紀元後 前編
「ビート」 物質の温度を上げる。200度が上限。
「ライト」 ランプ並みの明るさで照らす。
「アネスジィーシャ」 キセノンの麻酔効果を利用して相手を睡眠状態、または痺れさせる。
※紀元前編から紀元前(空白の5年間)アロー編をお読みになっても問題ありません。
「豚肉、野菜を入れて、」
「ヒート」
野菜と豚肉が焼き上がる。
紀元後は、宗教が生まれ、温度を操る魔法が全員使えるようになり、電子や、2種類以上の原子、金を操るものも出てくるようになった。
戦争も終止符が打たれた。当時の先進国であった旧オーガニック共和国は一人の兵士により、都市の5割が壊滅。その後は他の国の植民地として、数十年支配を受けたあと、戦争の終結により独立した。今は他の国と併合し、支援を受けながら独立を再び目指している。
「にしてもあの時から『バーニング』と、複数の原子を操るなんてなんか腑に落ちねぇな。陽子を操っていたとか。でも昔にそんなやついなかったしな。」
少年が自問自答していると、朝食の準備が整った。
アトムに産まれた少年は、鉄とキセノン、が使え、代々血液を操れると言う少し変わった能力まで持っていた。少年の父は調査隊兼兵士ということもあり、少年は歴史について学ぶ機会がよくあり、紀元前のオーガを壊滅させた兵士の操る物質や能力を探るべく、原子と陽子の研究に没頭していた。
特に、兵士が最後に放った魔法『バーニング』は、いくつかの原子による、複数の爆発方法を掛け合わせたものだったため、1人2種類の原子を操れるものがいない紀元前にできるはずがなかった。
国交が正常化している紀元後は、宗教の過激派や10人に1人位の確率で、上級魔法が扱えてしまう事への懸念はあるものの、かなり安定した世界が作られていた。
少年は父の影響を受け、オーガ郊外の森にどのような原子が散らばっているのか探すことがいつの間にかルーティンになっていた。
「やっぱりマグネシウムや、鉄が散らばってる。しかも自然に分解されない形で。やっぱりあの兵士はいくつかの原子を操ってたんだ。でも、数百年前の痕跡だからもうほとんど残ってないな。」
もうすっかり夜になってしまったため、少年は帰ろうとしていた。
「ライト」
そうすると少年の周りが明るく光った。少年の扱うキセノンは発光する特徴があり、原子は作りづらいものの、需要としてはトップレベルだった。すると前から5人組が歩いてきて肩がぶつかった。
「あぁ、すまない。」
少年は軽く会釈をすると
「アナタのツカうゲンシをオシえてクダさい。」
少年はその言葉のイントネーションを聞いた瞬間に戦闘態勢に入る。その話し方はデオキシ教の教徒だった。
「まぁまぁ、そんなにケイカイしないでクダさい。」
「俺の使う原子は鉄だ。別に遺伝子を傷つけるものは入ってない。」
「なら、ショウメイしてクダさい。」
「ハード」
するとしっかり高密度な鉄が5人組の前に落とされた。
「スバらしい!アナタもワタシのデオキシ教のキョウトになりませんか?」
「あぁ、ちょっと待ってくださいね。」
そう言うと少年は5人組に向かって魔法を唱える。
「アネスジィーシャ」
しかし、何も変わった様子はない。
「ワタシの遺伝子にナニかキガイをクワえたのか?!」
少年は慌てて逃げる。
「別にそんなことしてねーよ。お前らの勧誘はしつこいって言う噂を聞いてな。」
すると5人組の内の1人が倒れた。
「ナニをしてくれたキサマー!」
するとどんどん5人組は倒れていく。
最後の一人も倒れたところで少年はプロトンに向かった。キセノンには麻酔の効果もあり、戦闘面でも大きな活躍が期待される原子だった。
その後、持ち帰った土や、周辺にあるものをプレパラートに乗せて、簡易的な電子顕微鏡で調べてみた。すると、グラフの指し方がこれまでの原子にない組み合わせとなっていた。
「なんだ、この原子?見たことがない。もしかしたら、本当に陽子の魔法使いは存在していたのかもしれない!」
少年は興奮気味にその原子を調べる。
(原子番号119番。特徴は、気体、今まで変化しなかったことを考えると、アルゴンのように変化しにくい物質なのかもしれないが、世界でまだ発見されていないことから超強力な魔法によって安定させてるっぽい。)
色々な考察が次々と出てくる。
「これを発表すれば世界を揺るがす大発見だぞ。」
新しい原子が生まれるということは、誰も扱えない原子が生まれるということ。少年はさっそく論文を書こうとしたが、ある疑問が浮かぶ。
(政府はなぜ見つけられなかったんだ?)
もともとあの場所は政府が運用していて、紀元前の兵士による国壊滅以来、世界各国がその場所を調査しようと試みた。結局一時的にアトムが土地の租借権を得て、調査が始まったが、国からは一切発表されなかった。実は今でも封鎖されていて、少年は違法的に入っていた。陰謀論の域まで到達してしまいそうで、怖くなった少年は、原子番号119番の入った瓶をそっと棚の奥にしまった。
その後少年は歴史書片手に様々な仮説を立てた。
(プロトンの兵士は何かを求めて、オーガに行ったんだよな。そしてオーガの兵士と戦闘状態になり、プロトンの兵士は自爆を決意した。なんか美徳みたいに書かれてるけど、やはり矛盾点が多い。まずプロトンの兵士は、相手より多くの手段を持っていた。マグネシウム、炭素、鉄、水素、酸素。それだけ多くの方法があったのに、自爆まで追い込まれるか普通。そんなことならまだ納得できるが、気になったのは、その時だけ、なぜ一人でオーガに向かったのか。それまで兵士と共に行動していたはずなのに、その後の兵士の様子も一切書かれてない。)
少年は悩んだ。この矛盾点と何か結びつける糸口が欲しい。
翌日
少年はオーガの首都、マターへ向かった。領土の半分が壊滅したオーガでも、首都はまだ健在で、物価も安く、時々、少年はマターへ買い物しにいったのだが、今回の目的は、オーガに住んでいるひいおじいちゃんから話を聞くためだった。
「イロンじいちゃん。アローじいちゃんは、119番目の原子について、何か言ってた?」
「119番目の原子?うーん。特に何も聞いとらんよ。ただ、一時期アローじいちゃんが、共に戦った兵士と、処刑された兵士の絵が似ていたと。まぁ、アローじいちゃんと一緒だった兵士は、その時酸素魔法しか使えなかったから、その確率はひくいと思うがな。」
「アローじいちゃんは、もともとプロトンの兵士だったんだよね。」
「最初はひどいことばかりされたらしいが、6年後くらいに終戦して、事なきを得たらしい。」
「わかったよ。ありがとう。」
少年はそう言うと、バレないように、アローの形見のの隊服から少しだけ糸を採取して、帰った。
「原子120番。こっちは121番。どんどん新しい原子が出てくる。もし、アローじいちゃんが旅を共にした兵士が陽子の使い手なら、なぜ酸素魔法しか使わなかったのだろう。陽子が扱える事には何か条件があるのだろうか。」
すると、一つの原子が勢いよく爆発した。
「なるほど、そういうことか。」
少年は察した。
―紀元前、突然変異によって陽子を操る者が生まれました。しかし、少年はそのことに気づくことなく自分の親の遺伝子から、酸素魔法の使い手だと思い込んで、特に自分に危害を加えて死ぬことなく成長しました。少年は、自分で自分の限界を決めていたのです。
ある日、兵士として長髪の兵士と戦った時に防衛本能や殺意から、初めて陽子の魔法を発現させます。しかし、特に攻撃に役立たなかった原子ばかりで、そのまま地面に落ちて、月日が流れました。
少年と長髪の兵士がたまたま、再度同じ場所で戦うことがありました。その時、メルト等状態変化系の魔法を使って、原子が床に落ちたあと、どうやら魔法で作られた原子は限界が来たそうだ。落ちてきた物体の刺激によって、大爆発が起こった。これは誰も意図してない攻撃で、少年は、たまたま『バーニング』を使おうとして、まだ一度も使ったことがないため、技は出ませんでしたが、その爆発を『バーニング』と勘違いしました。原子番号119番以降の原子は状態変化までの勢いが凄まじく、核爆弾とほぼ同等の威力でした。そして、当時の英雄の長髪の兵士と、プロトンの極悪人。一部の街の人々は帰らぬ人となりました。
(まぁ、真実はこんな感じだろう。一人で向かったのも長髪の兵士と戦おうとしていた日時を決めてたから最初から『バーニング』を使おうとしていて、仲間に危害を加えたくなかったからなのかもな。あとはどうして政府が隠しているかだな。そういえば...)
少年は歴史書を開く。すると、あることに気づく。
「少年が長髪の兵士と戦ってから5年後まで、全く記されていない。」
―空白の5年間、プロトンの兵士は何をしていた?―(複数の原子を操れるようになったのもこの5年間のどこか。もう陽子の存在に気づいても良いはず。ってか、歴史書には、あの兵士のこと『オクス』とか言ってなかったか?イロンじいちゃんは別の名字で言ってたよな。養子に出たということか?
となるとおかしい。あの兵士は妻子を持っていなかったはず。)
―歴史の改ざん―
少年に一つの予測が立った。少年は急いでプロトンに向かった。
「オクス、オクス、オクス家はどこだ。」
街の人に話を聞いたが、全く情報が手にはいらなかった。しばらく探してると
「君、オクス家を探しているのかい?」
1人の紳士が尋ねてきた。
「はい。ご存じですか?」
「オクス家はもう引っ越したよ。今はその土地を利用して、政府が小さな役所を作ろうとしてるんだ。」
「どうして引っ越したのか知ってますが?」
「そこまでは知らないなぁ。実は、役所の建設は僕の仕事でね。政府は子供が大きくなったからとか何とかだと思うけど。」
(怪しすぎる。仮にそうだったとしても、国民が手放した土地を国営の役所にするだなんて聞いたことがない。)
プロトンの兵士に妻子がいるのは確かだった。だが、その末裔はどこで何をしているのか、謎のまま。ただ、政府が関わっていることだけはわかった。
少年はこれ以上の情報収集はまずい気がして帰ろうとした。すると背後から話しかけられる。
「オマエ、マエにアったことがないか?」
「やべっ!」
そこには、デオキシ教の教徒の5人組が立っていた。
―原子という名の魔法 紀元後 前編 完―




