↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最悪の領主に転生した俺、なぜか国を救ってしまう  作者: レモンティー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
43/48

第四十三話:屋台戦争――赤い果実と黄金の塊の争奪戦

城下町は、異様な熱気に包まれていた。

「最後尾こちらでーす!!」

「押すな!! 順番だ!!」

怒号。歓声。罵声。

――そして、香り。

甘く、酸っぱく、食欲を暴力的に刺激する匂いが、通り一帯を支配していた。

「……これは、想定以上ですね」

執事が静かに呟く。

俺は屋台の列を見下ろしながら頷いた。

「初日でこれだ。上出来すぎる」

ナポパスタ。

フライドポテト。

そして――ミネストローネ(トマトスープ)。

どれも単純。だが、強い。

そして、もう一つ。

丸いパンに、肉を挟み――

ケチャップをたっぷりとかけたもの。

「追加した」

俺はあっさり言う。

「パンに肉を挟むだけだ。食いやすいだろ」

「……それだけで?」

「それだけでだ」

兵士が一人、かぶりつく。

――ガブッ。

「……っ!? うまっ!!」

叫んだ。

「肉汁が……パンに……ソースが……全部合ってる!!」

「片手で食えるぞこれ!!」

「持ち運べる!!」

「歩きながら食える!!」

一気にざわめきが広がる。

「名称は?」

執事が聞く。

「ハンバーガー」

「……また妙な名前を」

だが、すでに関係ない。

「それ三つ!!」

「俺もだ!!」

「ポテトと一緒に!!」

注文が爆発した。

姫が呟く。

「……止まりませんね」

「ああ」

屋台は完全に回転を上げている。

「次! 二人前!!」

「ポテト追加で!!」

「ソース多めにしてくれ!!」

完全に“中毒”だな。

「警備、持つか?」

「……ギリギリでございます」

執事の視線の先では、兵士たちが列整理に追われていた。

「押すなって言ってるだろ!!」

「列を守れ!! 守れ!!」

「……くそ、いい匂いしやがって……」

仕事中なのに、明らかに食いたそうだ。

案の定――

「交代! 交代!!」

「お前さっき食っただろ!!」

「半分しか食ってねぇ!!」

「包んでもらってあとで喰えよ」

崩壊しかけている。

姫が呆れたように笑った。

「軍紀が乱れていませんか?」

「士気が上がってるとも言う」

「便利な言い換えですね」

だが目は笑っている。

屋台の前では、子供から労働者まで、誰もが同じ顔をしていた。

――欲しい。

ただそれだけの顔だ。

「ナポパスタは“満足”。ポテトは“中毒”。そして――」

俺は短く言う。

「ハンバーガーは“利便性”だ」

「……なるほど」

執事が即座に理解する。

「持ち運び可能。回転率も高い」

「そういうことだ」

そのときだった。

「旦那!!」

商人が血相を変えて駆け込んできた。

「トマトが足りなくなりそうです!!」

「だろうな」

予想通りだ。

「トマトはすでに枯渇寸前! じゃが芋も引き合いが増えてます!!」

「市場の値段は?」

「買い占めが始まってます! 全部跳ねてます!! 三倍……いえ、場所によっては五倍に!」

姫が息を呑む。

「もう、そんなに……?」

「商人は匂いに敏感だからな」

俺は肩をすくめた。

「まだ上がる」

儲かると分かれば、加速する。

「さらに――」

商人が声を落とす。

「隣国が、トマトの輸出制限を検討しているとの噂が……共同農場での在庫も、数日分で尽きそうです」

執事の空気が変わる。

「……早いですね」

「当然だ。“急に価値が生まれた資源”だからな」

放っておくわけがない。

姫が真剣な顔で言う。

「外交問題になります」

「なるな」

俺はあっさり認めた。

「ですが、このままでは供給が――」

「足りなくなる」

言い切る。

屋台の列は、まだ伸び続けている。

止まる気配はない。

「どうなさいますか」

執事が問う。

俺は一度、城下町を見渡した。

人。熱。欲望。

そして――可能性。

「簡単だ」

俺は言う。

「作ればいい」

「……領内で、ですか?」

「そうだ」

トマトも、じゃが芋も。

「栽培を拡大する。農民に作らせる」

「しかし、技術が――」

「教える」

即答する。

「種も、方法も、全部配る」

姫が目を見開く。

「……それでは独占できませんよ?」

「最初からする気はない」

俺は笑った。

「広げる。増やす。回す。それが一番強い」

執事が静かに頷く。

「農民は動きますね」

「間違いなくな」

価値が生まれた瞬間、世界は変わる。

「ただし」

俺は続ける。

「契約を結ぶ」

「契約?」

「苗と技術を渡す代わりに、一定量はこっちに卸させる」

「……囲い込みですか」

「違うな」

俺は首を振る。

「共犯関係だ」

農民も儲かる。

こちらも安定供給。

全員が得をする形にする。

姫が小さく息を吐いた。

「……本当に、全部つながっているんですね」

「最初からそのつもりだ」

料理じゃない。

――産業だ。

「では、すぐに手配を」

執事が一礼する。

「苗の確保、農地の選定、契約書の作成――」

「全部やれ」

「かしこまりました」

そのとき、遠くでまた怒号が上がる。

「本日分のハンバーガーもうすぐ売り切れ!!」

「売り切れだとォ!?」

「明日も来い!!」

「絶対だぞ!!」

兵士が叫ぶ。

「並べ!! 明日分の整理券配るぞ!!」

……もう次の日の列までできてるのか。

姫が苦笑した。

「完全に“戦争”ですね」

「ああ」

俺は頷く。

「屋台戦争だ」

だが――これは始まりに過ぎない。

赤い果実と黄金の塊は、もう止まらない。

それは、剣でも宝石でもない。

だが領内を揺るがし、人を狂わせるに足る“価値”を持っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。