表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最悪の領主に転生した俺、なぜか国を救ってしまう  作者: レモンティー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/41

第二十六章:既得の牙

静まり返った貴族会議室。

だが空気は、張り詰めている。

「……説明してもらおうか」

低く、抑えた声。

机を叩く音はない。

その代わりにあるのは――怒りを押し殺した静けさ。

「市場価格が崩壊している」

一枚の書類が机に置かれる。

「麦の値が三割下落」

「干し肉の流通量減少」

「代替として――」

言葉が濁る。

「……芋、だと?」

別の貴族が吐き捨てる。

「ふざけるな」

「問題はそこではない」

年長の貴族が言う。

「供給だ」

視線が鋭くなる。

「どこから湧いた、この量は」

答えは、誰もが知っている。

「共同農場」

その一言で、空気が変わる。

「……あれか」

「土地をまとめただと?」

「我々の管理を通さずに?」

声が徐々に荒くなる。

「農民が、勝手に作っているのです」

報告役が言う。

「効率化されており、収穫量は――」

言い切る前に遮られる。

「聞いていない!」

机が叩かれる。

ついに、音が出た。

「なぜ止めなかった!」

「許可した覚えはないぞ!」

怒号が飛ぶ。

「……止まりません」

静かな声。

報告役は目を逸らさない。

「なぜだ!」

「理由は三つあります」

一拍。

「一つ」

「種を必要としません」

「芋は切って植えるだけで増えます」

沈黙。

「二つ」

「成長が早く、失敗が少ない」

「農民単位でも成立します」

さらに重くなる空気。

「三つ」

「食べられる」

一瞬、意味が伝わらない。

「……何?」

「収穫したものを、そのまま消費できます」

「市場を通す必要がありません」

完全な沈黙。

理解が、広がる。

「……つまり」

誰かが絞り出す。

「我々を通らない」

報告役はうなずく。

「はい」

「流通の外にあります」

「馬鹿な……」

椅子に沈み込む者がいる。

「そんなものが成立すれば」

誰もが同じ結論にたどり着く。

支配が、効かない。

「……あの姫だな」

低い声。

「都市を変えたという」

別の者が続ける。

「トマトとやらも広めている」

「加工だ、保存だと……」

顔が歪む。

「余計なことを……!」

怒りが、形を持つ。

「民が満たされれば」

老貴族が言う。

「従う理由が薄れる」

「飢えは、支配の道具だった」

「我々が買い占めて値を釣り上げていた」

静かな真実。

誰も否定しない。

「それを、壊した」

短い言葉。

だが重い。

「しかも厄介なのは」

別の貴族が言う。

「支持されていることだ」

歯噛みする。

「民衆が、だ」

「“食わせた”からな」

皮肉が混じる。

沈黙。

やがて、一人が言う。

「排除するか」

その言葉に、誰もすぐには答えない。

「……できるのか?」

別の者。

「今、あれを止めれば」

窓の外を指す。

遠くに見える街。

灯り。

人の気配。

「暴動になるぞ」

現実的な声。

「では放置か!?」

「我々は何のためにいる!」

怒りがぶつかる。

「違う」

老貴族が言う。

全員が静まる。

「正面からは止められん」

一拍。

「ならば――」

ゆっくりと視線を巡らせる。

「“正当性”を崩せ」

空気が変わる。

冷たい方向へ。

「毒だ」

誰かが言う。

「得体の知れぬ作物」

「身体を蝕むとでも流せばいい」

「すでに動いています」

報告役が言う。

「隣国でも問題化しております」

一瞬の間。

そして――

小さな笑い。

「……使えるな」

「信用を崩せばいい」

「民衆は愚かだ」

「不安を与えれば、離れる」

「姫ごと潰す」

短く、決定。

「だが――」

一人が言う。

「もし、失敗したら?」

沈黙。

老貴族が、静かに答える。

「その時は」

一拍。

「我々が、時代遅れになるだけだ」

誰も笑わない。

外では、今日も人が食べている。

芋を。

赤い実を。

笑いながら。

中では、牙が研がれる。

豊かさは、争いを終わらせない。

ただ――

争いの“理由”を変えるだけだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ