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ダームガルス戦記  作者: あじさい
第7章 イルハンス
96/146

7-13

「リジーが敬虔なメシア教徒であると言うならば」

 教皇がガルモンド侯爵を見据えながら言った。

「彼女はメシア教徒とメシア教のさらなる振興のために尽力してくれるものと期待して構わないんでしょうね?」

 早い話が、リジーの力を教会のために使わせろということである。

 教皇がそう言い出す可能性も、私たちは想定済みだった。

 ガルモンド侯爵が落ち着いて言った。

「彼女はそのために、我々ウベルギラス王国軍の兵士として、ダームガルスとの戦争に尽力してくれています」


 教皇は何かを思案した様子だった。

 リジーを教会の管轄下に置きたいと言ったところ、戦争中は無理だと返されたのだし、この返答では戦争が終わっても自分の要望が叶えられるとは限らない。

 ほいほいと頷けないのは(もっと)もだ。

 これではウベルギラスに援軍を送るだけで、教会にとって益がない。

 だが、口を開いた教皇は愛孫に話しかける祖父のようだった。

「リジー、それは本当ですか?」

「え、はい、本当です」

「あなたは今後もダームガルスとの戦争に身を投じるつもりですか?」

「あー、それが正しいことと確信している限りは」


 リジーの返答に、ガルモンド侯爵がピクリと反応した。

 そりゃそうだ。

 ガルモンド侯爵としては、自分たちの戦争が正しくないことがあるかのような言い方は、仮定の話だとしても聞き捨てならない。

 それに、この発言を容認すると、リジーが自分の判断でいつでも王国軍を抜けられることになってしまう。


「確認しますが」

 口を挟もうとしたガルモンド侯爵よりも早く、教皇がリジーに言った。

「その正しさとは、メシア教にとっての正しさと考えてよろしいですね?」

「……もちろんです」

 何と言ってもリジーは「聖女」として認定されるためにここに来たのだから、そう答えるしかなかった。

 それに、この訊き方ではガルモンド侯爵もマイクロフトも口を挟めない。

 だが、この瞬間に、(リジー自身は気付いたか定かではないが)彼女は王国軍よりも教皇に優先的に従うことを受け入れた。

 今になって思うと、「メシア教にとっての正しさ」の内実は聖書の記述に依拠しているとはいえ、その解釈は教皇が最高責任者となっている訳だから、これは教皇に全面的に服従するという宣言に限りなく近かったと言える。


 相変わらずゆったりとした口調で、教皇が質問を重ねた。

「リジー、なぜあなたはウベルギラスがダームガルスと戦う必要があると考えているのか、確認させてもらっても構いませんか?」

「ダームガルスの王室が敬虔なメシア教徒たちを横暴な法律によって蹂躙(じゅうりん)しているだけでなく、ウベルギラス王国に対して不当な侵略を行っているからです」

 リジーのこの答えは、あらかじめガルモンド侯爵とマイクロフトが考案しておいたものだった。

 あまりにもそのままなので、私は彼女の記憶力の高さに驚いたくらいだ。

 一応段取りに従ってはいたが、「これはまずい」と私は思った。

 あまりにも用意されたままという感じで、リジー自身の言葉でないことが明らかだったからだ。

 私の懸念通り、教皇はそのことを察したらしく苦笑いを浮かべた。

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