7-10
ゆっくりと話し始めたリジーは所々で言葉に詰まり、聞き取りにくい低い声になることもあった。
だが、ここでは細部のぎこちなさをわざわざ再現することは控えようと思う。
「あたしが8歳のとき、タシケントの町が干ばつに見舞われました。
雪が溶けてから夏が盛りになっても1滴の雨も降らず、川はおろか畑や山まで干上がって、家畜もやせ細りました。
おまけに、ひどい疫病が流行りました。
初めは犬が痩せ細るだけだったんですけど、その次には羊がバタバタと倒れて、馬や牛が死ぬようになって、最後には人間までもが病に冒されるようになりました。
私の母もその疫病で亡くなりました。
その疫病は……とても恐ろしい病でした。
すみません、私はあの光景をもう思い出したくありません。
そんなとき、町に住む1人の老人が、町に災いが起こるのは天罰だと言い始めました。
この町には神様に対して深い罪を犯した者がいる。だから神様が我々を罰しているのだ。その者に町の人たちが裁きを与えれば、再び雨が降り、大地が潤って、疫病は消え去り、枯れた農作物も息を吹き返すと、その人は言いました。
町の神父さんは『裁きを下すのは人ではなく主だ』と言って取り合おうとしませんでした。
でも、その神父さんも疫病に冒されて、口を利けなくなりました。
町の人たちは捕まっていた罪人を殺し、新たな罪人を探しました。
罪人は次々に見つかりました。
町が貧しくなって、物を盗まないとその日の食事にありつけない人が増えていたからです。
間もなく、町の人たちの間で、あの人が盗みを働いたとか、この人が別の神を崇めたとか、姦淫した者がいるとかの噂が立つようになりました。
たぶん、根も葉もない噂ばかりだったでしょう。
そして、あたしの父にも、パンを盗んだらしいという噂が立ちました。
生き残るために、父は姉とあたしを連れて町を出ました。
あたしたちは農民でしたから、土地を捨てることは暮らしの術を失うことでした。
それでも町の人たちが追ってきて、あたしたちは山々を逃げ回りました。
あたしたちは何日も水を飲むだけで何も食べず、ひもじくて仕方ありませんでした。
そのとき、盗賊に遭いました。
彼らは最初からあたしたちを殺すつもりだったようです。
あたしたちが金を差し出しても信用せず、父を殺しました。
姉が彼らに取り縋って……」
横で聞いていた私は、どうすればいいのか分からなかった。
これ以上リジーにつらいことを思い出させたくはない。
私は話を遮ることを考えた。
だが、ひょっとするとリジーは話すことによって初めてその過去と向き合っているのかもしれなかった。
私が迷っている間にも、彼女は話し続けた。




