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最悪の領主に転生した俺、なぜか国を救ってしまう  作者: レモンティー


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第十八章:土地は応える

農地再編が始まって数日。

現場は、想像以上に混乱していた。

「水の流れが急に安定しすぎてる……」

「土が締まりすぎて、逆に耕しやすくなってるぞ」

「去年までと違う……なんでだ?」

農民たちの戸惑いが広がる中、姫は現場記録を見ながら眉をひそめていた。

「数値が合いません」

執事が横から覗き込む。

「どのようにですか?」

「土壌密度、水分保持率、作付け効率……すべて理論値を上回っています」

「上回りすぎています」

その報告に、俺は軽くため息をつく。

「またか」

姫が顔を上げる。

「また、とは?」

俺は少し間を置く。

「説明できるもんじゃない」

その言葉に、姫は瞬きをする。

「……意味は理解できませんが」

「説明すると面倒だ」

俺は地面を見る。

ほんのわずかに、空気の“流れ”が整っているのが分かる。

土地が“最適化”されていく感覚。

これは技術でも管理でもない。

もっと根本の──

「土地改良」

意識の奥で、静かに反応する。

――周辺環境:再生効率上昇

――水利最適化:進行中

――土壌構造:安定化

(やっぱりな)

この領域に入った瞬間から、影響範囲が広がっている。

村単位じゃない。

“経済圏単位”だ。

姫が一歩近づく。

いつもの距離より、ほんの少しだけ。

「これ……あなたが?」

「全部じゃない」

俺は即答する。

「ただ、流れを整えてるだけだ」

「流れ……?」

姫の視線が地面に落ちる。

まるで何かを探るように。

「水だけではありませんね」

「土地そのものが、整っている」

少し間。

そして、静かに続ける。

「……それは、農政の概念を超えています」

俺は肩をすくめる。

「超えてるかどうかは知らない」

「でも、うまくいってるだろ」

姫はすぐに否定しない。

代わりに、小さく息を吐く。

「……そうですね」

その夜。

視察を終えたあと、姫は一人で帳簿を見ていた。

灯りの下で、数字を何度も確認する。

「説明できない上昇率……」

「偶然ではない」

「でも、再現性の条件が見えない」

ペンが止まる。

ふと、姫は視線を外へ向ける。

外では俺が農民と話しているのが見える。

その姿をしばらく見てから、小さく呟く。

「……あなたは、本当に何者なんですか」

それは質問というより、独り言だった。

その夜。

視察を終えた帰り道。

姫は馬車の外に目を向けていた。

「あなたは、これを制御していますか」

突然の問い。

俺は窓の外を見たまま答える。

「制御ってほどじゃない」

「流れを整えてるだけだ」

姫はしばらく黙る。

そして、小さく言う。

「流れ、という言葉が増えましたね」

「前からだろ」

「いえ」

少し間。

「前は“結果”でした」

「今は“過程”です」

馬車が揺れる。

姫の肩が、ほんの少しこちらに寄る。

意図したものじゃない距離。

それでも、戻らない距離。

「……もし」

姫がぽつりと言う。

「この土地が、あなたの意思で変わっているのだとしたら」

「それは、領地ではなくなります」

「何になる」

俺が聞くと、姫は少しだけ迷う。

そして言う。

「観測不能な経済圏です」

あまりに冷静な言い方だった。

なのに、その言葉の奥には不安があった。

俺は軽く笑う。

「考えすぎだろ」

「ただの農業だ」

姫は即答しない。

代わりに、少しだけこちらを見る。

その視線は、分析ではなくなっていた。

「……あなたは、いつもそう言いますね」

「そうか?」

「はい」

間。

そして、小さく続ける。

「だから、余計に気になります」

その言葉は、また業務の外側に落ちていた。

翌朝。

農地はさらに安定していた。

作物の成長速度が一段上がる。

水路の流れが自然に均される。

誰も意図していないのに、最適化されていく。

執事が呟く。

「これは……もう“管理”ではありませんね」

姫が静かに答える。

「ええ」

一拍。

「……環境そのものです」

俺は畑を見ながら、短く言う。

「だから言っただろ」

「土地改良だって」

姫はその言葉をしばらく噛み砕いたあと、小さく言う。

「それは……農業用語ではありませんね」

「まあな」

少し間。

姫は、ほんの少しだけ視線を上げる。

「でも」

「あなたが言うと、それが現実になる」

その言い方は、もう分析じゃなかった。

理解でもない。

“信頼”に近い何かだった。

その瞬間、俺は少しだけ気づく。

この能力は、ただ土地を変えているんじゃない。

周りの人間の“認識”すら変えている。

そしてその中心にいるのが、姫だ。

姫は地図を閉じる。

「このまま進めば、隣国は半年ではなく」

「もっと早く安定します」

少し間。

そして付け足す。

「……あなたの想定よりも」

俺は笑う。

「それ、悪いことじゃないだろ」

姫は少しだけ考えてから言う。

「はい」

でもその声は、さっきより少しだけ柔らかかった。

土地は変わる。

人も変わる。

そして、その中心にいる二人の距離だけが──

まだ名前のないまま、静かに近づいていた。

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