シール・パン・ダーゼ
「ん…っんぅ…ここは…?」
ぼんやりと目を開いたら、知らん天井やった…。
「目が覚めたかぁ?氷結のぉ。」
横には、愛しのエリーでもケイジでもなく、にちゃっとした笑みの男が立っていた。
「ええと、誰?あとここはどこかなぁ?」
周りを見渡すと、よくよく見れば結構な人数がおる。
中には指名手配のハンターも…。
そしてこの汚い笑みの男は…
「ようこそ地獄へ!氷結のぉ。
名前なんてどうせ聞いてもすぐにぶっ飛んで忘れる!ぎゃははははあ!」
確か、エリーの弟のダガー…。
「最低や…。」
この男も、うちのおかれた状況も、今後起こるであろう現実も…最低や。
「やけど、簡単にはさせへんで。
うちかて死ぬ気で抵抗するから!覚悟しときや!」
「ぎゃははははあ!抵抗!?
てめえがAランクだろうが、こっちにもAランクは5名もいるんだ!!
そもそもできるのかよ!手も足も動かせないくせに!
ははははは!それともあれか?体は反応しても、心だけは屈しないってやつか!?
ははっははは!どうせすぐにおまえもヒイヒイ喘いで欲しがるんだよ!」
そういうこいつの手には、注射器がある…。
「女1人に薬かいな…ほんまゴミやな、ゴミ未満や。」
「言ってろ、だがあ?せいぜい抵抗してくれよ、氷結の。
そのほうがこっちもそそるってもんよ!ぎゃはははははは!」
「「「げはははははは」」」
ダガーと周りの男共が下品な笑いをする。
「あははははは♪」
しかし、その中に似つかわしくない、可愛い笑い声。
「ッ!?!?
なんだてめえは!!!」
茶色い髪とマントをたなびかせ、上半身は銀色の軽鎧、下はプリーツスカート、そして手には細い両手剣を持つ絶世の美女。
「間に合ってよかったわぁ♪
まあ私が間に合わないなんてないんだけど…。
さてさて、殺しに強姦、薬と鬼畜外道の畜生未満な貴方達に二つ選択をさせてあげる♪
① おとなしくつかまる
② 死ぬ
さあ、どっちかな?♪」
ハンターランクには、Aの上にSがある。
しかしこの世界にSランクは、片手で数える程度しかいない。
Aランクは、たくさんいる、戦闘技術だけでなく、いろいろな分野で存在する。
しかし誰もがソレより上にはいけない。
Aランクといえど、普通の一般人から見れば人外レベルの強さではある、が。
Aランクの者たちは、口をそろえて言う…Sランクは、人をやめている、と。
「なんだあ!?てめえはあああ。
まあなんでもいい!ひゃはは!氷結より美人じゃねえか!ぎゃははは!」
何名かはこのようにげひた笑いを上げ、何名かは首をかしげ、何名かは真っ青になってる。
「………………神速だ……」
誰の呟きだろうか、その呟きは、喧騒を一瞬で静寂に変えた。
「………神速の…」
「皇族騎士…」
「あれがSランクの…」
「………処刑人…」
皆が青ざめ口々に呟く。
そう、部屋の入り口には、Sランクハンター…神速のシールが、そこにおった。
「ッ!!!?
だああ!神速がなんだ!こっちには人質にいる!Aランクだって5名いる!
なによりてめえら全部で50人もいるだろうがああああ!
はったりにだまされんな!」
ダガーの近くにおった男数名が囲みうちの髪の毛をひっぱってナイフを首に突きつける。
「おい神速のお! 剣を捨てろ! 床に這い蹲れ!」
けど、シールさんはにこにこと笑っている。
「あらあら♪おとなしくしてくれると思ったんだけど…」
「おいこらあ!聞いてんのか!こいつを殺すぞ!!」
ああ頼むから刺激せんといて…髪引っ張られて、せっかく頑張って詠唱してたのに台無s…
ばしゃあ…と頭に何かがかかった。
視界が赤くそまる。
どしゃどしゃっと何かが落ちる音がする。
視線の先には相変わらず入り口でニコニコしているシールさん。
けれど、横にはさっきまでうちがゴミ未満って言ってた人間が…………ほんまのゴミになってた。
「あああああああああああああ!」
喧騒に包まれた室内に、氷のような声が響く。
「で、①?②?どっちかな?♪」
ダガー含む45人は無言で①を選択した。
「………(あの距離を動いたようには見えんかった…、いや動いたかもしれんけど、見えてない…これが、Sランク…ッ!)」
「ん?どうしたの?♪(ニコッ)」
「……………(綺麗さまでSランクウウウウ!!!!あかん、うちにはエリーがおるんやあ!!!)」