7-11
「ひとりになったあたしは山を抜けて或る村に出ました。
ホートンという村でした。
あたしは助けを求めて、買い物帰りのおばさんに抱きつきました。
すると、おばさんは患っていた腰の痛みが消えたと言いました。
おばさんは不思議がって、あたしを盲目のおじいさんの所に連れて行きました。
あたしと手をつなぐと、おじいさんの目が開きました。
あたしが自分に、不思議な力が宿ったと知ったのはそのときです。
不思議な力はあたしが人に触れるだけでその人を癒しましたが、そのときはまだ、あたしにとってすごく疲れの溜まるものでもありました。
あたしがホートンの村の人たちを一通り治した後、盲目だったおじいさんが、山脈を越えてエルデリアに行くよう勧めてくれました。
エルデリアには不思議な力にまつわる伝承がたくさんある、不思議な力を操り、不思議な力についてよく知る人々が暮らしている、そこに行けばきっとあたしの力はもっと強くなって、もっと多くの人を、もっと楽に救えるようになるだろう、と。
あたしは村の男の人に連れられて、エルデリアに行き、サマーラという町で修業をして、この力を今のように楽に使えるようになりました。
あたしはこの力で多くの人を癒してきました。
みんな、あたしに感謝してくれます。
あたしも、この力をくれた神様に感謝しています。
でも、神様がもう少しだけ早くこの力を与えてくれていたら、父さんと姉さんを救うことが……
いいえ、そもそもあたしたちが町を追われる原因になった疫病をどうにかできたんじゃないか……。
そう思うと、あたしは……」
リジーは拳を握り締め、身を強張らせた。
教皇は立ち上がって、リジーの肩に優しく手を置いた。
「よく話してくれました、リジー。
つらかったでしょう。
こんな大勢の前でそれを思い出させてしまって、私は謝罪してもしきれません。
ですが、リジー、これだけは言わせてください。
主はあなたと共にあります。
人の身である私たちには主の御心を推し量ることはできません。
しかし、人々が患う病とケガのつらさと、それらが招く悲劇を最もよく知るあなただからこそ、主は奇蹟の力をお与えになったのでしょう。
主はあなたの痛みに応えてくださったのですよ」
教皇の言葉を聞くリジーの目から、大粒の涙がこぼれた。
「そうですね。ありがとうございます、教皇台下」
リジーの話を聞いた私は、神はなんと残酷なのだろうという感想で胸がいっぱいだった。
最後にリジーが言おうとしたのも神に対する恨み節に違いなかった。
それは教皇の短い講釈を聴いてどうにかなる程度の思いではなかった。
しかしながら、教皇の言葉によって当事者であるリジーがいくらかでも救われたとするなら、全くの部外者である私ごときが本音を吐露しても、それは無粋というものだ。




