それは私のおいなりさんだ。
「ただいまシエルさん。結構狩ってきましたよ。」
ギルドの受付嬢―シエルさんに声をかけつつ、袋の中にしまっていたビックモンキー達の爪等をばらばらと机上に出す。
「おかえりなさい。あらあら、たくさん狩ったんですねぇ。
もう特例でランクあげてもらうように申請しちゃいましょうか…。
ええと爪が…ひのふのみぃ…」
爪を数える彼女を横目に今日の出来事を思い返す。
リミッターはいい感じで作動していた、BUTIKAMASIのときはさすがにあせったが、それ以外はばっちりだ。
最後の覇王天翔波もこの世界で結構高めの威力に思えたが、あの2人の反応を見る限り大丈夫だろう。
単体でBに届くかもしれないと聞いた、全リミッターをありにすれば、この世界も楽しめそうだ。
「はい、では今回の討伐数の報酬5銀貨×50匹、爪の買取なども含めてあわせて3金貨と10銀貨になります、よろしいですか?」
さすがはB推奨クエスト、報酬も十分だ。
Bランクになればやはりかなり裕福な生活ができるなぁ…。
俺は面倒くさくなり途中から猿の素材は集めていなかったが、全部集めていたらどれくらいになったのだろうか…。
ちなみに猿の素材はあまり高くない、ボスは高いそうだが…。
あくまで討伐数の確認のための剥ぎ取り、といった理由が大きい。
「ええ、それでかまいません。ありがとうございます。
あと、薦めてくださった宿は無事に取れました、ありがとうございます。
俺は402号室なので、宿であったらよろしくお願いしますね。」
「それはよかったです、私もあそこで長期契約してるんで、これからもちょくちょくお会いするかもしれませんね。
あと別に敬語じゃなくていいですよ?
私のは癖みたいなもんですけど、ケイジさんのほうが年上だし…」
「わかった、そうさせてもらう。これからもよろしくな?
あと別に俺にも敬語じゃなくていいぜ。」
「ええ、こちらこそ。よろしくお願いします♪(意味深)」
彼女が一瞬ニタァっと笑った気がしたが気のせいだろう。
俺は報酬金を受け取りギルドを後にした。
「さて…服とかも欲しいが今日は帰るか…風呂だ!」
俺は温泉にうきうきと心躍らせながら宿屋に帰ったのだった。
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「つ、つかれたわ…」
私はギルドのカウンターにつっぷすように呟いた。
「お疲れね、エリー。」
「まあボス素材が手に入ったからいいんだけどね…それにしても疲れた…
今日はもう帰って温泉に入って寝るわ…」
「せやねえ…今日は色々あったしなぁ…そういえばあのお兄さん強かったなぁ…。」
「お兄さん?」
「ええ、今日ボス猿に挟まれてさ、やばいと思ったらその男が助けてくれたのよ。」
「ふぅー…ん。
あ、はいこれ。猿の討伐報酬5銀貨×20匹と素材買取、ボス猿討伐の特別報酬で合計10金貨と10銀貨です。
ボス猿の角はそのままでよろしいですか?」
「ええ、それでお願い。」
ハアー…とため息をつきながらシエルに返事をする。
ボス2匹分の特別報酬があれば追加で8金貨…さらに角まで手に入ったのになぁ…
―残念ながらケイジが吹き飛ばしたボス猿は跡形もなかった。
まあいい、これでも十分なお金だし、角だって手に入った。
嫌なことは忘れて、宿に戻って温泉入って…うんそうだ!お酒飲んでおいしいもの食べるのだ!
ノゾミと今晩は何を食べるかきゃいきゃいと話しながら宿に戻った。
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「あらおかえり、エリー。ノゾミ。」
「ただいま、おかみさん!ノピちゃんもただいまー!」
「おかえりなさーい!お風呂にする?ご飯にする?それとも…」
「お風呂で!」
「ちぇー…ノリわるーい。」
「あはは、ごめんごめんノピちゃん。
けど今日は疲れちゃってさー、それに身体も汚れたからお風呂で!
そんでもってそのあとお酒とステーキセットね!!」
「うちもステーキセットでお願いなー。お酒はーあまいのんがええなぁ。」
「はいはーい、じゃあ用意しとくね!
お風呂はもうすぐ女湯に切り替わるよ!」
ノピちゃんはかわいいなぁ…私はそんなことを思いつつ、ノゾミと共に部屋へと戻った。
そしてベットへダイブ…といきたいが、汚れてしまうため必死に我慢する。
「あーもう!とりあえずお風呂ね!ノゾミ!先いっとくわよ!」
「あっ!エリー!?今はまd…」
ノゾミが何か言っていたが気にしない、そんなことよりもお風呂だ。
私はふんふーん♪と鼻歌を歌いながら浴場へと降りていった。
私ははしゃぎながら浴室へと駆け入り、一瞬で裸になり、風呂場の扉に手をかけた―
「いっちばんぶろー!…ぷぎっ!」
扉を開けて中に入ろうとした瞬間、顔に何かが当たりしりもちをついてしまった。
「いたた…何よ一体…」
鼻を押さえつつ目を開けると…………………目の前に何かがあった、そう何かが。
何とはいうな、ナニかがだ。
私は一瞬理解ができなくて、それを見つめた。
そして目線を上に上げていくと…お昼に見た男の人が立っていた。
視線を下げる…ナニかがあった、雄雄しく、猛々しいものが。
視線をさらに下げる…自分の裸体があった、女々しく、薄っぺらいものが。
「い、いやあああああああっ!」
私は右手を振りかぶった。
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俺は混乱している。
まずは思い返してみよう、どうしてこうなった。
…ギルドから帰ってきた俺は、おかみさんに夕食を頼み、風呂に入る旨を告げた。
幸い男湯の時間はまだあと少しあるとのことだったので、入れてもらうことにした。
温泉は最高だった…前の世界と遜色などない…もう一度言おう、最高だった。
そんな最高の気分で、そろそろあがろうと思い浴室への扉を開けると、ぷぎ!っと何かがぶつかった。
その何かはお昼に見た女の子で…ポニーテールだった金髪は下ろされて肩まで届いている。
平坦なその胸は、ないといわれればそれまでだ、しかし俺は大好物である。
胸はあろうとなかろうと、素晴らしいもの、それが俺の持論だ。
彼女のスレンダーな身体を脳裏に焼き付ける。
彼女は視線を上へ下へと移動させ、ぷるぷると震えている。
―どうしたものか…
そんなことを考えていると、彼女が右手を振り上げた。
「いやああああああっ!」
雷光一閃、彼女の右手は俺のなにかを打ちたたいた。
「うおっ!!?!?」
普通男ならばこういう場面では悶絶して気絶…となるだろう。
しかし俺は全身に気をめぐらせている、急所の防御も完璧だ。
「ひいいいいい!?!?」
彼女が悲鳴をあげ、感触が気持ち悪かったのか、右手をわなわなと震えさせ見つめている。
とりあえずどうしようか、気絶させようか…そんなことを悩んでいると…
「エリー!!?!??!?今まだ男湯の時間やで!!!!!???
な、なにしてはんの!?てかナニそれは!?」
黒髪の女の子、ああ確かノゾミだったか―が浴室に入ってきてわなわなと震えて叫んでいた。
「と、とりあえず出るでエリー!ケイジはんも早くそれしまって!てかお風呂場にいくなりなんなとしてぇ!!?」
真っ赤になった彼女に叫ばれた俺は、さっと浴場へと戻ったのだった。
私は何を…てかナニ今の…ナニ…とぶつぶつとエリーの声が聞こえ、ずるずると引きづられる音も聞こえた。
浴室の音が聞こえなくなったのを確認して、俺は中に入り、服を着始めた。
「ふむ…下はつるつるか…」
俺の呟きが静かに木霊した。