしら?」
ロン「こら! メタ話をするんじゃありません!」
シユウ「だって、戦いが入ってないし、あたいの会話が入ってないじゃない!」
アスカ「でも、シユウが話に入ってきたらこの回自体が崩壊しちゃうと思うんだ」
シユウ「は? あたいのことを邪険にしてるの!?」
グリダ「そこまでにしておきなって。これ以上はアリスじゃなくて、読者がキレてしまうよ」
じ、次回もお楽しみにね。