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「ウベルギラスがダームガルスとの戦いに勝利した暁には、何をしたいですか?」
教皇が尋ねた。
えらく直接的な訊き方をしたものだ、と私は思った。
だが、リジーはこの質問を意外に思ったようだった。
おそらく文脈を理解していなかったのだろう。
その様子を見て、リジーが何を言い出すのか、私はひやひやした。
「あたしは多くの苦しむ人々の痛みを和らげたいと思っています。こんなことを言うと傲慢に聞こえるかもしれませんが、それがこの力を授かったあたしの天命だと思うからです」
教皇がリジーをじっと見た。
私にはその様子が、リジーから引き出した言葉の成果を噛みしめ、とりあえず満足したように見えた。
「よろしい。エリザベス・フォスターが正統なメシア教徒であり、その力は救世主の御力を継ぐものであることを、教皇ホミネウスの名において認めましょう。それを証明する書類もこちらで用意させていただきます」
「ありがとうございます」
私たちは頭を下げた。
何はともあれ、とりあえずダームガルスとの戦争中は、リジーは王国軍の一員だ。
そのラインを守れたのだから良しとすべきだろう。
リジーに対する教皇の影響力が、事前に立てた計画よりも強くなったが、当時の人間は世俗の君主と宗教的な権威の両方に忠誠を誓うことが普通だったので、このことがすぐに痛手になるとは言えまい。
教皇が言葉を続けた。
「教皇庁がウベルギラスとダームガルスの戦争に介入する件についても前向きに検討しましょう。ただし、ダームガルスの大司教らと話をする必要があります。少し時間が掛かるかもしれません」
「ありがとうございます」
私たちはもう一度頭を下げた。
「その代わりと言ってなんですが、リジー」
教皇が温かい目で言った。
「1週間で構いません、このイルハンスで私たちに力を貸してくれませんか?」
リジーは見るからにきょとんとしていた。
教皇が続けた。
「毎年、冬になるとこの教皇庁には多くの人々が訪れます。その中にはケガや病気に悩む人が少なくありません」
「ああ! あたしで良ければ、力をお貸しますよ」
リジーが元気に承諾した。
私たちウベルギラスの人間は皆、ぎょっとした。
私たちはこれからすぐにプライモア公爵領に向かう予定だったからだ。
「え、いや、1週間だけだよ」
鈍感なリジーもさすがに私たちの困惑を察したらしく、急いで言った。
教皇が追い打ちをかけた。
「ありがとうございます。きっと多くのメシア教徒が喜んでくれるでしょう」
ケガや病に苦しむメシア教徒たちを治すという大義名分を持ち出されては、裏にいくら政治的意図があろうと、私たちは承認するしかなかった。
1週間とはいえ、リジーを教皇のために働かせる訳だから、これによって教皇ホミネウスの権威は大きく向上するはずだ。
教皇の提案がこれを狙ったものであることは間違いない。
もちろん、私たちにとっても損な話ではない。
リジーを聖女と認定してくれた教皇の権威が高まるのは大歓迎だし、「教皇がリジーを聖女として認定した」という噂が自然に広がるのを待つよりも、彼女の力を大々的に示した方が世間的には効果があるはずだ。
それに、教皇領がダームガルスとの戦争に介入するときにも兵を募りやすくなる可能性が高い。
だが、問題は、リジーによる善意の医療行為が、果たして1週間で済むのかということだった。
ケガ人や病人などこの時代、珍しくもなんともない。
それにリジーの噂が広まれば、苦しみを抱える人々はほとんど無限にやってくるに違いなかった。
そういった人々に情が移ったリジーが、イルハンスを離れたくないと言い出さないとも限らなかった。




