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国家資産


代表局の男は教室のざわめきが収まるのを待っていた

やがて静かに口を開いた


「混乱しているのは理解している だから順番に説明する なぜ川部智が呼ばれたのか なぜこの六名が選ばれたのか そしてこれから何を行うのか」


男はタブレットを操作した

モニターが点灯し人体の図と数値が表示される


適応率


という文字


「まず確認する この数値はすでにお前たち全員が測定されている」


誰かが小さくつぶやく


「入学のときの検査か」


男はうなずいた


「そうだ 全国の子どもは七歳時点で初回測定を行い 十五歳で再測定を行う その結果が現在の適応率だ」


画面の数字が切り替わる


38%


佐藤 凛太郎(さとう りんたろう)

全国ジュニア陸上百メートル三連覇


36%


東雲 悠斗(しののめ ゆうと)

中学時代全国数学オリンピック代表


34%


真壁 蒼(まかべ そう)

県警合同柔術大会最年少優勝


29%


桐生 美月(きりゅう みつき)

医療研究機関協力生体解析プログラム参加者


27%


神代蓮(かみしろ れん)

無人機操縦技能特別資格保持者


そして


0.3%


川部 智(かわべ さとる)

記録なし


教室がざわつく


男は続けた


「ここで重要なのは適応率は結果ではないということだ 適応率とは可能性の指標 その人間が進化できる潜在能力を数値化したものだ」


画面に複数の項目が表示される


神経伝達速度 代謝効率 遺伝子安定性 免疫応答 筋繊維密度 脳活動閾値


「これら複数の生体情報を統合して算出される それが適応率だ」


男は次の画面を表示した

今度は大きく揺れる波形


「一方適応反応とは現象だ 実際に進化が発生した瞬間の生理反応を指す 人間が限界を超えたとき身体は自己最適化を開始する これが適応反応だ」


教室の誰かが言った


「つまり適応率は才能の量で 適応反応は発動した証拠ということか」


男は短く答えた


「概ね正しい」


そして一度間を置き ゆっくりこちらを見た


川部 智


「通常適応率が存在する限り反応は必ず発生する 数値が低くても微弱な反応は確認される だが例外がある」


教室の空気が張り詰める


「川部 智 お前だ」


男は画面を切り替えた


試験回数16

結果反応なし


「過去十六回の負荷試験すべてにおいて適応反応が観測されていない 適応率は存在する だが現象が発生しない 可能性があるのに変化が起きない この矛盾こそが研究対象だ」


教室が完全に静まり返る


男は続けた


「現在同様の個体は全国で十二名確認されている そのうち高校生は三名だ」


空気が凍る


つまり俺は三人のうちの一人だった


男は次の画面を表示した

学校の配置図


二年A組


という文字が拡大される


「ここで次の疑問が出るはずだ なぜこのクラスから六名も選ばれたのか」


教室の何人かが小さくうなずいた


男は言った


「このクラスは通常の学級ではない 二年A組は特別指定教育クラスだ 三年前 この地域は適応率上位個体の集中地域として指定された その結果 同世代の高適応率個体を一箇所に集約し観測と教育を同時に行う体制が構築された」


男は淡々と続ける


「つまりこのクラスは偶然ではない 最初から選抜候補として編成されたクラスだ」


教室の空気が一気に重くなる


男は次の画面を表示した

日本地図


県ごとに色が分かれている


濃淡の差が明確だった


「これは国家資源配分図だ 各県は成果に応じて資源を受け取る 研究費 教育設備 医療技術 食料供給 すべてだ その順位を決めるのが県対抗選抜戦だ 各県は毎年七名の代表を選出し その七名が県の戦力となる」


戦力


その言葉が静かに落ちる


男は言った


「任務は単純だ 成果を出すこと 勝利すること 生き残ること」


そして続けた


「戦闘は進化を誘発する 極限状態は適応反応を引き起こす つまり選抜戦は最大の観測環境だ だからお前が必要だ 川部 智」


教室が凍る


「進化しない人間が進化の中心に置かれたとき何が起きるのか それを観測する お前は戦力ではない だが不可欠な存在だ」


男はタブレットを閉じた


「これで六名だ だが代表は七名だ」


教室の空気が揺れる


男は扉の方を見て言った


「入れ」


教室の扉が静かに開く

足音が響く


ゆっくり

迷いなく


一人の生徒が入ってくる


制服が違う


この学校のものではない


教室の何人かが小さく息をのむ


その人物は前に進み 止まった

そして軽く一礼した


無駄な動きがない


静かな所作だった


代表局の男が言う


「彼は本校の生徒ではない 県立第一高等学校からの推薦枠だ」


短い沈黙


「正式な顔合わせは後日代表局で行う」


その人物は何も言わない


ただ一度だけ


教室全体を見渡した


そして


一瞬だけ


川部智と目が合った


次の瞬間


何事もなかったかのように視線を外した

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