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星光の魔法戦士  作者: あさぼん
第2章 会うは別れの始め
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Hypnosis Song

一方、その頃。優地はバイト先の一つである川越駅前のスーパーに働いていた。


「…店長、なんですかこれ」


店長が自慢げな顔で謎のデカい機械の上に腕を置いている。


「仕入れたんだよ…超巨大音楽プレイヤーを!」

「超巨大音楽プレイヤー…?」


その場にいる店員がみんな困惑する。


「…要するに音楽聞けるのよ、バカでかい分性能はいいんだよ?」


店長はそう言うと、リモコンを操作して音楽を流す。


「いい曲…ですけど」

「少し世代が古くないっすかね?」

「えー?確かに僕が社会人1年目とかの時の曲だけど…」

「店長、それ最低でも20年経ってるっすよ〜? 」


市川がそう言うと、店長が固まる。


「カーッ…ジェネレーションギャップかぁ…」

「店長、時代はUTA-HIMEですよ〜、そうだ、UTA-HIMEの曲流せません?」

「あ、これCDオンリーだけど」


店長の言葉に一同が肩を落とす。


「CDなんて今どき誰も持ってませんよ…」

「そもそも今なんてスマホひとつで聞けるんですから…」

「店長、図りましたね…!」

「いや知らんし…ま、いないってことは仕方ないから俺の好きな曲をずっと流すか…」

「あ、そういや俺CD持ってますよ?」


優地がそう言うと、一同が優地の方に視線を向ける。


「優地くんナイス!」

「店長のオヤジ臭い曲じゃないならなんでもいい!さあ早く流すんだ!!」

「ねえひどくない?ひどいよね?」


店長がそうぼやきつつ、優地は機械を操作してCDを挿入する。


流れてきた曲の声は少し幼さがあったが、とてもきれいな歌声で一同は惚れ惚れしている。


「優地くん、これってどっから持ってきたの?」

「好きな歌で…彼女に渡そうとしたんですけど渡しそこねて…」

「そっか、高校生は大宮行ってるのか…私も行きたかったなー」


市川が言うと、店長が唸り声をあげる。


「優地くん…」

「『ひどくない?』とかならお断りですよ」

「いやさぁ…この歌手の名前ってわかる?」


優地は店長の質問に首を傾げる。


「それが…CDに入ってた紙は日焼けしちゃってて読めなくて…正直、誰かわからないんです」

「そっかぁ…いや、なーんか聞き覚えがあってさぁ…」


店員たちが曲にノッている中、優地と店長の二人は唸り声をあげるのだった。





『言うことを聞けないお人形さんには…きつーいお仕置きが…必要ですねぇ…!』


先程までとは別人のようなUTA-HIMEと、周囲の異様な光景に陽菜は混乱していた。


『皆さぁん、そこにいるお嬢さんを〜、取り押さえてくださぁい』


UTA-HIMEがそう言うと、近くにいた観客が陽菜に向かって飛びかかってくる。

最初は上手く交わしていたが、増え続ける人のせいで次第に逃げ場がなくなっていく。


「…っ!」


まもなく、背後から飛びかかってきた人にぶつかり、陽菜は地面に倒れた。

すぐさま、周りにいた人々が一気に陽菜を取り押さえる。


「言うことを聞けないお嬢さんにはぁ…私の歌をまる1日聞いてもらってぇ、虜になってもらいましょうか〜」


取り押さえられた陽菜にUTA-HIMEが近づいてくる。なんとか手足を動かそうとするが、取り押さえている人々の力が強すぎて振りほどけない。

気がつけば、UTA-HIMEはすぐ目の前まで来ていた。


「可愛いお嬢さんですねぇ…壊してしまうのがもったいないくらい…」


UTA-HIMEは陽菜の前に屈むと、顎に手をかけて持ち上げる。

その時だった。


「ハイドロ・ストリーム!」


二人の横から大波が押し寄せ、陽菜とUTA-HIME、周囲の人々をまとめて流していく。

流されていく陽菜の腕を誰かが掴み、そのまま持ち上げる。


「陽菜ちゃん、大丈夫!?」

「ゲホッ…徳姫…さんと…天音さん?」

「怪我はありませんか?」


陽菜を持ち上げた徳姫と天音は、そのまま陽菜を会場の最も高いところまで持ち上げて降ろした。


「無事だったんですか…!?」

「はい、徳姫さんのおかげでなんとか…」




陽菜が戻る数分前。ライブを聴いていた徳姫と天音は違和感を感じ始めていた。


「なんだか…乗り物で酔ったときのような感じがします…」

「私も…なんでだろ…」


歌を聞き始めて数十分。歓声に包まれる会場で、二人は謎の倦怠感と立ちくらみを覚えていた。

次第にその違和感は、頭まで到達し始める。


「気持ち悪い…ですけど、なんだか楽しい感じがしてきたような…」


やがて違和感は高揚感へと変わっていく。先程までの苦しさとは一転、幸福感に包まれて―――


「天音ちゃん!」


横から聞こえた声と頬に感じた痛みで、天音は正気を戻した。


「徳姫さん…?」

「ごめん、こうでもしないと多分正気に戻れなかったから…」


ふと天音が徳姫の左手を見ると、そこには小さな刺し傷があった。


「徳姫さんそれって…」

「ちょっとね……それより聞いてほしいの。多分なんだけど…この歌、人を洗脳する力がある」

「洗脳する力って…そんないきなり…」

「前にメイオウにされたやつと似た感じがしたの…あれよりは優しくて、どっちかと言うと懐柔される感じだけど…」


徳姫は以前、メイオウの支配を受けたことがある。下手な勘より根拠のある言葉だった。


「…仮にあるとして、なぜそのようなことが…」


その時だった。下に見える入口に陽菜が見えた。


『みなさーん、私のこと、好きですかー?』

「「「「好きー!」」」」

『じゃあ皆さん…私の言う事、なんでも聞いてくれますよね?』





「最初は様子見でしたが、流石に動かないわけにはいかなくなりましてね…」

「…結構水量あったと思うんだけど、UTA-HIME結構ピンピンしてるよ…」


下を見ると、UTA-HIMEが何もなかったように起き上がり、どこからか持ってきたタオルで顔を拭いている。


「ひどいですねぇ…メイクが落ちちゃったらどうするんですか?」

「メイクじゃないのでしょう?その姿は…」


UTA-HIMEの言葉に、天音が言い返す。


「メイクじゃないって、まさか…」

「…同業者を騙すには、ちょっと嘘が下手でしたかぁー」


陽菜がそう言うと、陽菜たちの真横を光弾が通り過ぎる。


「そうです。私はあなた達と同じ、魔法戦士なんですよぉ〜」

「ははは…当たってほしくない予想があたっちゃったなぁ…」

「魔法戦士って…なんで!?」

「魔法戦士だからといって、全員が世界を守ろうとしているわけではありません……彼女のように」


陽菜の疑問に、天音が答える。


「せっかくですし、皆さんには私の力を教えてあげましょう…私の力は『言葉を具現化させる能力』。つまり、私が言ったことはすべて現実になるんです。こんな風に……」


するとUTA-HIMEは息を大きく吸う。


『爆ぜて』


すると、陽菜たちの周りで突然小さな爆発が起きる。


「変身(チェンジ)!」


咄嗟に陽菜も変身して身構えるが、爆発はごく小規模であり、大したものではなかった。が―――


「よそ見はぁ…めっ!ですよ!」


後ろからの声に気づき振り向くと、UTA-HIMEがマイクスタンドを思い切り振りかぶっていた。


「フィリア・シールド!」


陽菜が咄嗟にガードを展開するが―――


『吹き飛んで』


すると、陽菜たちの体が中に浮かび、一気に地面まで吹き飛ばされる。


『抑え込んでください、みなさーん!』


UTA-HIMEがそう言うと、地面に激突した陽菜たちを観客たちがのしかかってくる。

最初は薙ぎ払っていた三人だったが、一般人相手に本気で攻撃することもできない。

手加減しながら追い払っているうちに、次々と人が押し寄せ、ついには三人とも身動きが取れなくなった。


「ここまで人が多いと、先程のように無理やり押しのけるのも無理でしょう?」


眼前まで来たUTA-HIMEに陽菜が問いただす。


「どうして…どうしてこんなこんなことをするんですか!この前は…みんなを励ましたいって!」

「そのとおりですよぉ。私は皆さんを励まして、笑顔になってほしいんです…ほら、み~んな笑っているでしょう?」


周りを見ると、UTA-HIMEに向けて再び歓声が送られる。観客たちはみな笑みを浮かべて歓声を送っている。しかし、そこに感情はこもっていない。空っぽの歓声が、陽菜たちの周りで響く。


「狂ってる…!」

「正気の沙汰ではありません…!」


UTA-HIMEを非難する二人。

その直後、UTA-HIMEの後方に二人の人影がみえる。一人は先ほど会ったUTA-HIMEのマネージャー、そしてもう一人は―――


「メイオウ…!?」

「お久しぶりですね、皆さん」


二人は一瞬、彼女が操られている可能性を考えた。しかし―――メイオウは突然四つん這いになって地面に這いつくばった。


「あら、いつも通り椅子になってくれるんですかぁ。ありがたいですね〜」

「いえいえ…U(・)T(・)A(・)-(・)H(・)I(・)M(・)E(・)様(・)の命令とあらば、なんでもお申し付けください」

「えっ…!?」「なっ…!?」


突然の光景に困惑する二人。


「こちらの方はスポンサーのお一人なんです。どうやらお知り合いのようですが、この方はもう私の忠実な犬なんですよ〜」

「UTA-HIME様!一生ついていきます!!」


まさか、メイオウまでもUTA-HIMEの支配下に落ちているとは思わなかった。陽菜、徳姫、天音の三人は衝撃を受ける。


「ところで真音さん、準備はできてますか〜?」

「もちろんよ。すでに県内の大半のネットワークは掌握してるわ!」

「何を…するつもりですか!」


取り押さえられたままの陽菜がUTA-HIMEに問う。その声色には、怒りがにじみ出ている。


「反骨精神の強い方ですねぇ…でも、もうすぐ皆さんも彼のようになるんですよ?」


UTA-HIMEは立ち上がり、未だに四つん這いになっているメイオウを蹴り飛ばす。


「ああ感服!」


気味の悪い発言をするメイオウを横目に、UTA-HIMEは再びステージへ戻っていく。


「…今だ!」


徳姫がそう言うと、再び大波が一同を飲み込む。三人を取り押さえていた人々が流され、三人は解放される。同時に、三人はそのまま入口へ続く通路へ向かう。


『止まりなさい!』


UTA-HIMEがそう言うと、三人の動きがピタッと止まり、動けなくなる。


「はぁ…っ!」


しかし、陽菜だけはその拘束を振り払い、会場から去っていった。


「一人だけ逃げてしまいましたが…まあ戻ってくるのは時間の問題でしょう」


動きを止められた徳姫、天音は先程振り払った観客によって近くの椅子まで運ばれ、縄できつく拘束される。


『それでは皆さん…私、UTA-HIMEによる、エターナル・ライブをお楽しみください!』





拘束を振り払った陽菜は入口の窓ガラスを突き破り、会場の外へ出る。

そのままアリーナの上空まで来た陽菜だったが、まもなく異変に気づいた。


アリーナの外にいるはずなのに、UTA-HIMEの曲が街の至る所から聞こえてくる。

よく見ると、ここへ来るときには動き続けていた道路の車が、すべて止まっている。

その周囲では、人々がまるでゾンビのように力なく徘徊していた。


『みなさーん!私の声が聞こえていますか〜?』


UTA-HIMEの声に、人々が歓声をあげる。

UTA-HIMEの声は近くの防災無線から聞こえ、ビルのスクリーンの映像はUTA-HIMEのライブ中継になっている。


『私のライブからぁ、脱走者がでちゃったんです!この人を見つけた人は、すぐに私に連絡してくださいね〜!』


スクリーンには陽菜の姿が映し出されている。


「おい、いたぞ!」

「空にいるわ!」


先程までUTA-HIMEの声を聞いていた人々が陽菜を指差している。

今や、街中の人々がUTA-HIMEの操り人形と化していた。


(…優地!)


陽菜は胸騒ぎを覚えた。この騒ぎがこのあたりだけで済んでいるはずがない。先程、マネージャーの男は「県内の大半のネットワークを掌握した」と言っていた。

そこから考えられる、最悪の可能性。


(…徳姫さん、天音さん、絶対にまた後で来ます!)


陽菜は心の中でそう言うと、川越に向かって飛び立つのだった。

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