メイオウ
「なんて量の魔素だ…!」
優地の身体から徐々に姿を表し始める黒い影。それを嬉々としながら見る仮面の男と、絶望し、慟哭し続ける陽菜。
「もう…やめて…!」
何度目かわからない、陽菜の悲痛な声。しかし、仮面の男は一切を無視して優地の方を向いている。
そして、遂に。
優地の身体から、魔獣の腕が見え始める。
「さあ、もうすぐ生まれるぞ!!!」
そして、次々に濃くなる気配。
魔獣が生まれる。
―――はずだった。
突如として優地を中心として発生していた魔力の流れが逆流し始める。
「なに…?」
当事者であった仮面の男も、想定外の事態に困惑していた。
優地を中心として発生していた魔力の放出は、逆に優地の方へ収束していき、そのまま何事もなかったかのように収まった。
「おい…メイオウ!どうなってんだ!」
「わからない…こんなことはいまだかつて見たことが無いが…」
仮面の男―――メイオウは困惑しながら、レオの問いを返す。
そしてメイオウは優地の胸ぐらをつかんで再び持ち上げる。
「こんなことは初めてだよ…まさか魔獣が生まれないことがあるとはね…。まあこれはこれで面白いことができそうだが…」
そんなことを言った直後。優地の胸ぐらを掴んでいた腕が強く握られる。
「痛えじゃ…ねえかよ…!」
そう言うと、目を覚ました優地は右足でメイオウの腹部を攻撃する。
繰り出された蹴りは大した威力ではないものの、メイオウは反射で回避する。
「こりゃ驚いた…君、そんなボロボロなのにまだ動けるんだ」
「お陰様でな…!」
そうは言っているが、足は直立を維持することすらできていない。
「優地…!駄目、逃げて…」
「逃げれるわけねえだろ…!」
死にかけの優地をなんとしても止めたい陽菜。しかし、優地は止まろうとしなかった。
おぼつかない足取りでメイオウに攻撃を仕掛ける。
勢いのない拳をメイオウはなんなく受け止める。
「勇気と無謀は全く違うんじゃないかな?」
「そらそうだ…だってこの攻撃は…おとりだからな…!」
そう言うと優地の視線はメイオウの後方へ移る。
視線の先を追った二人だったが、気づいた時にはもう遅かった。
「聖炎!」
駆けつけた天音の炎が二人を容赦なく覆い尽くす。
「遅れてすみません皆さん!」
そう言うと、天音は後ろにいる二人に目を向ける。
「天音さんまだあいつら…!」
そう優地が指を指すと、炎に包まれた二人は炎を振り払って再び姿を表す。
「チッ、焦げ臭ぇ…!」
「なかなかやる子じゃないか」
まだピンピンしている二人に対し、天音は臨戦態勢を取る。
「もう一戦…と言いたいが、そうもいかないようだ」
メイオウはそう言うと、陽菜たちの後ろを指差す。
見えた影。それはやや遅くはあったが、救援に駆けつけた別の魔法戦士たちだった。
「これ以上、こちらの手の内を見せるのは得策じゃないと判断したよ」
メイオウを中心に黒い竜巻が吹き始め、姿が消え始める。
「そう遠くないうちに、また会おう」
そうして、メイオウとレオは姿を消したのだった。
「…これで外傷は治せましたね」
陽菜、徳姫、そして優地は天音の回復を受けていた。
「ごめんね、早々にダウンしちゃって…」
「仕方ないですよ徳姫さん、相手が悪すぎました。私だって不意打ちだったから攻撃できただけで真正面からだったらどうなることか…」
徳姫の自虐に対し、天音が擁護する。
「いやー、助かりましたよ。本当に全身めっちゃ痛かったんで…」
「…優地くんは今回無理をしすぎです。幸運に幸運が重なったから良かったものの、下手をすれば死んでいたかもしれないんですよ?」
「まあでも、生きてはいますし、それになんやかんやで陽菜も助けられたんですし。結果オーライですよ」
優地は軽く言う。そして陽菜に近づく。陽菜は戦いが終わってから口を一度も開いていない。
「陽菜、落ち込むんじゃねえぞ。今回の相手はめっちゃ強かっただけなんだから。陽菜だったらきっと次は勝てる。俺だって全力でサポートするから…」
「…なんで…」
優地が喋っている途中で陽菜が呟く。
「…なんで逃げなかったの?」
陽菜は目線を優地へ向けずに問う。
「そりゃまあ、陽菜の力になりたかったからさ。魔獣の情報少しでも把握しようとしたら運悪くあのレオって奴と鉢合わせちまって…。レオはなんとかなったが、仮面のやつは駄目だった」
その言葉を聞いた陽菜の身体が少しずつ震え始める。
「前にも言ったけどよ、俺はお前の助けになりたい。それがほんの僅かだったとしても、俺はお前のために…」
その話を遮るように、陽菜が突然優地の頬にビンタをくらわせる。
「陽菜ちゃん…?」
状況を整理できてない徳姫が陽菜に問う。
「…ないで」
陽菜が小さい声で言う。
「…ふざけないでよ」
「いや俺はふざけてなんか…」
「私は優地を守りたくて戦ってるの…!それなのに…どうして自分から…!」
陽菜の声が震え始めるとともに、俯いた顔からわずかに頬を伝う涙が見える。
「俺だってお前を守りたいんだ!」
「だからって死んだら元も子もないでしょ!それに…」
言葉とともに、伝っていた涙が地面に落ちる。
「絶対に一人にしないって、言ったのに…」
その言葉を聞いた優地がハッとする。
「それは…」
そう言うと、優地は黙り込んでしまう。
その日、二人がそれ以上会話をすることはなかった。




