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ダームガルス戦記  作者: あじさい
第2章 ホリウス
33/146

2-7

 私の初陣は勝利に終わった。

 しがない一般兵でしかない私からすると目の前に現れた敵を撃退するだけの戦闘だったが、実際には我が軍は敵軍をその右翼後方からも攻め立てる挟撃作戦を展開していた。

 敵軍はこの敗戦を受けて敵国領のランドンまで引き上げた。

 ホリウスの脅威は去り、ドゥオークは解放され、西部防衛軍の大半は解放されたばかりのドゥオーク城に入った。

 民衆がウベルギラス国王の栄光を称えた。

 多くの王国軍兵士が勝利を祝ったが、敵兵とはいえ人間を少なからず殺し、仲間たちを失った私の気分は晴れなかった。


 戦闘が終わって、私はすぐにでも酒を飲みたい気分だったが、その前に負傷者の救護と遺体の回収に駆り出された。

 ひとりで立てない負傷者に肩を貸して医療班まで連れて行ったり、既に亡くなった戦友たちの遺体を荒布(あらぬの)の上に山積(やまづ)みにして本陣まで引きずっていったりした。

 幸い、王国軍兵士の多くが駆り出されていたおかげで、この作業にはそれほど時間が掛からなかった。


 それが終わると、ようやく私たちは解散を命じられて、酒や食べ物にありつくことができた。

 私たちは腹が裂けんばかりにビールや葡萄酒を飲み、ヤギや羊の肉を食べ、望む者はその後にドゥオークの女を抱いた(ただし、圧倒的に女の数が不足していた)。

 ビールを飲んでさえいれば満足できる私は、生き残ったケビンと2人で飲み明かすつもりだったが、残念ながら彼はすぐに酔い潰れてしまった。


 マイクロフトが大笑いしているのを、私はこのとき初めて見た。

 彼は酔いが進むと笑い声が大きくなるタチだったらしい。

 ニコラスはマイクロフトの横にくっつきながら、誰とも話さず、退屈そうに肉を掴んで骨ごと貪っていた。

 それでも、酔った勢いで彼の肩を叩きに行く命知らずな隊士が何人かいた。

 バートンは泣き上戸で、もじゃもじゃの髭をナヌラークの顔にこすりつけながら号泣していた。

 ナヌラークは露骨に迷惑そうだったが、相手がバートンなのであまり邪険にする訳にもいかないようだ。

 メアリーは男たちに囲まれて困り顔をしていた。

 昼の豹変ぶりを冷やかされていたのだろう。

 彼女を取り囲む男たちの中には、見慣れない顔も何人かいた。

 どうやらジェンキンス隊以外からもメアリーの評判を聞きつけてやってきた者がいたようだ。


 倉庫のすぐ外に出されている樽からビールの匂いがプンと立ち込めており、私は久しぶりにビール樽に頭を突っ込んでみたくなった。

 だが、私の頭の片隅にある冷静な部分が、訳ありの荒くれ者ばかり集まっている場で泥酔するのは危険だと警告した。

 私は仕方なく、樽のビールを(さかずき)(すく)いながら飲むことにした。


 酔いが回り始めるくらいには飲んだとき、女の歌声が聞こえてきた。

 盃を片手に声のする方を見ると、人混みの隙間に女が歌っているのが見えた。

 情熱的で伸びのあるアルトだった。

 ドゥオークのどこかの酒場の女歌手だったのだろう。


  花が枯れても 木は枯れない

  あなたにもらった美しさが枯れても

  わたしの愛は枯れないわ

  だから どうか帰ってきて

  春の息吹を吹きかけて

  わたしはきっと返り咲く

  あなたのためなら

  あなたのためなら


 たぶん酔っていたせいでもあるだろう。

 その歌声を聞いていると、「俺はあの激しい戦闘を生き残ったんだ」と、不思議なほど感慨深く思えてきた。

 この日のことが妙に冷静に思い出され、自分という存在の儚さに私はいっそ泣きたくなった。


「きれいだねぇ」

 背中越しに声がした。

 酔いが回り始めていたせいか、その声が私に話しかけてきたのか、それとも別の誰かに話しかけたのか、とっさには分からなかった。

 私が振り返ると、リジー・フォスターが倉庫の柱に寄り掛かっていた。

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