節約散財
お題:奇妙な銀行 時間:15分
奇妙な客が来た。
番号を告げ、窓口に来た男は辺りをきょろきょろと挙動不審な様子で見ている。どうかしたのかと声をかけても要領を得ない答えしか返って来ず、額は脂汗を流し息遣いも激しい。花粉症なのだろうか、大きなマスクをしていた。不審者の言葉が当てはまる相手だったが、それでも客商売だ。嫌いな相手でも笑顔で対応しなくてならない仕事であり、私は誰もがそうですよといった風を装い、男に話し掛ける。
「こんにちは、今日はどうなされましたか?」
「あ、あ、あ、あののっ!!」
つっかえどもりながら、男は方から下げているバックに手を突っ込むと、銃を取り出した。
「か、金ぅをっ! よ、よこせぃぇ!!」
緊張しているのか、声が変に高くなる男。突き付けられている銃はがたがたと震える腕のせいで狙いが定まっておらず、ほぼ目の前にいる距離だというのに当たるとは思えないほど揺れていた。
私が呆気にとられていると、男は再度通告してきた。
「な、ななななにしてるぅ! はや、早く金を!」
「えーと、お金、でございますか?」
私は聞き間違いかもしれないのでもう一度尋ねた。何故か解らないが、この男性はお金を要求してくる。そんな私の態度が気に喰わないのか、怯える様子もない態度が気に入らないのか、男は少しばかり声を荒げる。
「そ、そうだっ! 早くしろ! 死にたいのか!」
「死にたいのかと言われましても……」
私は苦笑するしかなかった。背後にいる上司はやれやれといった具合に溜息を吐いている。
男はそれに気づき、また周囲の客も動じていないのを見て、疑問符を頭に浮かべながらも口を開く。
「う、嘘じゃないぞ! 本当に殺すからな!」
「いや、だから殺すとか死にたいとか言われましても」
私は頬をかきながら、未だ気づいていない男に向かって告げた。
「私たちは、既に死んでいますよ?」
「あ?」
男が間抜けな声を上げる。論より証拠と、私は死んだ時の、銀行強盗に撃たれた時の姿に戻ってやった。
胸に一発、右目に一発の赤黒い穴を。
「ほら、こことここ、貴方が撃ったんじゃないですか」
「お、おれ、おれ、おれは」
「まぁいいです。とりあえず、ここは銀行なので」
私は罪人相手に成り立つこの銀行のシステムを、何を預けているのかを話してやった。
「貴方の罪はまだまだお預かりしていますので、お早目にお引き落し下さいね?」




