顔合わせ
戦場予定地である平野に着くと、すでに張られたキャンプに荷物をまとめる。
到着したのは夕方であったため、そのまま食事をとり、会議用の天幕へと集合する。
「避難訓練、ありがとうございました。多少の犠牲はでましたが、元よりリスクなしで避難はできません。こう言っては何ですが、住民の危機感は増し、緊張感を保つためにも必要な犠牲だったと考えましょう。この経験が必ず生きてきます」
そういって、謙虚にフラハー王は琴葉隊に頭を下げる。
「いえいえ、とんでもないです。貴国の大切な国民をお守りできず、不甲斐ない思いです。発案者として責任を感じています」
代表してのぞみが謝意を示す。
実際は、琴葉隊が随伴したことで、魔獣を何度か撃退し、被害を最小限に食い止められたことは皆の知るところである。
随伴していなかった他のグループで死者が出たのであり、琴葉隊随伴グループからは出ていない。
一通り、社交辞令も済ますと、会議へと移行する。
「まず、人数ですが、こちらは三千用意できました。相手方が五千人以下の場合は撃退、殲滅を目的に戦闘を実施します。それ以上の場合は撤退を前提にして、ある程度交戦したのち、決められた国へ分散して撤退する。ここまではよろしいでしょうか?」
のぞみは一同を見渡し、異論がないことを確認する。
「基本的には、ボクらよりも多い人数で攻めてくることが想定されます。二千で攻めて敗北した事実があるわけですから、当然それ以上の戦力を投入してくるでしょう。おそらくは三千以上。なので、こちらは何らかの策や罠、兵科の有利をもって対抗しないと対応できない可能性があります」
そこまで言うと、王は確認を含めて口を挟む。
「具体的には、前回用いなかった騎馬と槍兵が、仰る「兵科の有利」ということでよろしいかな?」
のぞみは黙って頷き、話を続ける。
「これは、おそらく敵も同様だと思います。兵科の有利を狙い、騎馬は難しいにしても、槍は持ち込むでしょう。拠点構築のための木材なんかも持ち込むと思います」
森の中は狭く、馬が多数侵入するのは難しい。
しかも、馬は臆病な動物なので、魔獣や野生動物の多く生息する森には入りたがらない。
平野での最強兵科である重装騎馬兵が運用できないのである。
対して、こちらは騎馬を千頭有しているが、今回は半数は避難用とし、軍用にはおよそ三百のみの運用に限定しようと事前に話し合っておいたのだ。
「なので、敵としては、重装歩兵、軽装歩兵、弓矢隊、工作兵、輜重隊がメインで、ひょっとしたら騎馬が混じるかもという感じでしょう。武器は槍が加わる感じです」
のぞみがまとめると、皆が一様に頷く。
「大将はおそらくは、王が出てくる可能性が高いかと考えています」
のぞみはそう言って、眼鏡を人差し指で擦り上げる。
今まで黙って頷いていたフラハー王とその側近、指揮官達はやや驚いた様子で聞き返す。
「王自らが、侵入してきますかね? 前回大敗しているのですぞ?」
そばらの指揮官は素直な疑問を口にする。
「そもそもの戦争の発端は、プルミエ国の若き新王が、そのチカラを見せつけんが為に起こしたと聞く。あっても不思議じゃないじゃろうなぁ」
そう言って、顎をさすりながらアス老人が回答するが、いまだ信じられないような面持ちで指揮官達にざわつきが残る。
「まぁ、誰でもいいんじゃねぇの? 来たヤツをぶっ倒せば・・・・・・」
そういって、行儀悪く椅子にふんぞり返っている朝美は興味なさげに言い放つ。
「今までのぞみ殿の仰ることで外れたことはありません。のぞみ殿がおっしゃるのであれば、その可能性が高いのでしょう」
そう王は言い、皆は一様に納得した表情になる。
「やはり、前回の将軍、アインハイツは来ないでしょうか?」
王はのぞみに尋ねる。
「わからないです。道案内含め、帯同する可能性は否定できませんが。普通に考えて、敗戦の責任を問われ罷免されているというのが一般的ですから。・・・・・・ただ、他に有能な将がいないという人材不足な状況であれば、いてもおかしくはありません」
のぞみのあいまいな返答に対し、王は「そうですか」とだけ答えると、話は陣地構築の話に移っていった。
まず、拠点として、いくつか木材を使った柵をこさえ、簡易な砦を構築することとした。
これに異存はなく、夜中であったが、会議の途中で兵を呼び、明日の朝から取りかかるように指示を出す。
ここまでの話だけで、少し時間が経ってしまったため、お互いに陣容紹介することとなった。
「すでに、ある程度話を進めた後に、今更ではあるが、初対面のものもいることでしょうから、簡単に自己紹介して、今日は一度お開きにしましょう。簡潔に、名前と所属、兵科などで結構です」
そう王の提案を受け、各陣営が挨拶をする。
真っ先に椅子から立ち上がり、偉そうに挨拶をする少女がいた。
座っているのよりも、立った方が低くなるほど低身長である。
百五十を切っている少女は元気よく、挨拶する。
「琴葉隊隊長の琴葉です。基本戦術は弓矢、近接は薙刀を使うよ。よろしくぅ」
とわけのわからないポーズをしてふんぞり返る。
かわいらしい女の子で、戦場に似つかわしくない短めのスカートが緊張感を削ぐ。
無駄に明るいテンションがさらに場を凍り付かせていたが、雰囲気を察して、眼鏡を擦り上げた後、のぞみが立ち上がる。
「同じく、エムエールより特派として派遣された琴葉隊の、のぞみと申します。主に作戦の立案と指揮を執ります。罠の作成をする程度で、直接戦闘はほとんどしません」
琴葉ほどではないにしろ、やはりかなりの低身長である。
丁寧にお辞儀をし、先ほどまで議論の中心を担っていたこともあり、ある程度、頭脳労働派ということはわかっていたのだが、今回から参加している指揮官の一部からは、やや冷ややかな視線を浴びることとなる。
戦闘力がものをいうこの国において、「頭脳労働メインです。戦闘力はないです」は口先だけの役立たずと同義に見られるのである。
前回の侵攻における琴葉隊の働きを直接見ていないものが懐疑的になるのは仕方なく、当然とも言えよう。
フラハー国の指揮官の反応が尊敬と侮蔑に二分したのはそう言ったわけである。
「同じく、琴葉隊の朝美だ。一応軽装歩兵に分類されるのかなぁ。武器を使わない直接近接戦闘と投槍が戦闘スタイルだ」
椅子にふんぞり返ったまま、適当に挨拶する少女は、赤い髪をしており、女性にしては長身でモデル体型、きれいな顔立ちをしている。
態度はふてぶてしく、男勝りで勝ち気なのが見て取れる。
言い方もぶっきらぼうだが、不器用なだけだ。
根はいい人間なのは、付き合えばすぐにわかることであるが、初対面の人間にとっては、無礼極まりないので、やはり、一部の礼儀を重んじる指揮官には目に余る態度だったのだろう。
王が何も言わず、にこやかに対応しているため、口にこそ出さなかったが、凄い勢いで睨む指揮官が数名出てしまった。
本人は全く気にしていないところが、すごいが。
「アスという。琴葉隊の、まぁお目付役みたいなものじゃな。ごらんの通りのじゃじゃ馬たちじゃ。お守りと役と思ってくれ。非戦闘員者が、以前は軍人をしておったので戦争経験が多少はあるのと、士官学校で教官を一昨年までしとったで。多少の学はあるつもりじゃ。で、このデカいのはテラガルドじゃ」
そういって、七十過ぎの老人は立ち上がって挨拶をしたあと、テラガルドを紹介する。
「テラガルドと申します。アスさんにお声をかけていただき、今回の特派に加わりました。兵科は重装歩兵、武器は大斧といいたいのですが、今回の任務では輜重を主としており、盾での防護が主となっております」
二メートルには及ばないが、かなりの巨躯のテラガルドを見上げるように指揮官達は見ると、明らかに尊敬のまなざしで見る。
森の騎士と言われる国だ。
戦闘力で人を推し量るというわかりやすい構図が、視線に現れている。
(なんで、この人が非戦闘員なんだ)
(輜重隊って、荷物係じゃないか)
小声で、役割を疑問視する声が聞こえるが、次に視線が行ったのは、先ほど見下した少女達である。
テラガルドが非戦闘員であるということは、自然と、この少女達がメイン戦闘をになっているということに他ならないからである。
謎が解けず、何度もテラガルドと少女を視線が行き来するのが面白かったのだろう。
王は、
「初めて会うものは疑問に思うかもしれんが、皆が今心に描いたものは正しい。琴葉殿と朝美殿の戦闘力は高く、私を凌駕している。それを最大限引き出しているのがのぞみ殿の采配であり、アス殿、テラガルド殿のサポートがあってのものだ」
と付け加えてくれる。
初めて会う指揮官達は口々に信じられないといったことを呟くが、前回の侵攻に加わったものは一切否定しない。
それどころか、頷いて肯定するため、しばらくすると、沈黙が支配することとなった。
王は、その雰囲気を楽しんでいたのか、ニヤッと笑うと、
「では、こちらの陣営も挨拶をしよう。今更だが、現王を務めさせていただいているフラハーだ。兵科は重装歩兵、あるいは重装騎兵。武器はモーニングスターだ」
そういって、立ち上がって一礼する。
「今回、兵の再編成を行なうにあたって、三人の指揮官を呼び寄せた。加えて、前回の侵攻時にもいたが、新たに指揮官を務める二人を紹介させて欲しい。まずは、シークンド」
王はそう言うと、中肉中背の若い騎士を名指しする。
「シークンドと申します。軽装騎兵、あるいは重装騎兵。武器はスピアを使用します。前回はヘスに駐屯しておりましたが、今回こちらに招集されました」
そういって、礼をする。
隙が無く、礼儀正しい。
先ほどからずっと表情一つ変えないため、何を考えているのかイマイチつかみ所が無い。
一礼して一歩下がる。
続いて、紹介されたのは、珍しい女性の指揮官である。
「ティラドールと申します。兵科は弓兵。弓騎兵もできなくはないですが、基本は歩兵としての弓兵です。ボクスネー峠より配置転換で就任しました」
シークンド同様に無表情で礼をして一歩下がる。
弓兵という言葉に反応し、琴葉が口を挟む。
「弓使うんだ! わたしと一緒~。仲良く一緒にがんばろっ」
といって、はしゃぎ出すが、
「私は騎士としての振るまい、礼儀を重んじる。王の前で椅子にふんぞり返る輩と仲良くできるかどうかはわからんがな」
といって、朝美を見下ろすように睨むと、朝美も負けじと反応する。
「あ? そりゃあ、あたしに言ってんのか?」
そう言って、一触即発の空気が漂う中、
「なんだ~。そこもわたしと一緒~。やっぱ礼儀って大事だよねっ。うんうん」
といって、琴葉も朝美を睨みつけると、前回侵攻時からの指揮官達は一斉に笑い出す。
前回侵攻時でともに戦った指揮官は琴葉隊と一緒に訓練し、過ごすことで十二分に性格を知っているため、いつもの平和なやり取りの一部として、爆笑していた。
無駄に怒り、緊張感を持っているのが自分たちだけであると知った新規配属の指揮官達は、心に思うところを控えて、順次自己紹介を続けることになったのだった。
「アンダールです。フェルゼンから移動してきました。重装歩兵です。武器はメイスです」
再開した自己紹介で、三番目に出てきた男は、やや小太りではあるが、筋肉質である。
現国王のモーニングスターよりも小ぶりな殴打武器をやはりそれぞれ両手に持って振り回すようだ。
先の二人と違って、多弁で、親しみやすさが滲み出ている。
終始にこやかで、挨拶を終えた。
「どうも。琴葉隊の皆様、お久しぶりです。軽装歩兵のスパツェロです。ぶきはオーソドックスに片手でのショートソードとバックラーです。決して戦闘力は高くないですが、またご指導お願いします」
そういって、にこやかに頭を下げる。
自分で言ってたように、戦闘力は高くないが、その分人望と指揮能力があり、一兵卒から指揮官に抜擢したのである。
コミュニケーション能力が高く、琴葉隊ともすでに打ち解けている。
「ポシュエです。指揮官というような肩書きに馴れませんが、輜重隊を任されています。武器はショートソードとバックラーです」
そういって、自信なさげに挨拶をするのは、前回アス老人に最も手ほどきを受け、後方支援、物資調達など、輜重隊としての役割を一番吸収した兵である。
ひょろっとした長身の男だが、見た目の細身とは裏腹に、意外と力はある。
彼もまた、一兵卒から指揮官に抜擢されたものであった。
その後、元々指揮艦であったものを数名自己紹介させ、散会したのは夜の十時を回っていた。
「ま、仲良くやろうぜ、気楽にな」
そう言って、会議の天幕から去る朝美をティラドールは隠すことなく睨む。
のぞみとアス老人は顔を見合わせ、やれやれといった感じで背中を見送るのであった。
途中から爆睡していた琴葉を、テラガルドが背中におんぶして出る様をティラドールは深いため息と苛立ちを持って見送る。
そんなティラドールに何も言わず、肩に手を一度添え、退席するシークンドであった。
しかし、無表情の彼の思うところはわからないのであった。




