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ダームガルス戦記  作者: あじさい
第2章 ホリウス
32/146

2-6

 戦いの最中、ケビンはすっかり冷静さを失って、眼の色を変えて盾を振り回し、敵を殴りつけていた。

 どうやら喧嘩となると人が変わるタイプらしい。

 私は何度か、ケビンを死角から襲う別の敵兵を排除したが、たぶん彼は気付いていなかっただろう。


 人が変わると言えば、メアリーも凶暴な豹変ぶりを見せた。

 彼女は単純な力比べでは男を何人も相手にしてはいられないはずなのに、敵が力任せに振り下ろした剣をひらりとかわし、目にも止まらぬ身のこなしで甲冑の隙間だけを的確に狙った。

 喉を的確に刺すことが多かったせいか、彼女は誰よりも早く、顔から(もも)まで返り血に染まった。

 そして、血で汚れた顔から白い歯をのぞかせた。

 彼女は敵に囲まれる前に正面の敵を倒し、逃げようとする相手も容赦なくぶっ殺した。

 さらに悪いことに、彼女は足を払ったり殺し損ねたりしたとき、倒れている敵の顔や股間を、地も割れんばかりの勢いで踏みつけ、そのときに最も楽しそうな表情を浮かべた。

 この戦いで彼女が敵味方の双方から「血まみれの魔女(ブラッディ・ウィッチ)」と呼ばれるようになったのは、致し方のないことだった。


 ナヌラークもケビンもメアリーも凄まじかったが、戦いぶりでは、やはりニコラスの右に出る者はいなかった。

 彼は肩に装備していた長剣を両手に持ち、いつも通りの面倒くさそうな顔で敵を次から次に倒していた。

 私はこのとき初めてニコラスの二刀流を見たが、まるで教練のときの彼が2人に増えて背中合わせになっているような強さだった。

 しかも、振り向きざまに的確に敵を斬りつける様子は、まるで頭の後ろにも目があるかのようだった。

 それにしても、あれだけ走り回っていてよく目が回らないものだ。


「隙を逃すな! 進め!」

 マイクロフトは指示を出しながら前に出ると、馬上から槍で敵を蹴散らした。

 そのとき、マイクロフトと目が合い、彼が私に向かって頷いたことを、私は今でも鮮やかに思い出す。

 後方にいた部隊の連中が続くのを見て、ケビンと私も慌てて前に出た。

 敵が崩れ始めているのは最前線に身を投じたマイクロフト小隊のおかげなのに、手柄だけ横取りされてはかなわない。

「ニコラス、先を急ぎすぎるな」

 マイクロフトが声を飛ばした方向に目を向けると、ニコラスがニヤリと笑っていた。

 こんなときなのに、慕っているマイクロフトに呼ばれたというだけのことで随分と嬉しそうだった。

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