第5話 深夜混んでいる将門塚
深夜2時、大手町の高層ビル群は冷たい静寂に沈んでいた。
青年は、ふと手元のスマートフォンに目を落とし、足を止めた。地図アプリが示す「将門塚」のピン。そこには場違いな、そして不気味な通知が表示されていた。
「混んでいます」
こんな時間に、誰が?
興味本位で足を踏み入れたその場所は、周囲をビルに囲まれた、ぽっかりと空いた闇のポケットのようだった。肉眼では誰もいない。街灯が寂しく石碑を照らすのみだ。
しかし、スマートフォンの画面をスワイプすると、さらなる異常が目につく。
「平均滞在時間:4時間」
誰かが、この狭い空間に、真夜中ずっと留まっているというのか。
青年が首塚の正面に立ち、軽く頭を下げたその時だった。
ふわりと、線香の煙のような香りが鼻をくすぐり、視界が歪んだ。
「……ここも、随分と窮屈になったものだな」
凛とした声が響き、青年の眼前に「景色」が重なった。
石碑の前に座しているのは、豪奢な鎧を纏った一人の男。荒々しくも気品に満ちたその貌こそ、かつて関東を統べようとした新皇・平将門であった。
そして、彼を囲むように、透き通った体躯の兵士たちが幾重にも座していた。かつての合戦を語り合っているのか、あるいは故郷の下総の思い出話に花を咲かせているのか。
兵士たちの表情は、怨霊のそれではない。敬愛する主君を囲み、穏やかに、楽しげに談笑しているのだ。
一人の若武者が青年に気づき、将門に耳打ちした。
青年は身を硬くしたが、将門はゆっくりと彼を振り返り、悪戯っぽく口角を上げた。
「案ずるな、童。貴様の命を奪うほど、我らは飢えてはおらぬ。ただ、久方ぶりに集まってな。積もる話があるのだ」
将門が軽く手を振ると、兵士たちがどっと沸いた。
彼らは現代の喧騒を気にする様子もなく、ただ主君との一時を慈しんでいる。地図アプリが示した「混雑」の正体は、千年の時を超えて集結した、忠義の軍勢そのものだったのだ。
青年はその威厳と、不思議な温かさに圧倒され、ただ立ち尽くしていた。
どれほど時間が過ぎたか。ふと意識が現実に戻ると、辺りは元の静かな公園に戻っていた。
ポケットの中でスマートフォンが震える。
画面を確認すると、グラフの山は一段と高くなり、依然として赤字でこう表示されていた。
「通常より大幅に混んでいます」
今もなお、目に見えぬ軍勢は主君を囲み、この都会の片隅で宴を続けているのだろう。青年は、かつて多くの民が彼についていった理由が分かった気がして、もう一度深く、静寂に頭を下げた。
※深夜混んでいるスマホの表示のスクショをインスタの画像置き場に載せました。
https://www.instagram.com/p/DXAFCiKk-T4/?igsh=ZTNqdzlkc3hzbWRt




