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原子という名の魔法  作者: 氷線香
紀元前、紀元後、
1/12

紀元前編

魔法一覧

・ウォキシ 酸素と水素に関わる魔法全般。水から酸素と水素を分解したり、酸素と水素を結合して水を作り出せる。

・オキシダズ 酸化させる魔法だが、発熱反応は起きない。

・ブルッコ 一部の鉄魔法を扱える者が使える。血液を操る。

・ウィンド 原子を高速で動かし、風を発生させる。窒素、酸素魔法で使える。

・アトプレッシャ・ロー 広範囲の原子を分散させ、気圧を低くする。

・スロー 対象に向けて原子を放つ。物質が固体の状態でのみ使える

・ストーム 原子を高速で動かし広範囲で風を発生させる。ウィンドは一瞬だけ風が吹くのに比べ、ストームは数分間風が吹くのが特徴。中級魔法。

・ハーダー モース硬度の高い物質を高密度に固める。

・ハード 物質を高密度に固める。

・アトプレッシャ・ハイ 広範囲の原子を凝縮。気圧を高める

・ショット スローよりも速く原子を放つ。音速からショットと呼ばれるようになる。

・ファイヤ 発熱反応によって物質を燃焼させる

・メルト 物質を一時的に液体にさせる。上級魔法。

・バーニング ファイヤより強力な燃焼。強力な爆風も発生させる。上級魔法。

―紀元前500年、化学者であるデモクリトスが原子を発見して以来、化学者は原子を扱い、人類の歴史を造ったことは、周知の事実である、それでは、地球上にある原子を操っていた民族がいたことはご存じだろうか、―

「ウォキシ!」

プロトンを首都とする国アトムで原子操作魔法を習得しようとしている少年がいた。少年は両親が酸素魔法を使っているために酸素しか扱うことができないが、精度は人一倍高かった。

「だめだ、酸素と水素の分解、結合が思ったよりも難しい、イオンがあるから、原子が不安定になってしまうんだよな〜、うまく使うためには電子も操らないといけないって実質ゼウスにならなければいけないじゃん。酸素、水素、炭素は重宝される魔法とはいえ、アルゴンくらい怠け者の俺には、意味ねぇっつーの。」

愚痴を吐く少年に人影が迫る。

「どうだい、プロトンを出ていけるほど、おまえは強くないことを自覚しただろう、ここは炭素と鉄の結界で守られているから、ずっとここで父さんと暮らそう。」

「いやだね、いつ敵国に陽子と電子を扱える奴が生まれるか分からない、もしそんな事が起きでもしたら―」

「何故進化の過程で陽子を扱うものがいなくなったのか、分かるか?」

少年の発言を父は遮る。

「そんなの陽子を扱う奴ら達が皆どっかに行っちまったに決まってるだろ。」

「半分正解だ、確かに一部の陽子を扱う者は、その力を己に使うために去っていってしまった。しかし、そんな奴はこの長い歴史の中で数人いるかいないかくらいだ、この謎を解き明かすために私は魔法による自爆について学んだ。」

「意味わかんねーよ、もっと簡潔で具体的に話せ、」

少年の父は少年に構わず続ける

「私たちの魔法は生物の作りを変えることができないだろう。もちろん、自分の扱う原子を凝固させた物を生物に当てることはできるが、しかし陽子を扱う者にはできてしまった。それほどまでに陽子はこれまでの可能性をか覆せる。しかし、知能が発達しきってない幼児の時に扱った魔法で自らを傷つけ、死んでしまう事が多々あった。それを防ぐために進化の過程で、陽子を持つ遺伝子は消え去った。私はそう考えているんだよ。」

そう言うと水に向かって「ウォキシ」と唱え、ポケットからマッチを1本取り出し放った。すると勢いよく燃え広がった。

「そろそろお昼にしようか、野菜を安く仕入れることができたんだ、」

そう言って帰っていってしまった。



雨上がりの空の下、昼食を終えると共に、また酸素魔法の練習をしに向かうと、背後から刺されたような痛みが走った。

「痛っ、」

背後を向くとそこには注射器サイズの鉄の管が自分に刺さっていた。

「オキシダズ!」

少年が唱えるとみるみる鉄が錆びていった。少年は錆びて脆くなった鉄を抜いて砕く。

「何者だ?」

少年が攻撃が来たところを向くと、若くてガタイの良い男が立っていた。

男は何もいわずに、攻撃を始める。

「ブルッコ」

男が唱えると少年の傷口から血が出ていく。

(何故だ、原子魔法で操作できない生物の中に細胞は含まれていたはずなのに。それなら一旦距離をとったほうが、、、)

「ウィンド!」

少年に向かって風が吹く、風に押され少年は男から距離を取ることに成功した。

「戦う場所は選んだほうがいいぜ、」

少年が言うと続けて唱えた。

「ウォキシ!」

すると土に染み込んだ雨が上がって行って一箇所に集まっていく。

「放て!!」

集まった水が一斉に男を襲った。男は鉄で壁を作ったが、液体である水には効果が無かった。

一気に優勢になった少年は男の所に向かっていった。

案の定男は水に押されて倒れていた。

「酸素魔法は水等の酸素を含む物質も扱えるんだよ。もう少し勉強してから挑むんだな。」

挑発された男は怒りを顕にしながらも、勝てないことを悟り、口を開く。

「だから酸素を扱う奴らは嫌いなんだ!お前らの扱う酸素は治療から戦闘までなんにでも使えるから、役職の幅が広いかもしれない。でも俺たち金属系は戦闘9割、器械系1割なんだよ。戦闘に優れているからな、頭の悪い奴らは全員戦争に駆り出される。もう嫌なんだよ!自分たちだけ国の捨て駒として扱われるのは!だからせめてもの救いとして憎いお前らの中からを一人殺して、悪人として戦争に行くことを拒もうとしたのに、」

少年は黙って聞いていたが、しばらくして男に語りかけた。

「さっきの魔法、どうやって習得したんだ?」

「はぁ?」

男はいきなりの質問に戸惑う。

「さっきの血を吸ってたやつだよ、魔法は基本、生物や細胞を操ることは不可能だ。」

男は面倒くさそうに答える。

「俺の家系は赤血球等の鉄を含む一部の細胞を動かすことができたんだ、対象の血液を見ることと、対象が出血等で血液が体外に出てる事が条件だけどな。」

男の話を聞いたあと、少年は男の目を見て言った。

「一つ提案しよう、

―俺と一緒に敵国に攻めに行かないか?―」

「俺に同情してくれてんのか、いいよ、もうそういうの。」

男は呆れた様子で話す。

少年は一切表情を変えずに続ける。

「俺は外の世界に出るのが夢なんだ。でも俺は友達がいないから、一人で兵士になる事を目指してたんだよ。そこにお前みたいな奴が来てくれた。お願いだ、俺と一緒に戦ってくれ!」

「お前を殺そうとしてきた奴によくそんなこと言えるな。別に良いが、その後この国も侵略して、ここの政治を変えてくれる事を条件にしよう。」

「まぁ、別にいいさ。俺も生まれ育った国ではあるけれど、ここの政治には少し不満もあるからね。兵士への出願は1ヶ月後にしよう。その間、国家反逆の事については一切口にするなよ。」

一通りの作戦、予定を互いで練った後、それぞれで準備が始まった。

「だから何度も言っているだろう。お前はまだ早いんだよ。確かに他の魔法使いと比べればお前は優れているかもしれない。だが私にさえ勝てないお前が、国同士の戦いで生き残れるビジョンが見えない。」

父は険しい表情を浮かべていた。

「だったら俺が父さんより強いことを証明してやる。」

「ウィンド!」

少年が唱えると、爆風に押され、2人の間に距離ができた。

「アトプレッシャ・ロー」

少年の父が唱えると、少年は激しい頭痛におそわれた。

「もうこれ以上は無駄だよ、お前は戦争に生き残ることはできない。私は何年か兵士を務めていた時期があったが、数百人もの兵士が死んでいくのを見た。私はお前にそうなってほしくないんだよ。」

「ストー...」

少年の父が魔法を唱えようとした、そのとき少年は叫んだ。

「ウィンド!」

「同じ魔法を連続で使うと、精度が下がるだろう、」

少年の父は、少しがっかりした様子で言った。

正面から少しばかりの風が吹く。

少年の父はトドメをさそうと、再度魔法を唱え始めた瞬間背後に気配を感じ振り向くと、風に乗った数本の刃がこちらに向かって来た。少年の父は受け身の姿勢に入ったが、少し遅れて何本かの刃が少年の父の体を引き裂いた。

(何が起こったんだ、正面から少し風が吹いた後、さらに背後で風が吹いた。あいつの正面から来た『ウィンド』は相手を油断させるための手段。本命は背後からの攻撃ということか。確かに連続で使った魔法は精度が悪くなるとはいえ、極端に精度が下がっていると感じた。)

「すごいな。感動したよ。両方向からの攻撃は原子を操りにくくて、とても大変だろう。しかしお前はやりきったんだね。日頃の努力の成果がきちんと出ている。今のお前なら、ケガはするかもしれないが、死ぬことは無いだろう。」

少年の父はそれだけいうと、一箱のマッチを少年のポケットに入れた。

「絶対に無理をしてはだめだよ。引き返すのも一つの方法だ。」

少年は意識が朦朧としていたが、じきに意識がはっきりしてくると、生活するための重要な道具が入っている鞄と、1枚の地図が置いてあり、全てを察した。


1ヶ月後

「まさか本当に来るとはな、」

「まぁ、どっちみち徴兵される俺には、何をしても変わらないからな。」

「そういえば名前聞いてなかったっけ?」

「アロー、」

「そっか。じゃあアロー、まずは役所に向かって兵士の志願を名乗り出よう。」

その後2人は兵士を志願し、最初の任務を行うために、南へ向かった。

「すごい。こんなにでかい樹木初めて見た。」

少年は初めて見る景色に興奮していた。

「そんなんどこにでもあるだろ。どれだけ都会っ子なんだよ。」

―へー、君ここに来るの初めてなんだ〜―

アローと少年は警戒しながら声のする方向を向く。見てみると、敵国のマークをつけた2人とその真ん中に長髪の若者が立っていた。敵国のマークをつけた兵士はすぐに攻撃してきた。

「うおっ、何だこれ」

少年が戸惑っている横でアローが説明する。

「あいつらはアルミだろうな。女が電気魔法かもしれない、とりあえず触れないほうがいいぜ。」

「まず攻撃しないと。」

「そんくらいわかっとるわ。」

そう言うとアローは唱えた。

「スロー」

鉄の破片が敵の兵士に向かってとんで行く。

それに続いて少年も魔法を唱える

「ストーム!」

少年が唱えると敵である3人に向かって強力な風が吹いた。鉄の破片はさらに勢いを増す。すると、3人に刺さる直前で、魔法を唱える声が聞こえた。

風の音でほとんど何も聞こえなかったが、敵は無傷だった。どうやら何らかの魔法で壁を作ったらしい。

「透明だな。ガラスか、ケイ素とかなら、お前が操作してくれないか?」

「無理だよ。酸素魔法は、酸素に結びついてるものなら操れはするものの、化合物の場合、例えばアローと俺で酸化鉄を作る場合、俺もアローも操ることはできるが、お前のほうが有利に扱える。酸素魔法はそういった競争においてかなり弱いんだよ。」

そう言っているうちに『ストーム』が切れ、全員が戦闘態勢に入っている状態になった。

「1@-@1@-@:@;_:1_1/」

聞いたことのない言語にアローは戸惑う。

「多分数カ国使えるみたいだな、最初は俺たちの母国語で味方を主張しようとしたみたいだが、そんなのは意味ない。」

「まぁ何でもいいよ、倒せば同じなんだし。行くよ、アロー。」

「アトプレッシャ・ロー」

敵の2人はすぐにうずくまってしまったが、長髪の兵士はあまり聞いていないのか、魔法を唱える。

「ハーダー」

すると、植物や、空気中から透き通った色の何かが集まっていた。

「スロー」

すると、空気中に集まったそれが、アローと少年に向かってとんで行く。

「ハード」

「ウィンド!」

アローと少年がそれぞれ魔法を唱える。高密度の鉄を『ウィンド』で飛ばして相手からの攻撃を防ぐ。

しかし相手の飛ばした物質は、全く壊れずに2人に傷を負わせた。

「痛てっ、どうしてだよ、鉄はとても硬い原子なはずなのに。」

「もしかしたら、あの女、炭素の魔法を使ってるのかもしれねぇな。」

「ってことは、あの透き通った物はダイヤってことか?」

「その確率が高い。」

「じゃあどうやって戦えば良いんだよ、アロー!」

そんな二人に構わず、攻撃が絶え間なく続く、

少年が風を起こし、アローが鉄原子を放っているがその硬さゆえ、全く効かなかった。

「痛ててっ、またかよ!」

距離をゆっくり詰めてきた長髪の兵士が口を開けた。

「君たち、鉄と酸素みたいだね〜、まぁさすがに私たちの元素も知られてると思うけど。とりあえず、降伏してほしいな、圧倒的すぎて、話にならないでしょ、」

「いや、まだだ!!」

少年は叫ぶ。

「あ〜あ、せっかく君たちの言語に合わせてあげてる上に、降伏すれば殺しはしないっていう特大チャンスまであげてるのに〜、」

長髪の兵士はがっかりした表情で、言った。

「へへっ、父さんの奴、なんでこんな都合よく準備してくれてるのかね。」

少年はそう言うと魔法を唱える。

「アトプレッシャ・ハイ」

「気圧上げてどーすんの?しかも酸素の分だけなら大した気圧にならないよ〜」

「ダイヤとか言うモース硬度最大の物質にも、弱点があるようで、」

少年がそう言うと、長髪の兵士は動揺した素振りを見せた。

「ビンゴだろ!」

少年が言うと、ポケットからマッチをすべて取り出し、着火して長髪の兵士に向けて放った。すると、酸素の濃度が『アトプレッシャ・ハイ』によって濃くなっていたこともあり、辺り一面火の海に包まれた。

「ダイヤモンドの弱点1つ目は熱、つまり、燃やしてしまえば良い、」

相手の攻撃している物体の大きさが一回り小さくなったところで、少年はアローに言った。

「アロー、確かお前、吸血できるほど繊細に鉄原子を動かせてたよな。あの要領で細長い鉄の先端をあいつの攻撃に当ててくれないか?」

「あぁ、こうすればいいのか?」

アローは鉄を針のような形に変形させる。

「スロー」

アローは針のような鉄を敵の攻撃に向けて放ったが、特に変化はなかった。

「おい、どういうことだよ。」

「勢いが足りてないのかも、多分俺の風系の魔法で加速させても意味ない、、、」

少年は震える声で言った。マッチはすでに使い終えてしまい、もう敵の攻撃を守る術はなかった。

「そろそろ降伏しようよ。君たちもオーガにおいで、そうすれば、皆が君たちのこと、私みたいに扱ってくれると思うわ。」

長髪の兵士が余裕を取り戻し、少年とアローに向かって話しかける。

アルミを扱う兵士2人も少年の魔法から回復し、魔法を唱え始めた。

「クソっ、何か解決策はねぇのか。」

真剣だが、どこか絶望を感じている少年の眼を見て、アローは焦る。

「逃げよう、、」

「は?」

「今すぐ逃げよう。このままじゃ殺される!!」

少年はパニックに陥っていた。

「落ち着け、分かった。じゃあ今すぐ俺が鉄の原子をシートみたいにするから、お前は風魔法で逃げろ。そうすれば風魔法の恩恵を最大限に引き出せる。」

「何言ってんだよ、、、アローも一緒にぃ、、逃げるんだよ。」

「悪いが、あいつらの扱う原子を移動させるスピードはかなり速い。2人で逃げても、撃ち落とさ...」

長髪の兵士の攻撃が話に割り込んでくる。少年はその攻撃を避けようと、反射的に風魔法を使った。しかし、感情がぐちゃぐちゃになっていて、うまく制御できず、だいぶ遠くの方まで飛んだ。

「さらばだ。少年。」

そう言ってアローは、大きな鉄の塊を少年に向けた放ち、怪我しない程度に優しく触れるように当てたあと、思いっきり遠くに押し飛ばした。


しばらくパニックになったあと、気を失っていた少年は味方の兵士に助けられ、精神状態と、ケガの酷さから、強制的に兵士を辞めさせられた。この出来事を期に、兵士を志願できる対象が厳格化され、アトムの間で大きな話題になった。


2週間後

「本当にごめんよう。お前なら大丈夫だと、まだ未熟なのに戦場に行かせてしまった私の責任だ。」

少年の父はうつむいたまま言った。

「そんなことはもうどうでもいいんだ。『オーガ』って言う国について教えてほしい。」

「オーガニック共和国のことか。ずいぶん強いところと戦ったんだね。」

少しの沈黙のあと、少年の父はオーガニック共和国について説明した。

「あの国は治安が悪くてね、政府の力も弱いから、よく紛争している国なんだ。歴史的に酸素、水素、炭素の魔法について強くて、知能も高いんだ。兵士は少数精鋭で、私も2度その国と戦ったのだけれど、1度目は戦況が不利になって引き返してしまった。2度目は勝ったのだけれど、戦死者の数で言えば同じくらいだった。」

「どうしてうちの国の政府はそんなこと教えてくれずに、戦争が有利に進んだ都合の良い地域だけを報道してるんだよ!」

「まぁ理由は色々あるだろうが、主な理由は、この国からの脱走者をなくすためだろう。」

「終わってんな」

それだけ言うと少年は炭素について徹底的に調べ上げた。

(俺とアローに出来たことは、マッチを使うくらいだった。あの大量のマッチを使っても炭素を少ししか小さくできなかったのは、アルミに原因があった。おそらくあの長髪の兵士は自分の攻撃にアルミ原子を巻き付けていた。アルミ原子は比較的酸化につよいから、かなりダメージを防げただろう。華奢だったが、かなりの量の炭素原子を扱えていた。クソっ酸素は炭素に勝てる要素をたくさん持ってるのに、知識の差で負けた。)

少年は長い年月をかけてオーガを襲撃することを企てた。


5年後

少年は青年となった。

1日もアローのことを忘れることなく、特訓を積んだ。化学式、物質の性質、オーガで使われている言語の勉強。魔法とについてかなり詳しくなった青年は、酸素に結合しやすい元素(炭素や鉄、水素やマグネシウム)も一部操れるようになった上、酸素を操る速度、操れる範囲が7倍近くになった。兵士の基準を満たしたため、父の反対を押し切り、役所に向かったが、前のようにすぐになることはできず、一通りの試練を乗り越える必要があった。


原子を操り的を射抜く試練はで青年は、2位とダブルスコアをつけて1位。筆記試験も1位。最後の戦闘でも一分足らずで敵のコアのかわりとなる風船を割り、圧勝した。その実力を認められた少年は、初任務ながらも、7人の兵士を連れて向かった。当初、北西に向かう命令が出たが、青年は頑なに拒否し、何とか南へ向かう許可を得た。

大樹が連なり、植物が生茂っている。青年は全く興味を示さなかった。


―おいおい、兵士さんよぅ。そこどいてくれねぇか?―

タバコをくわえた50代くらいの男性が敵国のマークを

青年率いる兵士たちは振り返る。

(デジャヴ、、、)

少年は思った。

青年は感覚で相手が水素魔法を扱うやつだと気づいた。

「ウォキシ」

たばこを吐き捨てた男性が魔法を唱える。

青年は冷静だった。

「ウォキシ、」

すると、男性が放とうとしていた水が、全て少年に移動した。

「ショット、」

すぐに男性を貫き、魔法は男性の腹部を貫通したことにより、大量に出血し、倒れた。痛みのあまり叫んでいる男性に対して青年は問う。

「長髪の兵士を知ってるか?」

「ヴゥ、、」

男性は答える間もなく息絶えた。

「やり過ぎじゃあないですか。」

味方の兵士が怯えながら言う。

「俺の仲間はその国のやつに殺された。オーガの兵士諸共死んで当然だ。」

怒りと憎しみの混じった声で兵士に伝える。

次に会ったのは、まだ幼い少年とガタイの良い男だった。見た感じ幼い少年は酸素、ガタイの良い男が鉄を使いそうに感じた。

(またデジャブかよ、、、)

「ハード」

少年は魔法を唱なえた。すると少年のポケットから金属のようなものが出てきて小さく高密度な物体がいくつかできあがった。

「ショット、」

するとその物体は敵国の少年、男めがけてピストルから発せられる弾丸のごとくとんで行く。

「ハード」

しかし男によって鉄の壁が作られ間一髪で攻撃を防いだ。少年の方は今の攻撃に圧倒され、全身の力を失っていた。男は頭を地面に擦り付けた。

「ごめんなさい。私たちは家を何者かが放火し、お金がないため、兵士として駆り出されたんです。せめて子どもだ―」

「俺の仲間は!!お前の国の兵士に殺された。なのにお前らは命乞いして助けてもらいましょうってか!」

青年は声を荒げたが、一応チャンスはくれていたことを思い出した。

「ハード、」

青年が魔法を唱えると、ダイヤ製の檻に2人は閉じ込められた。

「役所に連れてけ、その後のコイツらの対応は役所に委ねる。」

そういって青年は先に進んだ。

「どうやって運ぶんですか?」

味方の兵士が尋ねる。

「確かに、それもそうだな。」

青年は親子に食料を与え、炭を作って、マッチを1本渡した。

「帰り際に拾っていく。それまでここで待ってろ。」

青年はそれだけ言うと、味方の兵士と共に先に進んだ。 

それから3回ほど敵の兵士と戦ったが、すべて圧勝。降伏するつもりは全員ないらしいので、殺してしまった。

そしてついに、青年はオーガに到着したのだった。

さすがの青年も、正面突破は厳しいと感じたので、裏に回って、結界の炭素を青年の魔法で一時的に気体化させ、こっそり入った。バレないように、軍隊の服とは別に、兵士全員3着ほど服を用意して。

数年前までなら、兵士は国を囲うように配属されていたのだが、治安の悪さや、貧困で困っている人が多くいる。入ろうと思えば数時間で番人のいない場所探し出せるのだ。

青年らが歩いていると、乞食してくる子供や女性が集まってきた。それらを振り払って首都であるマターに向かった。すると、先ほどの景色から一変、肥満体型の人や原子のなかで唯一扱える者がいない金のアクセサリーをジャラジャラ付けた人をよく見かけるようになった。よく整備された道や建物が並んでいる。どうやら首都は栄えているらしい。しかし、おそらくほとんどが反社の内のトップの裕福なやつが住んでいるようだった。しばらく進んでいくと軍隊基地の本部があった。そのそばに政府機関が置かれていた。この組み合わせはアトムも同じで、デモが起こらないように、政府機関を軍隊基地の本部の近くに起き、そこに戦績の優秀な精鋭部隊を送り込んだ。

(全く、自分たちだけ守られようなんて、政治家はろくな奴がいねぇ。)

建物の造りを確認していたその時窓越しに長髪の兵士が見えた。一瞬の出来事だったが青年は確信した。反射的に殺意が沸き、戦闘態勢に入ったが我に返り深呼吸した。その時

「何をしてるんですか?」

警備員が近づいてきた。民衆の目線もこちらに集まる。数十分前に侵入したばかりだったため、アリバイはないどころか、自分の国のマークが入った軍服を持っていた。

(攻撃するか?いや、こいつらもいるなかで、ややこしいことをするのは申し訳ない。でもこれ以上探られるとまずい。)

青年は考える時間を稼ぐために、くしゃみするふりをして少し間を空けたあと警備員に向かっていった。

「すみません。サスタから脱走して来たものです。住居を探していて、それで...」

「難民かよ。さっさと自国に帰れ。ここにお前らが住める場所なんかねぇ。」

そう言うと青年達を蹴り飛ばした。

「す、すみません。い、今すぐ出ていきますぅ。」

青年は弱々しく言った。青年は撤退の合図を仲間に送り、オーガを去った。そもそもサスタなんて国は無いし、警官に見られてしまった以上侵入できない。しかし、あの場でバレて敵国のど真ん中で戦闘が始まることだけはどうしても避けたかった。日が沈み、あの親子をどうするか考えながら味方の兵士と情報を共有していると、金属を擦り合わせたような音が聞こえた。

「ファイヤ」

青年はマグネシウムと酸素の発熱反応を生かし燃焼させた。周りが少しだけ明るくなると1人の少女が鉄を操り、擦り合わせていた。

「何やってるんだ?!」

子どもとはいえ油断するわけにはいかず、少し強めの口調で話す。すると少女は泣きながら言った。

「殺さないで!!殺さないで!!」

「スロー!」

少女が魔法を唱え、青年に向けて鉄を放ったが、蚊の飛ぶ程度の速度だったため、とりあえず炭素を使ってダイヤの檻に閉じ込めた。少女は泣き叫びながらダイヤの檻をバシバシ叩いたがびくともしない。青年は少女に向かって言った。

「別に殺すつもりはねぇし、何か危害をくわえる気もねぇ。だけど、こんな小さい子供がこんな時間に何してんだってことを聞きたいんだよ。」

少女はパニックになっていたが、時期に落ち着いた。

「パパに痛くされたの。何回も何回も、しかも今日は魔法でフェニムに刃物を投げつけてきたんだよ。」

そう言うと少女は背中に刺さった鉄の破片を見せる。

「それで逃げてきたと、」

青年が言うと少女は頷く。青年の味方の兵士は少女と青年の話すオーガ語が分からずにただ見ているだけだった。マターでも青年が何を話していたのか分からずに、ただ指示に従うだけだった。そんななか、ようやく1人の青年の味方の兵士が言った。

「今どういう状況なのですか?オーガに到着してから全く状況が掴めておりません。潜入捜査は上手くいったのですか?」

しばらく少女と話していた青年だったが、すぐに味方に向かって頭を下げた。すると、母国語で話し始めた。

「本当にごめん。潜入には成功したのだけれど、警備員に怪しいところを見られて、絶対に戦闘に持ち込みたくなかったから、言い訳して逃げてきた。もうこれ以上はオーガに潜入出来ない。申し訳ない。」

最初、賛否両論あるような様子だったが、賛成派が説得してくれた。

「これからは皆にわかるように説明していくよ。」

青年はそう言って、この話は事を終えた。

青年は再び少女と目線を合わすと、質問する。

「アザは半分ほど完治しているが、これはどういうことだ?」

「半年に1回くらいね、長い髪の兵士さんが来てくれて食料を分けてくれるの。しかも、フェニムたちのケガも直してくれるんだよ。」

青年に電撃が走る。

「それって、、炭素魔法を扱う?」

―うん!なんで知ってるの?―

青年に2つの考えが降りてくる。1つはそのままオーガを襲撃すること。もう一つはオーガと和解すること。(もしかしたらアローは死んでないかもしれない)

そういうことを想像してしまうようになった。

「今日はもう遅い、嫌かもしれないが、パパのもとに帰るんだ。」

「やだ!痛いのもつらいのもいやなの!」

「、、、」

青年は味方の兵士のほうを向いた。全員が疲れた顔をしていた。青年は味方の兵士のほうを向いて言う。

「ごめん。最後に少しいいかな」


青年は簡易的な家を造り、そこに今日閉じ込めた親子と、少女を一緒に住まわせることを提案した。反対されると思っていたが、思いのほか、皆手伝ってくれた。金属系の兵士が多く、なかには建物の修理をした経験のある者もいた。そのおかげで30分で簡易的な家が完成した。

そこに、親子を連れてくると、感謝してくれた。その時、青年は初めて敵国の兵士を『人』と思えたのだった。

翌朝、青年は一人で再びオーガに向かったが、道中で、一人も出会わなかった。皆で造った家はもぬけの殻になっていて。青年の殺した兵士たちの死骸は、なくなっていた。

(野生動物か?にしては不自然すぎる。)進んでいくと、人影が見えた。そこには長髪の兵士と、昨日助けた少女がいた。こっちに向かってくるので青年は隠れる。

「この家、お兄ちゃんが造ってくれたんだよ。」

「そうなのね、」

少女と長髪の兵士が話しているようだったが、長髪の兵士は少女の話を信じていない様子だった。


話をしばらく聞いていると、突然、長髪の兵士が言った。

「もしかして、そのお兄ちゃんって、、、」

その瞬間、隠れていた目の前の大樹がきり落とされた。とっさに青年はマグネシウムと炭素を硬めて攻撃を守る。

「この人のこと〜?」

長髪の兵士は少女に聞く、少女は嬉しそうに頷く。

「アトムの兵士にとんだロリコンがいるのね。」

そう言って長髪の兵士は魔法を唱え始めた。

「ハード」

「スロー」

ダイヤの攻撃を青年は落ち着いて、酸素と結合させたり、高密度の鉄で弾くことによって防ぐ。5年前会ったときより格段に精度が上がっていた。

「なんでそんなことするの?お兄ちゃん、とっても優しいんだよ!」

少女が必死に言うが、長髪の兵士は無視する。

「フェニム、早くオーガに戻りなさい。ここは危ないわ。」

「お兄ちゃんのこと、倒さないでね。」

長髪の兵士はうんうんと頷いた。少女は去っていってしまった。

「さっきの子、身に覚えあるんでしょ〜。そしてこの兵士にも身に覚えがあるんでしょ〜。」

そう言うと炭素の箱から死体を取り出し見せた。

「どうせ、あの娘にも乱暴する気だったんでしょ。」

和解しようと思ったが、最悪のタイミングで会ってしまった。そして、青年の中で一つの選択肢が消えた。

「アローという名の鉄を操る兵士を覚えてるか?」

「いつの話?」

「5年前だ。」

「そんなの覚えてるわけないよ〜。」

「お前が殺したんだろ!!」

「ショット!」

そう言うと高密度のマグネシウムが長髪の兵士めがけてとんで行った。しかし、ダイヤの壁によって防がれてしまう。

「別に殺してなんかないよ〜。あの後政府に渡したの。」

「そんなの殺すのと同じだろ!!」

「まだ死んだか分からない奴を死んだと思い込んで私の味方を殺したっていうの?」

「は?」

少年はアローがまだ死んでいないという可能性を完全に捨てていた。仇を取るために5年間努力してきた。

青年は今になってアローの生きている可能性があることを知った。

「許さない。私の仲間を返してよ!!」

「ショット」

青年めがけてとんで行く。動揺していた青年は、足を貫かれた。

「痛てぇぇ!」

「死んで償って!!」

そう言うと長髪の兵士は千本以上の炭素の針を青年に向けて放った。

「メルト、」

青年が言うと、針はすべて溶けた。青年の中で今、何が切れた。

「ごめん。全部俺のせいだから。一生かけても償いきれないから。でもせめて、最後くらいアローに会わせてくれ。」

「バーニング」

すると、爆発するとともに。木々は燃え、長髪の兵士は吹き飛んだ。手足はちぎれ、即死した。

長髪の兵士は死に際に走馬灯が浮んだ。


「お前、男なのに何で髪伸ばしてんだよー。」

「男なのに『私』とか、女声作って話すとか、キモ過ぎ。」

そこには髪を引っ張られ、殴られ蹴られ、親にすら見捨てられた長髪の少年がいた。少年は同性愛者で、好きになった男の子に振り向いてほしくて、『可愛い女の子』を演じた。しかし、振り返ってもらえないどころか、周りに引かれ、いじめられた。

オーガのスラムで生まれ育った少年は貧しい暮らしをしていた上に誰も味方はいなかった。お金がなく、ほぼ強制的に軍に入隊させられた。

仲間の兵士はいじめや貧困などの同じ境遇の人たちばかりで、最初は暗かったが、月日が経つにつれて、皆で支え合うような温かい場所になっていった。しかし、何度も死にかけたし、仲間は次々と死んでいった。当たり前だった。寄せ集めの貧しい子どもたちを戦場に向かわせて、戦わせて、亡くしてしまう。しかし、長髪の少年は違った。戦うたびに知識をつけ、仲間の死を原動力に限界以上の力を出して戦った。気がつけば上官にまで上り詰めた。しかし、最初に出会った仲間は全員死んでいた。一番印象にのこったのは、一番幼い6歳が死んだとき。最後に自分に助けを求めた。相手は核を使う兵士だった。皮膚はドロドロに溶け、内臓が露出し、もう見るに耐えなかった。その姿に恐怖を覚えた長髪の少年はあろうことか自分だけ逃げた。怖かった。辛かった。その記憶は上官になった今でも脳裏に焼きついている。

でも、もうすぐ会える。迎えに来てきてくれる。見捨ててしまってごめんなさい。

―ただいま!もう絶対離さないから―

1人の、か弱い乙女は、涙を流した。


「はぁ、はぁ、」

青年は火の海を進む。『バーニング』は非常に体力を使う魔法だった。そのせいで魔法を使えないほど衰退していた。爆発でオーガは被害を受け、政府は兵士を総動員して消火、犯人の特定に出た。青年はすぐに見つかり、連行された。生きる気力を失ったような目で話す

「アローは、、、、ドこに、、いますか?」

「おい、こいつなんか喋ったぞ。アロー?なんだそれ。」結局、青年はアローの生死も知らないまま、処刑された。それ以来、青年は悪魔と呼ばれ、歴史的に『極悪人』の不名誉な称号を得た。


―原子という名の魔法 紀元前編 完―

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