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教皇としてはリジーが滞在してくれればそれで良かったのかもしれない。
だが、リジー抜きの私たちだけでプライモアに行っても、公爵に「聖女の力」と私たちの正統性を信じてもらえない恐れがあった。
そのため、ガルモンド侯爵は、リジーが人々に治癒魔法を施す間、私たちも彼女と一緒にイルハンスに滞在することを決めた。
そうなると、王都とプライモアに使者を送る必要があった。
元々王都には教皇との交渉が終わり次第、その成果を伝える使者を出すことになっていた。
プライモアには、既に王都から私たちの訪問を伝える使者が出ていたので、訪問が1週間延期されることを私たちの方で伝えねばならない。
人員が限られていたし、ガルモンド侯爵やスクライブ伯爵の部下たちと共に、スタンリーがプライモアへの使者に、ヴィンセントが王都への使者に任命されたので、私はてっきり自分も何かしらの使者を務めるものと思っていたが、どういう因果なのか、そうはならなかった。
私には馬の世話くらいがちょうどよいと思われたのかもしれない。
この1週間、ガルモンド侯爵とマイクロフトは教皇庁に通ったり教皇領内を駆け回ったりしながら、様々な人物に会った。
メアリーとアニーは護衛としてリジーの仕事に立ち会った。
私はガルモンド侯爵に従うマイクロフトについて行ったが、神聖語もイルハンス語も彼らの方が秀でていたので、本当にただの付き人だった。
会談する人物の多くは教皇庁の司教や司祭だったが、遠出して地方の大司教にも会いに行った。
長く話し込むこともあれば、ただ挨拶して軽く話すだけのこともあった。
教皇領は聖職者が軍事力を持っている社会なので、機嫌を損ねたらどんな目に遭うか分からないと思い、私は落ち着かなかった。
1週間後、案の定リジーは「まだ治療できていない人たちがいる」と言って教皇庁を離れたがらず、教皇もそれに便乗して私たちを引き留めた。
だが、ガルモンド侯爵が言った。
「いつまでもここにいる訳にはいかぬ。我々はダームガルスに苦しめられているメシア教徒を救わねばならんのだ。それに、プライモア公爵をいつまでもお待たせするつもりか」
それでもリジーは不満気で、
「せめて表にいる人たちにワンタッチだけでも」
と少し恨めし気に返した。
「表にいる人たち」の規模は、この1週間で何倍にも膨れ上がっていた。
ひとりワンタッチで済むとはいえ、彼らに治癒魔法を施すだけで何日かかるか分からない。
それに、ここで私たちが譲歩したら延々と出立が延びて、いつまで経ってもプライモアに行けなくなってしまうことは明白だ。
そこで、ガルモンド侯爵に命じられたメアリーとアニーが、引きずるようにしてリジーを教会関係者から引き離した。
もしリジーが本気で抵抗していたら彼女たちだけでなく私たちもただでは済まなかったかもしれないが、ガルモンド侯爵の説得が効いたのか、リジー自身に迷いがあったおかげで、私たちは平和的に彼女を馬車に放り込むことができた。
イルハンスを出て、馬車を持ち主に返し、私たちはようやくプライモアに向かった。




