高く高くその手を掲げて!S・S・S~(セインステッキストーリーズ)よりAct3
魔虎は闘いの中で、運命の獅騎導士と出会う。
そして、あの娘とも・・・。
ーそう、あいつとの出会いは・・・あの時だった。-
アタシは、パートナーの黒虎と共に、闘いに明け暮れていた。あの時も・・・。
「喰獣牙!」アタシの呪が発動し、目の前に居る魔獣鬼に黒虎が襲い掛かる。
黒虎の一撃で、魔獣鬼が断末魔の叫びを上げた。
「ぎゃああぁっ!」
叫びと共に、粉々になって飛び散った。
ーふんっ、つまらない。こんなザコを喰らったって。-
黒虎と同じ思いを、アタシは抱く。
魔法陣に黒虎を帰そうとした、その時。
「ちょっと!君っ!私の獲物を横取りしないでくれる?」
横から突然呼びかけられて、そちらを振り向くと、そこにはアタシより年上の女の子がこちらを睨んでいた。
「横取り?助けてやったのに?聖導士のお姉さん。」
アタシの言葉にカチンときたのか、その聖導士が突っかかってきた。
「何言ってんのよ。誰が助けてって言ったのよ。あんな魔獣鬼に、私が負ける訳が無いじゃない!」
ーコイツ、イラつかせてくれる。これ以上腹が立つ事言ったら、こいつも消してやる。-
アタシは掲げた手を下ろさずに、聖導士を睨んだ。
「なっ、何よ。やろうって言うの?」
ちょっとアタシの目に怯んだ聖導士が、身構えながら言った。
ーアタシに敵対する奴は、誰も許さない。-
右手を再び高く掲げ直し、黒虎を聖導士に向ける。ゆっくりと、黒虎が聖導士に目標を定める。
「ひっ!」
聖導士が、黒虎に怯えて後ずさる。
ーアタシに盾突いたお前が悪い。聖導士だろうと、魔導士だろうと関係無い。アタシに歯向かう者は、全て敵。消し去ってやるだけ。-
「行け!黒虎。」
右手を聖導士に向け振り下ろす。
「ひっ!いやあっ!!」
聖導士は、涙目で助けを叫ぶ。
ー後悔するなら、最初から聖導士になんてならなきゃいいものを・・・。ー
アタシは聖導士が、黒虎に引き裂かれる瞬間を見守るつもりでいたが、光が黒虎の前に現れた。
<ギィイイインッ!>
ー!なっ、なんだ?と・・-
アタシは信じなれなかった。聖導士に飛び掛った黒虎が、強力な光の斬波によって、吹き飛ばされたからだ。
「何?」
今度はアタシが驚く番だった。黒虎は、アタシの横に戻って新たな敵を見据えている。
そう、聖導士を守ったのは・・・、
「獅騎導士か・・・。」
腰を抜かして座り込んだ聖導士の後ろから現れたのは、白銀色に光る鎧を身に纏った騎士。
ーふっ、コイツも同じ・・・。アタシに盾突く者。アタシの敵。-
聖導士が、助かったと言わんばかりに振り向いて、
「狼牙様!ありがとうございます!」涙目で喜ぶ。
「馬鹿者!助けてもらって礼を欠くにも、程があるぞ。久音!」
狼を模った鎧を着た獅騎導士が、女の子の聖導士を躾ける。
「ごっ、ごめんなさいぃっ。」
喜び顔から怒られて、本泣きする聖導士を見て、
ー忙しいヤツ。- 呆れてしまう。
そしてアタシは狼の騎士に向って、
「そいつの仲間なら、アタシの敵だ。消え去ってもらうから、その聖導士諸共。」
右手を騎士に向って振り下ろす。黒虎が、歯応えの有る敵と知って、喜び勇んで飛び掛る。
「礼を失した事は、私が謝る。許しては貰えないだろうか。ネクロマンサーの娘よ。」
騎士が深々と頭を下げる。・・・アタシに向って。
ーなによ、この獅騎導士。余裕見せてくれる・・。余計に腹が立つわ。構わない、やってやる。-
「行け!黒虎!!」
アタシは、騎士に向けて指差す。
「解って、貰えないか?ならば・・・」
「ならば・・何よ?」アタシが騎士に訊き返す。
騎士が高々と剣を振り上げる。その剣が光を放ち、巨大化する。
ー何だ?あの剣は!?あの強力な力は?-
アタシは少なからず、動揺した。こんな強力な力を持った相手に、出会ったことが無かったから。
「ならば、お前の陰我を断ち切るまで。」
そう言った騎士が、襲い掛かった黒虎に、
「神狼牙斬!」
超強力な斬波を放った。
ー!そんな!嘘だっ!-
黒虎が直撃を受けて、吹き飛ばされる。斬波は、黒虎共々魔法陣まで消し去った。堪らずアタシも吹き飛ばされて地面に転がって倒れこみ、気を失ってしまった。
「おいっ、大丈夫かい?君?」
誰かに声を掛けられて、アタシは気付く。
ーアタシ、どうしたんだろ?・・・そうだ騎士にやられたんだ。負けたんだ、死んだのかな?-
「しっかりしろ、おいっ!」
呼び掛ける声は大人の男の人の声。ぼんやりと目を開くと、
「気が付いたかい?お嬢さん。」
アタシは男の人に抱かかえられていた。
ーわあっ!誰なんだっ、誰か知らないけど・・・近い、近いよ!-
慌てて目を見開き、辺りを見回すと、いつの間にか現世に戻っていた。
草原の中で、この男の人とアタシ、そして。
「あっ!アンタはっ!」
目の前にほっぺたを膨らませて拗ねている娘は、さっきまで戦っていた相手の一人、たしか・・・
「久音って言ったよね。じゃあこの男は!」
白い聖導衣を着た久音が怒る。
「こらっ、年上のお姉さんに向って、呼び捨てにするな。それに狼牙様にこの男って、失礼にも程があるわ。」
久音が、お説教する様にアタシに言うと、
「久音。お前も大概にしろよ。」
この男。いや、狼牙って言う人が久音さんに文句を言う。そして、アタシを見て、
「大丈夫かい?ちょっと、大人気なかった事を謝るよ。えっと、君の名は?私は狼牙。冴騎狼牙って言うんだ。」
アタシに向って、優しく訊いて来るこの人。少し、お父さんと似ているかもしれない。
「アタシ・・・魔虎。」
そう、アタシはあの日。本当の名前を失った。ネクロマンサーとなった、あの日に・・・
「マコ?苗字は?」
久音が訊くが、
「苗字も名も無い。ただ皆が魔虎と呼んでいるから・・・。」
アタシは何故かその時、狼牙さんに抱かかえられたまま、何日か、何ヶ月ぶりに素直になっていた。
「そうか、・・じゃあマコちゃん。立てるかい?」
狼牙さんが、尋ねる。
「ああ、立て・・・!」
立ち上がろうとするが、足に力が入らず倒れそうになるのを素早く狼牙さんが支えてくれる。
アタシは咄嗟に、
「ありがとう。」
言ったアタシが、驚いた。その言葉。
何時から言った事が無かったのか。其れさえも解らなかった。それさえも解らない位、言えてなかった。
アタシの瞳から、大粒の涙が溢れ出す。
<ギュウッ>
ーえっ?アタシどうして泣くの?狼牙さんに抱きしめられて。どうして嬉しいの?解らない。・・・けど、こんなに落ち着くのは何故?-
狼牙さんに強く抱きしめられて、アタシは泣いた。訳も解らず子供のままのアタシに返って、ただ泣いてしまった。そんなアタシを狼牙さんは、何も言わず抱きしめてくれる。久音も微笑みながら見守ってくれていた。
どれ程泣き明かしただろう。
アタシは泣きつかれて、知らない間に眠ってしまっていた。狼牙さんに抱かれて安心してしまったのか。
<とことことこ>何かの音で、目が醒める。
「んっ?あれ?ここは?」
アタシはハッとして、飛び起きた。
明るい電灯の中、ベットでアタシは眠っていたようだ。
ーどこだ、ここは?-
アタシはベットから起きて、ドアを開ける。
見知らぬ家の中に居る事は解ったが、一体どうしてここに居るのかが解らなかった。
どうやらどこかの家で眠っていた事は解るが・・・。気を張って様子を伺う。
その時、現れた。アイツが・・・。
「あっ!気が付いた?」
突然、何の前触れもなくアタシの目の前に飛び出して来た女の子。
「うわっ!何だお前は!!」
アタシは思わず仰け反って叫ぶ。
だが、そいつはアタシにお構いなく、
「あたし?あたしは美琴だよ。宜しくね!」
「は?はあ?何なんだ。お前は!?」
アタシは、美琴と名乗る女の子にたじろぐ。
最期に・・現れたのは、幼い日の美琴だった。
魔虎は、美琴と触れ合い次第に心を開く。
そして、大事な誓いを思い出す。
次回ずっとずっと。
次回も読んでくれなきゃ駄目よーん!




