影で動くもの
放課後の屋上には、冷たい風が吹いていた。
フェンス越しの空はまだ明るいのに、どこか落ち着かない色をしている。
先に来ていた優地は、足音に気づいて振り返った。
その表情はいつも通りを装っているのに、どこか硬い。
少しだけ、沈黙。
昨日からずっと胸につかえていたものが、その沈黙を余計に重くする。
陽菜は意を決して口を開いた。
「昨日のこと……ちゃんと話したくて」
「……」
「私は…魔法戦士、やりたい。」
優地は一瞬俯いてから言った。
「もし…俺が駄目だと言ったら?」
「…それでも、私はやりたい。この力で守れる人がいるなら、私は…」
「その中に“陽菜自身”はいるか?」
「…え?」
一瞬、困惑する。
「確かに、今のお前ならある程度は対処できるんだろうな…。だけど、もしお前でも敵わないやつが現れたら?」
「それは…」
「陽菜。」
言葉の詰まった私に優地が言う。
「お前は強くなった。だけど“無敵”じゃないんだ。死ぬときは死ぬ。お前はそれでおしまいだけど、残された奴らはどう思ってるかわかるのか?」
私は何も言えない。
「何より…自分勝手な話だが、お前になんかあったら俺が嫌なんだ。」
優地の顔は今まで見たことないくらい真剣だった。
その目を見ているだけで、胸の奥がざわつく。
ただ心配しているだけじゃない。
もっと深くて、もっと切実な何かが、その声の端々に滲んでいた。
でも――それが何なのか、今の私にはわからない。
「優地……」
名前を呼んでも、うまく言葉が続かない。
言われていることは、全部正しい。
私は魔法戦士になったばかりで、まだ知らないことも多い。
強敵が現れれば、勝てないかもしれない。
怪我をするかもしれない。
本当に、命を落とすことだって――
そこまで考えて、喉の奥がひりついた。
怖くないわけじゃない。
そんなはず、ない。
でも。
「……それでも」
絞り出すように、私は言った。
優地の眉がぴくりと動く。
「怖くないわけじゃないよ。そんなの、私だってわかってる」
握りしめた手に、じんわりと汗が滲む。
「勝てない相手がいるかもしれない。私がどうにもできないことだって、きっとある」
少しずつ、でも逃げないように。
私はまっすぐ優地を見る。
「でも、それで何もしないままなんて……私には無理だよ」
風が吹き抜けて、髪が揺れた。
優地は黙ったまま、私を見ている。
その視線が痛いほど真っ直ぐで、思わず息が詰まりそうになる。
「前の私なら、きっと怖くて動けなかったと思う」
ぽつり、と零す。
「誰かが傷ついてるのを見ても、助けたいって思っても……自分には無理だって、そうやって諦めてたかもしれない」
だけど、と私は続ける。
「今は違う」
一歩、優地に近づく。
「力があるの。戦えるの。だったら、見てるだけなんてできない」
「……」
「優地が言う通り、私は無敵じゃない。そんなこと、自分が一番わかってる」
そこまで言って、一度息を吸う。
胸の奥が熱い。
怖さと、迷いと、それでも譲れない気持ちが全部混ざっている。
「それでも私は……誰かを守りたい」
優地の表情が、わずかに揺れた。
私はそのまま、言葉を重ねる。
「それに」
一瞬だけ、喉が詰まる。
本当は少し恥ずかしい。
でも、ここで誤魔化したくなかった。
「……優地のことも、守りたい。今まで、優地にはたくさん助けてもらった。支えてもらったし、守ってもらった。だから…」
私は優地の方へ歩み寄る。
「今度は、私が守る。」
優地は一瞬後ろを向いてから、再度こちらを向いて言った。
「それが、どれだけ苦しいことになったとしてもか?」
「…うん。」
きっと、この先困難は多くあるのだろう。だとしても、私は優地を、みんなを守りたい。
そのためなら…
その時だった。突如、建物が崩れるような轟音と共に、学校が揺れた。
揺れが収まり、私が外を見ると、校舎の壁を突き破るように亀のような魔獣が現れていた。すぐ近くには部活中の生徒などがいてパニックになっている。
突然の出来事に一瞬思考が固まるが、すぐに状況を理解し、私は魔獣がいる方へ向かい始める。だが―――
「待て!」
私の前に優地が立ちはだかる。
「本当に…行くのかよ。」
「…確かに、怖くないって言ったら、嘘になる。」
立ちはだかった優地の前に立つ。
「だけど、戦えないみんなは私よりもっと怖いと思う。だからこそ、私がどうにかしなきゃいけないの。」
優地は何か言いかけて、けれど結局、言葉を飲み込んだ。
その場に立ち尽くす優地を置いて、私は下へ向かう。
「…優地も、避難してね。」
そう言うと私は屋上を後にした。
階段を下り、私はまもなく一階へ着く。一階の廊下は途中から跡形もなくなっており、魔獣の後方部が見えた。
「変身!」
私はそう言いながら魔獣に突進し、そのままの勢いで一撃を叩き込む。魔獣は大きく飛ばされ、反対側の校舎に激突した。
その直後、徳姫と天音が駆けつける。
「説得は…どうだった?」
「……納得は、してもらえてません。」
「それでも…戦ってくれるんですね。」
天音はなにか感づいたのか、少し不安そうな顔を見せた。
そんな雰囲気を見た徳姫が言った。
「とにかく、今は目の前の魔獣!…と言っても、見た目通りなら硬そうだよねぇ…特にあの甲羅。」
そう言うと徳姫は甲羅を指差す。
さっき、私が一撃入れたはずだが、体には見た感じ、全く傷がついていなさそうだった。
ここからこの魔獣をどうすれば倒せるのだろうか?
一方、優地も一階に降り、避難する生徒たちを見ながら陽菜の方へ向かっていた。
自分のほうが危険なのは百も承知だが、だとしても陽菜を置いて逃げられるはずがなかった。
そして陽菜たちが戦っている地点からは少し離れた中庭に着いた。
ここからなら、茂みに隠れつつ、ある程度は安全に陽菜たちの様子を見れるだろう…そう思っていると、ベンチで眠っている少年を一人見つけた。
…こんな状況でよく寝れるなとツッコみたくなったが、自分にも前例があったのでなんとも言えなかった。仕方なく、揺さぶって起こそうとするが、一向に起きる気配がない。そこに、知っている顔が現れた。
「優地、お前まだ避難してなかったのかよ。」
「お、新一か。ちょうどいい。」
新一はバスケ部のユニフォームを着ている。おそらく、部活中だったのだろう。
「この寝坊助野郎を避難所まで運んでやってくれねえか…?」
そう言われると新一は横にいる少年に目を向ける。
「こりゃびっくりした、死んでるんかと思ったよ。」
「…流石に失礼じゃないか?それ」
そんな事を話しつつ、新一は少年を背負う。
「…お前もさっさと逃げろよ、また怪我したら洒落にならないからな。」
そう言うと、新一はシェルターの方に向かっていった。
「とは言われてもなぁ…」
流石に陽菜を置いてはいけない。そんな事を考えながら陽菜たちが戦ってる方に目を向けると、陽菜たちの様子を見るように小柄な少年が立っていた。
…俺以外にも、まだ避難していない奴がいたのか?そんなことを考えつつ優地はその少年に声をかける。
「おいお前、ここは…」
危ないぞ。そう言おうとした。だが、彼がこちらを向いた途端、体中の細胞が震え上がった。
咄嗟の判断で後ろに飛び退く。
「まだ人がいたのか。まあいい…」
そう言うと少年は―――
手を振り上げた。すると、その爪から衝撃波が放たれる。
咄嗟の判断で避けたが、後ろにあった木は、衝撃波が当たると粉々に砕けてしまった。
「は…?」
状況が理解できない。
おそらく、あいつは生身だ。なのにどうして魔法戦士のような不思議な力を使っているのか?
あとがき書くのは初めてです。どうも、あさぼんです。
ここまで読んでくれた皆さん、ありがとうございます。趣味で書き始めたこの漫画ですが、思いの外色んな人に見てもらえて嬉しいです。
さて、本題ですが、こちらの小説、見てもらっていて気になることがあったりする方はいたりしますかね…?(いたら嬉しいんですけどね)
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これからもどうぞ、お願いします!




