吟遊詩人
町の広場に1人の女性が噴水の前で小さなハープを弾きながら歌を唄い、
周りには男女問わず数人が集まっていて、歌を聞いていました。
私達も気になり彼女の歌を聴くために近くに寄りました。
見た目は少し変わった服装をしており、
まさに吟遊詩人と言えるような感じの女性です。
彼女のハープの演奏はどこか懐かしいような、
切ないような音色を奏、歌声はとても透明感があり引き込まれます。
私達は小声でお話をしました。
『癒されるね』
『ああ、素敵な歌だ』
『好きになったのー』
周りの方を見ると目を閉じながら聴いていたり、
見守る様に彼女を見ている方もいます。
それだけ彼女の歌声は魅力があるのです。
心地よく聞いているとき、それを邪魔する柄の悪い男性が現れました。
『おい! 耳障りだぞ!!!』
大声で罵倒をしてきた男性にみなさんも驚き、固まってしまいました。
彼女は悪い訳でも無いのに、男性に謝ってしまいます。
『ごめんなさい、今辞めますので・・・』
『ちょっと可愛いからって調子にのるんじゃないぞ! 早くどっかに行け!!』
周りの方もざわつき始めたので、
柄の悪い男性がそれに対してさらに激怒をしていました。
『なんだ、文句があるなら相手になるぞ!』
男性の方は物騒なハンマーを背負っていたので、
みなさんは怖がってしまい、誰も話さなくなってしまった。
しかし、私は彼女の歌を邪魔した男性が許せなくて近づいて怒りました。
『みんなが心地よく聞いていたのに、
彼女の歌を邪魔をしないで貰えませんか?』
『あ? 文句があるなら、掛かって来いや!!!』
男性はハンマーを取り出したので、
それを見たスフィアが私を助けに入ってくれました。
『相手なら私がするよ! みなさん、下がってください!』
周りの方は心配する様にスフィアを見ていました。
歌を唄っていた女性の方に後ろから声を掛けられました。
彼女をみると、とても震えていて怖がっていた。
『すいません、私の所為で・・・。あの方は大丈夫なんですか?』
私は彼女を安心させる為に言いました。
『スフィアなら大丈夫ですよ、安心してください。
それにあなたの所為ではありません、
みなさんもあなたの歌を邪魔されて怒っているの思うので、
ここは任せてください』
周りが見守る中、戦闘が開始しました。
『女だからって容赦はしないぞ!!』
柄の悪い男は殺す勢いでハンマーを思いっきり振りかざしましたが、
それを簡単に避けたスフィアが反撃をして、
槍の柄を使って相手の首を狙い見事に一撃で気絶させました。
『少しは反省しな!』
その瞬間に歓声が鳴り響きました。
『スッゲーなお姉ちゃん! スカッとしたぜ!』
『おー、大したもんだ! 良くやった!』
拍手喝采でしたので、スフィアは少しだけ照れていました。
これで邪魔をする人はいなくなりましたので、演奏を再開出来そうです・・・ですが地面で気絶している男性が邪魔ですね。どうしましょうか?
その時にフワリが警備兵を連れて来てくれました。
『こっちなのー!』
『誰だ! こんな昼間から暴力沙汰をしている奴らは!』
『公共の場だから速やかに辞めろ・・・ってあれ? 問題解決している?』
スフィアは警備兵が来ると、頼み事をしていました。
『この気絶している男性を連行してくれ』
警備兵は『りょーかい!』と二つ返事をして暴力を振るおうとした男性を縄に縛って引きずって連行して行きました。
『フワリ、いつの間に呼んできたの?』
『んー、歌を邪魔する時くらいにかな?』
なんて早い察知でしょう、妖精の感なのかな?
そういえば、その辺りからいませんでしたね。
フワリと話していたら1人の警備兵が此方に近づいて来て、
彼女に注意を呼び掛けました。
『危ない奴もいるから、
あまり目立つ様なことはしない方が良いぞ』
『ごめんなさい、気をつけます・・・』
すっかり落ち込んでしまいました。
周りにいた方は警備兵に対して、講義をしました。
『彼女の歌を聴きたいから、邪魔しないでくれ!』
『そうだ、そうだ!俺たちは
歌の続きを聞きたいから彼女に歌わせてくれ!』
その講義は静まることがありませんでしたので、
警備兵は仕方がないなと諦め、
一曲だけなら監視をしとくから歌っていいぞ。
と許しを得たので、再び彼女の歌が再開しました。
彼女が歌い出すと、さっきまでの騒ぎがなかったかの様に
周りは静かになって、とても心地良く聴いていました。
歌が終わると全員が拍手をしていました。
そう、警備兵の方も思わず聞き惚れていたのです。
『みなさん、ありがとうございました!!
また、何処かでお会いしましょう!!』
それから、周りにいた人々は次々と帰って行きました。
私達も帰ろうとした時に、
歌を唄っていた女性に呼び止められてお礼をされました。
『あの!本当にありがとうございます、助かりました!』
『いや、いいさ。私達もあなたの歌を聴いていた時に、
邪魔をされて腹が立っていたからな』
『そうよ!あなたの歌凄い素敵なのに、
あんな事言われたら誰でも腹が立つわ』
『私も怒ってるの!』
3人で彼女を励ましたら、彼女は笑顔で答えました。
『私の歌を聴いてくれてありがとうね。
良かったら、また何処かであったら聴いてちょうだいね!』
気になる言葉がありました、何処かでとは?
気になるので尋ねることにしました。
『すいません、何処かでと言うことは、
普段はこの広場で歌っていないのですか?』
彼女は少しだけ考える様に答えていました。
『普段と言うよりこの町で歌うのは初めてね。実は私、吟遊詩人なんだ。
旅をしながら詩を作って、曲が完成したら旅先の町で歌うのよ』
なるほど、やっぱり吟遊詩人の方でしたか、
旅をしているならお話が合いそうですね。
『実は私達も旅をしているんですよ!』
彼女は手に口を当て、驚いていました。
『まぁ、そうなの!あなた達はどうして旅を?』
旅の話をすると意気投合して、とても盛り上がりました。
別れる際には彼女の名前を教えて貰えました。
彼女の名前はミアンさん、年齢は30歳です。
顔つきが幼い感じの方なので、
私達と同じ年齢くらいかなと思っていたので驚きました。
『ミアンさん、また逢えたらいいなー』
『だな、また何処かで逢えたら歌を聴きたいな』
『毎日聞きたいくらいなのー!』
ミアンさんの歌を聴いていたのは数十分でしたが、
忘れられませんでした。
それだけ彼女の歌は素晴らしかったのです。
私もあれぐらい歌が上手ければなー・・・。
今夜、歌の練習をしてみようかな?なんてね。




