獅子と蛇
「―――魔獣って、人為的に生み出されるものなんですか?」
その言葉に私も、赤井さんも驚く。
そして―――
「君は何を言ってるんだ?」
確かに魔獣は人から生まれていた。しかし、それはあくまでも負の感情の蓄積によるもの。人が望んで生み出せるわけがない。
「この前陽菜が戦ってた時、変なやつに襲われたんです。陽菜たちみたいな不思議な力を使って襲ってきて…」
「優地くん」
話している優地を遮るように赤井さんが言う。
「そのような報告はいまだに聞いたことがない。現場では常に小型カメラによる監視が行われている。人がいればすぐに気づくはずだ」
赤井さんは続けて、
「第一、魔獣出現時には直ちに交通規制と避難指示が出て、付近には魔法戦士以外の人がいなくなる。そんな中、外に出ていれば戦闘中の魔法戦士が気づくはずだ」
優地は対抗して言う。
「でも、実際に見たんです。第一、俺だって避難指示が出てるのに外には出てるし、戦いの終わる直前まで気づかれなかったりしたし、それに…!」
そこまで言ったところで優地のポケットから電話がなる。
スマホを確認し、優地が電話に出る。
「店長?俺今日休みの日のはずですけど…は?インフルエンザで従業員少ないから来て?いや給料出すならいいですけど…」
そう言って優地は電話を切る。
「…急ですがバイト行きます。話の続きは帰ってきてからにしましょう」
なにか言いたそうな顔をしつつ、優地はドアの方へ向かう。
「そうだ。陽菜はどうする?」
「…もう少しここにいる。私もあの動画に関連して聞きたいこともあるし」
「そうか…帰り、気をつけろよ」
そう言って優地は部屋から出ていった。
そして、入れ替わるように徳姫さん、天音さん、少し遅れて青田さんと緑谷さんも入ってきた。
「めっちゃダッシュしてる優地くんみましたけど…どうしたんですか?」
青田さんが不思議そうに聞く。
「優地、バイト何個か掛け持ちしてるんです。お金そんなにないので…」
「あれ、そうなの。どうしてなの?」
徳姫さんが不思議そうに聞く。
「うーんと…勝手に話しちゃっていいのかな…」
優地が貧乏なのはいろいろな理由があり、不用意に他人が話していいのか怪しい内容もあるので少し考えることにした。
「今度、優地と一緒にいるときでいいですか?」
ひとまずはまた今度、ということにした。時刻はまだ午前中。しかし、午前中の快晴は曇天へと変わっていっていた。
バイト先の一つである、川越駅前のスーパーのレジに立つ優地。時刻は正午手前で、早昼を買いに来る人が多い時間帯だ。
昼前の客のピークがすぎると優地の口からため息が漏れ出す。
すると、後ろから一人の女性が歩いてきた。
「優地くん、どうしたん?そんなため息はいちゃって」
「…なんだ、市川さんか」
市川 真沙。ここで働く1歳上のバイト先輩だ。見た目はいわゆるギャルと言われる女性で、店長曰く、ビジュがいいので、彼女目的でここに通っている客層が一定数いるらしい。噂によると大宮とかそちらの方の頭の良い高校に通っているようだが…
「市川さんは今日、学校ないんですか?」
「うちのクラスもインフル流行って学級閉鎖なっちゃってさ〜。ていうかさっきの質問から逸らすなし」
そう言ってほっぺたを突かれる。
学力も接客センスもいいので憧れはするのだが…如何せん、こういうダル絡みしてくるところはあまり好きではない。
「もしかして、彼女さんとまたなんかあった〜?」
「…違います」
市川さんの言う通りだった。ここしばらくでいろんなことが起きすぎたせいで、少し敏感になっていたのかもしれない。
「まーさ、気楽に行きなよ。優地くんは色々考えすぎ。もっと肩の力抜きなよ〜」
そう言いながら肩をポコポコ叩いてくる。
「こら、そこさぼんなーい」
たまたま近くを通った店長が指差して指摘する。
店長はだらけきった中年おじさん感はあるが、仕事センス自体は一流であり、店長を任せられてるだけはある。
「てか煙くさーい。もしかして店長、またタバコ吸ってきたの?」
「いいじゃーん、やる気出るんだから」
「それ、ニコチンでドーパミン出してるだけですから…」
そんなことを話していると―――外からけたたましいサイレンが鳴り始めた。
魔獣警報だ。
「はぁ…せっかくやる気出てきたのにさー。店内の人の避難誘導してねー。優地くんは上の百均エリアお願い」
そう指示された俺は2階へ上がり、残っている人の避難誘導を行う。
まもなく、店内の避難が完了し、店員が集合する。
「店員はここに全員いるし、店内の確認は済んだ…じゃあ、こっちもさっさと逃げますか」
そう言うと店長たちも避難を開始する。
だが、俺は―――
「店長、先に行っててください。一応もう一回確認します」
「え、ちょっと…優地くん!?」
市川さんの制止を振り払って裏口へ向かい、そこから出る。ここらへんの魔獣災害ならおそらく最速で来るのは陽菜だ。
少しでも陽菜の力添えをしたい。そう誓ったからには、少しでも多くの人を逃がし、できるなら魔獣の情報も事前に手に入れておきたい。そう思いながら避難する人混みをかき分け、土煙の立つ方へ向かう。
少し時間がたち、現場近くの駅の中を越えたあたりでふとすれ違った人の中に身に覚えのある殺気を感じ、咄嗟に身をかがめる。
その瞬間、斬撃が頭部を掠め、近くの柱や逃げている人に命中する。
「お前…!」
そう言って攻撃を放った人物の方へ目線を向ける。そこにいたのは―――この前学校で会ったあの少年であった。
「よお、久しいな」
最悪だ。この前みたいに周りに人がいないならまだしも、今、周りには先程の攻撃で負傷し、逃げられなくなっている人がたくさんいる。ここでこの前のような戦闘を繰り広げたら、おそらく周りにいる人たちは無事では済まないだろう。
ならここは…
「来いよ、変なの!」
そう言って避難所とは反対側へ駆け出した。
「変なのじゃない!俺は…レオだ!」
レオはそう名乗ると同時に、周囲の建造物を破壊しながら、斬撃を飛ばすのだった。
一方の陽菜たちも変身し、川越へ全速力で向かっていた。
「司令!場所もう一回確認させてもらえますか!」
飛行中の徳姫さんが通信機越しに赤井さんに聞く。
『現場は川越市の新河岸川沿いのドラッグストア付近だ。現場にはネームド級1体とアゲリ2体を確認している』
『赤井司令、付近のカメラを確認したところ、近くの老人ホームに3名ほど取り残されているようです』
緑谷さんの端末映像が共有され、窓から外の様子を見る高齢者を確認する。
続けて青田さんが、
『車椅子に乗っているところを見るに、おそらく足が不自由なのが原因で逃げ遅れてしまったんでしょう。司令、どうしますか?』
『徳姫は魔獣の足止めを、陽菜、天音は老人ホームへ行って救助を優先してくれ。万が一避難が困難な場合は徳姫を向かわせる』
「「「了解!」」」
私たちはそう応えると、やがて少し離れたところに魔獣の姿が見えてきた。
その姿は、ヘビのような長い体で、頭部には4つの目がついていた。
「それでは、私と陽菜さんは逃げ遅れた方々の救助を行います。徳姫さんも無理をしないように」
「わかってるって。安心してよ」
徳姫さんと天音さんがそう言葉をかわすと、徳姫さんは魔獣の方へ向かっていった。
そして私たちも、取り残されている人たちのところへ向かう。
移動している最中、通信機からタイピング音が聞こえる。
『えっと…最寄りの避難所は…』
『入間川沿いの小学校のシェルターです。老人ホームからは5分程度で着けます』
一応地元なので知ってるつもりだったが、それより早く答えた緑谷さんに私は驚く。
「すごいですね…あの辺りの地理に詳しいんですか?」
『いえ…昔から記憶力が良くて…地図は勿論、その日各地で行われる行事や他人が話していたこととかも全部覚えられるんです』
「すごいですね、緑谷さん」
川越は広い。日常的に行く駅前なら私でも覚えているが、少しでも中心街から離れると自分でもわからなくなる。地元民でもないのに答えられるのはすごいと思った。
『それほどのものではありませんよ。それより、現場の入口付近に魔獣がいます』
『それでは魔獣の方は陽菜くんが、要救助者は天音くんが救出してくれ、一応怪我がないか確認したい』
「「了解」」
そう言って老人ホームに天音さんは建物の方へ向かい、
私は魔獣の方へ、勢いをつけて頭部を蹴りつける。
魔獣は吹き飛ばされて近くの建物の外壁に激突するが、まだピンピンしている。
「アガペリオ・ストライク!」
起き上がろうとする魔獣に、間髪入れずに攻撃を叩き込む。
まもなく、魔獣は粒子となって消滅した。
「あら、もう倒されたのですか。陽菜さんはやはり強いですね」
「はい、まあアゲリくらいならもう余裕ですよ!ところで、救助された方は…」
「お一人、腰を抜かしてしまっていた方がいましたが、それ以外は皆様無事です」
よかった、そう思った刹那、通信機から赤井さんの声が聞こえる。
『救助は完了したか?』
「はい、全員命に別状はありませんよ」
赤井さんの質問に対し、天音さんが答える。
『そうか。なら、可能な限り早く徳姫の方に向かってほしい。既にかなりのダメージを与えているが、やはり彼女の能力だと決定打に欠けている』
「それなら、私が向かいます!天音さんは救助者を避難所へお願いできますか?」
「はい、皆さんを届けてから私は合流するとしましょう」
そう言って、天音さんは救助した人たちを連れて避難所へ向かった。
その後ろ姿を少し見てから、私は徳姫さんの方へ向かう。
2、3分ほどで私は戦闘中の徳姫さんのところに着いた。
「陽菜ちゃん!要救助者は大丈夫だった?」
「はい、今天音さんが避難所に連れて行っています!」
「オッケー…で、早速今の状況なんだけど…」
そう言うと徳姫さんは魔獣の方へ目を向ける。
「あいつ、結構視野が広くてね。近距離攻撃だと攻撃する前にカウンターされる可能性が高そうなの。おまけに、この前の亀もどきと違って体が結構柔らかくてね…私の攻撃でも貫通しないの」
「それじゃ、どうしたら…」
「大丈夫」
私が不安そうに聞くと、徳姫さんが私を落ち着かせる。
そして、魔獣の顔に指を指す。
「さっきから何度か攻撃しててわかったんだけど、あいつ多分目が弱点。頭部は何度か攻撃してたけど、目の辺りに向けた攻撃だけは受け止めずに避けてたの」
「それじゃあ、目を攻撃すれば…!」
「隙ができると思う!」
そう発すると同時に徳姫さんが手元に水を集める。
そしてそれが小さな球体になると、魔獣に向かってレーザーのごとく放たれる。
「ハードヴァッサー!」
魔獣が負けじと尻尾で瓦礫を弾く。しかし、徳姫さんの放った攻撃はそんな瓦礫をものともせず、貫通していく。
レーザーはそのまま魔獣の右下の目に命中し、魔獣は咆哮を上げる。
「あと3つ…!」
徳姫さんは魔獣目掛けて、再度攻撃を放つのだった。




