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カンナグァ戦記  作者: 樹 琴葉
第二部 第二次プルミエ侵攻
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合同訓練

 翌朝、かねてよりフラハーは訓練は行なっていたが、琴葉隊が加わる。


本来であれば、会議を実施し、罠の設置や策謀、戦略などを話し合う予定であったが、フラハー王とのぞみが朝一番で話し合い、本日は訓練となったのである。


これは、ひとまず、現段階での練兵の度合いをみることが目的の1つではあるが、もう一つの目的として、コミュニケーションがある。


昨夜の挨拶で、新規参入組と琴葉隊に溝があると考えた二人は、まず、それを埋めることにしたのだ。


手っ取り早くやるのであれば、チカラを見せつけた方が早い。


であれば、一緒に訓練をした方が良いということになったのだ。





 避難訓練前に、のぞみの指示で、グループ分けを実施し、訓練にあたっていたが、今もそれは継続している。


三千の兵を二つのグループに分け、変則的な三交代制としたものである。


幸いにして、今日は両グループともに日中の合同訓練であり、全員と接する機会があるため、チカラを見せつけるには十分である。


元より非戦闘員で、態度ともに申し分ないアス老人とテラガルドは輜重隊と合流し、購入リスト、兵糧リスト、武具の在庫など、帳簿関係の確認から入っている。


これは、すでに見知ったポシュエとともに実施しており、解説を交えながら行なうアス老人が信頼を得るには時間はかからなかった。


輜重隊全員が感心し、一言一句聞き逃すまいと講釈を受ける。


その後に行なわれた戦闘訓練においても、アス老人の的確なアドバイスと、テラガルドの戦力の前に、皆が脱帽していたのだ。





 のぞみも、再編成され、百人将以上の何人かはメンツが変わっていたにもかかわらず、的確な指示で部隊を指揮していく。


指揮棒代わりに剣を振り、自由自在に隊列を変えていく用兵術は、見るものを圧巻した。


ある指揮官が指揮棒を振っても、右に十歩動かすだけですら、その行動速度に差が出るのだ。


オーケストラの指揮者の技術の差に似ているのかも知れない。


のぞみ自身は、実のところ士官学校の模擬実習でやっただけで、実戦での指揮は前回が初めてである。


にも関わらず、歴戦の将軍ばりに指揮ができるのはセンスと机上の勉学の努力だろう。


しいて言うなれば、日頃から琴葉と朝美の顔色と反応を伺い、機微を感じ取ることに馴れているからかも知れない。


さすがに三千人規模の両グループ合同ともなると、百人将以上しか集められないが、その講義の場においても、質疑応答で理論的かつ簡潔に回答する様子は誰もが尊敬するところとなった。


前回は伍長、什長レベルのものも集めて講義をしたのである。


すでに、あらゆる戦術の重要性が指揮官に浸透しており、本当に理解していなくとも、自分たちの役割には意味があって、それが重要なことなのだということだけはしっかりと理解してくれている。


これは非常に重要である。


指揮や講義の時以外は非常にオドオドした弱気な態度で、謙遜した様子も、変に威張り散らさない謙虚な姿勢と捉えられ、人間的な好感も得ていく。


その日の夕方には、前回同様に信頼を勝ち得ていくのであった。





 一番の難敵となりそうだったティラドールも、琴葉の射場での様子と実力をみて完全に認識を改めることになる。


身長よりも遙かに大きな弓を扱い、常人の倍近く飛距離を飛ばす。


精度も高く、十分に狙撃可能な能力である。


昨夜のはしゃいだ様子と異なり、一切口を開かず、凜とした佇まいは、それだけで見るものを魅了した。


動いてはいるが、まるで、静かに瞑想しているかのような印象すら与えたのだ。


矢を射る姿を魅入ってしまっている自分に気付いたときに、己が負けを悟ったのだった。


戦闘力で一番強い騎士が王となる。


その国においては、戦闘力が高いものが尊敬のまなざしを集めることが多い。


自然と、敬語を使い、頭を下げて、ティラドールは琴葉に近づく。


「琴葉殿。昨夜は大変失礼いたしました。立派な弓術の腕前。感服いたしました」


そう言って、頭を下げるが、琴葉は無言で手で制する。


「射場では私語は慎みましょう。ここは、矢を射る場所です。己に向き合い、問いかけ、あるいは無心で矢を射る場所です」


とだけ小さな声で言って、黙々と矢をいるのであった。


これは、琴葉の習得している弓道の流派による礼儀作法によるものであり、琴葉の個人的な性格や考え方では全くない。


しかし、オンとオフの切り替えと勘違いし、ティラドールは猛省することとなる。


(ああ、自分は常に騎士たらんと、常時チカラが入っていたのやもしれぬ。そういえば、フラハー王も普段は礼儀正しく、物腰低い。むしろ弱々しい青年にみえるが、戦闘の時は鬼神のようだ)


射場から離れ、女性の弓兵と談笑しているところで琴葉を発見すると、今度は琴葉から気さくに話しかけてくる。


「あっ!ティラちゃんだ。さっきはゴメンね。射場では話さないようにしてるの」


と言って、手を振って近づいてくる。


先ほど射場で注意され、発見しても、こちらからどう声かけして良いかと思っていたところだったので、その気さくさに巣くわれた気がした。


こういったところでも人間的な大きさやオンオフの切り替えに格の違いを感じたティラドールだったが、大きな勘違いだったと知るのはそう遠くないことだった。


弓の話でひとしきり盛り上がり、ティラドールも弓の腕前を披露すると、素直に感心し、褒めてくれたのを嬉しく感じた。


特に、改造した丸木弓による三矢斉射は見たことがないと感心された。





 琴葉としては、決して朝美とティラドールの仲を取り持とうとしたわけではない。


断じてないのだが・・・・・・


薙刀の稽古もしたかった琴葉が、朝美のいる歩兵部隊の訓練に行くのに同行を求める。


ティラドールは一瞬難色を示したが、せっかく打ち解けた琴葉の誘いもあって、同行することとなったのだ。

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