女子会と園芸店
咲子の作ったシフォンケーキとマヨコーンチーズパンは、お母さんの光枝さんとお嫁さんの友美さんに、歓声と共に迎えられた。
「わー、ふわっふわ。ヨーグルトクリームの酸味とブルーベリージャムの甘みがよく合うわ~」
「甘いものとしょっぱいもの、両方あるのがいいね!」
あ、光枝さんは私と同じ感覚だ。
「私もそれなんです! 甘いものを食べたら、辛いものを食べたくなるんですよ」
「わかる~ キリがないんじゃけどねー」
二人で共感し合って笑っていると、友美さんが「それはそうと……」と言ってズバリと肝心なことを聞いてきた。
「会ったばかりで、こんなことを聞くのもなんだけど……咲子さんって、結婚するつもりはある?」
「え?」
「哲ちゃんとすぐに結婚するっていう話じゃないのよ。家を買って一人で住んでるって聞いたから、独身主義者じゃないのかなって……そこをうちの旦那様は心配してるみたい」
あ、そういうことか。
ご家族にとっては、そういうことが気になるのね。
歳も歳だしね。
「独身主義者じゃないです。その……いままでご縁がなくて。もう三十が来るから今後のことを考えて、家を買ったんです」
咲子の説明を聞いて、お義姉さんだけではなくお母さんもホッとしているようだった。
「ごめんね~ ズケズケと口を挟んじゃって。でも哲ちゃんは舞い上がってるし……本気になった後でごめんなさいじゃちょっと可愛そうかなって思ったの」
「いえ、ご家族が心配されるのはわかりますから……」
「咲子さんが良かったら、うちの哲也との結婚を考えてやってくれない? 私としたら咲子さんがお嫁さんに来てくれると嬉しいわ」
えー、光枝さん。
そんな……
「お義母さん、まだ早いわよ~ でも、私も咲子さんだったらいいな!」
もう、友美さんまで……
二人ともニヤニヤして、私たちで遊ぶのはやめてください。
それから咲子の生い立ちや家族の話をしたり、庭や園芸の話をした。
お兄さんの孝介さんは農協の職員をされているそうだ。
それで、お父さんと哲也さんが主に田んぼや畑の仕事をしているらしい。
「うちは果樹もやってるからね。今の時期は桃の出荷が始まってるから忙しいんよ」
それで哲也さんはすぐに作業場に行ったのね。
「それじゃあ、今日はお邪魔だったんじゃないですか?」
「そげぇなことはないわよ。農家の仕事というのはやろうと思ったらキリがないんよ。土・日休みがあるわけじゃなし……暇を見つけて休まないと身体がもたんわ。まぁ、自分で休む時間を決められるのはいいところじゃな。雇われてるわけじゃないから」
なるほどね。
サラリーマン家庭で育った咲子の感覚にはない生活パターンなんだ。
◇◇◇
哲也さんが連れていってくれたのは、清山園芸というこの辺りでは一番大きな園芸店だった。
店というより、色んな種類の木が植えてある畑のそばに、長く連なる倉庫のような小屋が続いている。その小屋の中には色とりどりの鉢植えや花の苗が何千種類も並んでいた。
生産者がついでにお店もしているといった感じのところだ。
「これ、見てるだけで楽しいな」
「じゃろ? おふくろも友義姉さんもよくここに来るんよ」
最初に畑の中に入って、庭のシンボルツリーを選ぶことにした。
ぐるっと見て回って、コハウチワカエデとクロモジという木が気になったので、どちらがいいか悩んでいると、お店の人が来てアドバイスしてくれた。
「クロモジは半日陰の方がいいですから、庭の南側に植えられるんでしたらコハウチワカエデをお勧めします。秋は紅葉しますから綺麗ですよ」
わー、それは季節感があっていいかも。
結局、お勧めの方のカエデを買うことにした。
店の人が木を掘り出して準備してくれている間に、咲子は哲也さんと一緒に花を見に行った。
「夏だから、この青いサルビアは涼しい感じがしていいかもね」
「綺麗な空色じゃな。せーでもうちの庭を見とったら、この昔からの赤いサルビアの方が強えよ。こぼれ種で増えるみたいじゃし」
「そっか……じゃあ両方買ってみようかな。赤二個、青三個でどう? サルビアの群生の前に、この間お母さんにいただいたペチュニアを植えたら高さのバランスもいいでしょ?」
「うん、ええと思う。僕が今日のデートの記念にこのリビングストンデイジーを買うてあげらぁ。黄色い小花じゃから邪魔にならんじゃろ」
「……うわぁ、それって嬉しい!」
頭の中に、庭のお花畑が広がっていった。
……ん? そう言えば哲也さんたら、だんだん岡山弁が出てきてるみたい。図書館でいつも聞こえてくるザワザワした温かみのある訛りの言葉。
哲也さんが使うとのんびりと聞こえてくるなぁ。
昼食は手巻き寿司にすることにした。
「初デートじゃから、おごらせて」と言って、哲也さんが食品を全部買ってくれた。
家に帰って、咲子が昼食を作っている間に、哲也さんが木を庭に植えてくれた。
座敷の縁側の近くにテーブルを置いて、二人で手巻き寿司を食べながら植えられたばかりの木を眺める。
幸せって、こういうことを言うのかもしれない。
窓の向こうの庭に、ゆったりと風に揺れている若木の枝。
ご飯を食べた後で一緒に植えようねと言っている、たくさんの花の苗が、待ち遠しそうにこちらの様子を見守っている。
そして向かいには話しかけ、笑いかけてくれる彼がいる。
三十歳がくる年に、結婚を諦めて家を買った咲子。
どうやらまた違った物語が、ここから始まりそうですね。
ここまで読んてくださって、ありがとうございました。




