『第15話:お嬢様の猛アタックと、恋心ゼロのガキ』
聖アリス女学院の応接室で、西園寺麗香お嬢様からの「結婚前提の交際申し込み」をコンマ0秒で即答拒絶した俺葉。
統「即答すなーーーーーーーっっっ!!!! お前正気か!? 超絶金持ちの美人お嬢様だぞ!?」
俺葉「統……騙されるな。俺の母体(201号室)にこれ以上人間が増えれば、カップ麺の保管スペースが圧迫される。これは罠だ」
統「どんなリスク管理だよ!! 贅沢すぎるわ!!」
しかし、麗香お嬢様はショックを受けるどころか、むしろその瞳にメラメラと熱い情熱の炎を宿らせていた。
麗香「……ふふっ、流言飛語に惑わされず、ご自身の信念(カップ麺)を貫く姿勢……やはり素晴らしいお方ですわ……! 簡単に落ちないからこそ、落としがいがありますの!」
統「(あ、このお嬢様、完全にスイッチ入っちゃったやつだ……)」
こうして、折れない超絶お嬢様・麗香による、俺葉への「怒涛の猛アタック」が始まったのだった。
◇
【翌日:阿修羅高校・放課後】
ガラガラ……と教室のドアが開き、麗香が手作りの豪華な三段重お重を持っておしとやかに現れた。
麗香「俺葉様! 本日はお口に合うか分かりませんが、私の手作りのお弁当をお持ちいたしましたわ! 高級和牛のローストビーフに、トリュフを添えてありますの!」
統「う、うわぁぁぁ!! めっちゃくちゃウマそう!! クラスの野郎どもが羨望の眼差しで見てるぞ!!」
麗香「さあ俺葉様、どうぞ召し上がってくださいな……♡(上目遣い)」
俺葉「……ほう。麗香お嬢様、ひとつ聞いてもいいか」
麗香「なぁに?(ドキドキ……♡)」
俺葉「このお重の二段目……お湯を入れたら3分で食えるか?」
麗香「えっ?」
俺葉「俺の『繊細系・麺形生命体』は3分というタイムリミットがあってこその美学だ。このローストビーフはお湯を注ぐとどうなる?」
麗香「お……お湯は注ぎませんわ……? 普通にそのまま召し上がっていただくものでして……」
俺葉「そうか……『お湯を注げない料理』か。少し高度すぎて俺の次元には早すぎたようだ。統、お前にやる」
統「食うけども!! 理由がアホすぎるだろ!! 18000円くらいしそうな和牛お重だぞ!!?」
麗香「(……くっ、手作り弁当作戦は不発……! でも負けませんわ!)」
◇
【数日後:雨の日の下校途中の駅前】
突然の土壇場な雨。雨具を持っていなかった俺と統が雨宿りをしていると、黒塗りの高級リムジンがスッと横付けされた。
後部座席の窓が開き、相合い傘の準備をした麗香がほほ笑みかける。
麗香「俺葉様! 雨がお降りですのね。よろしければ、私の傘で……いえ、お車で一緒にお送りいたしませんか? 狭い後部座席で、少し密着してしまうかもしれませんが……♡」
統「おおっ!! 助かる――」
俺葉「断る。俺は雨に濡れることで、己の皮膚が弾く『水滴の撥水性』をテストしている最中だ」
麗香「はっ……発水性……!?」
俺葉「見ろ統、俺の肩に乗った雨粒が綺麗な球体を描いている。これは我が母体の防水性能が試されているのだ。行くぞ!!(土砂降りの中へダッシュ)」
統「ただ濡れてるだけだろ!! 待てよバカ!!(後を追ってダッシュ)」
麗香「あ……あっ……!!(土砂降りの中をバカみたいに猛ダッシュしていく二人を呆然と見送る)」
麗香「(……なんなのあの人……! 少女漫画の胸キュンシチュエーションが一切通用しない……! まったく恋心というものを分かっておられませんのね……!?)」
ガキすぎる俺葉の頑なな鈍感さに、お嬢様の恋の前途は多難を極めるのだった――!
麗香の猛アタックをことごとく「水滴の撥水性」や「お湯が注げない」という謎の理屈でへし折り続けた、その数日後。
阿修羅高校の教室で、俺は統から盛大に説教を受けていた。
統「お前なぁ、いくらなんでもお嬢様に対する態度が塩対応すぎるだろ!! 高級ローストビーフ重は横取りするわ、相合い傘は拒絶して雨の中を全力疾走するわ……流石に人間として恩義に対して失礼だとは思わんのか!?」
俺葉「……む」
統「『む』じゃねぇよ! あんなに健気にアタックしてくれてるのに、ちょっとは女の子の気持ちを考えろっての!」
統の言葉に、俺は初めて腕を組んで深く考え込んだ。
――確かに。高級ローストビーフ重は美味しかったし、雨の中の撥水テストもそろそろ限界だった。それに、わざわざリムジンで迎えに来てくれた恩に報いないのは、男として「母体(201号室)」の恥かもしれない。
俺葉「……分かった統。そこまで言うなら、俺は改める。今日、麗香の自宅へ赴き、彼女と心を通わせることにする」
統「お、おお……! 急だな!? ってか俺も一緒に行ったほうがいいか?」
俺葉「いや、これは俺と麗香の『タイマン』だ。統は留守番をしていてくれ」
統「(なんか嫌な予感がするけど……まあ仲良くなろうって気になったならいっか……?)」
◇
というわけで、下校後に高級黒塗りのリムジンを私信(LINEではなく念波)で呼び出し、俺は神奈川県内にある西園寺家の超巨大なお屋敷へと単身り込みに来ていた。
執事「よくぞお越しくださいました、俺葉様。お嬢様も大変喜ばれております」
通されたのは、天井まで届くシャンデリアが輝く、広すぎる洋風の客間だった。
しばらくすると、ドレスのような上品な私服に着替えた麗香が、真っ赤になりながらやってきた。
麗香「お、俺葉様……!? わざわざ我が家までいらっしゃるなんて……! もしかして、私のこれまでのアタックを受け入れて……///」
俺葉「麗香。少し話をしよう」
俺葉はソファにドカッと座り、至近距離までススッと詰め寄った。
統に「塩対応すぎる、恩義に報いろ」と厳しく叱られたのだ。だから今の俺は、全力で「彼女と仲良くしよう」としている。つまり、人間としてのスキンシップと距離感を詰めるフェーズだ。
俺葉「……統に言われたんだ。『もっと女の子の気持ちを考えろ、塩対応するな』とな。だから今日から、俺たちはもっと親密な関係になる」
麗香「えっ……? し、親密……っ!?」
俺葉「そうだ」
俺葉はさらにズイッと顔を近づけ、麗香の肩に手を置こうとした。
――統の教えに従い、スキンシップをとるのだ。目と鼻の先、お互いの息がかかるほどの超至近距離。
麗香の脳内が完全にショートした。
(――ち、近すぎますわ……っ!! 息ができ……心臓の音がうるさすぎて……っ!! 待って、心の準備が一切できておりませんのよ……っ!!)
普段は凛としたお嬢様として気高く振る舞っている麗香だが、恋愛経験はゼロ。こんな至近距離でまっすぐ見つめられたのは人生で初めてだった。
恥ずかしさとパニックが最高潮に達した瞬間、麗香の野生の防衛本能が爆発した。
麗香「ち、近いですわぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!」
バコッ――!!!
乾いた美しい破壊音が、広大な客間に響き渡った。
俺葉「ぐふっ……!!」
麗香の渾身の右フックが、俺の右頬を完璧に捉え、俺はそのまま床へと盛大に吹っ飛ばされた。
統「(※自宅の201号室で)……なんか今、遠くから『ぐふっ』って友人の悲鳴が聞こえたような気がしたけど、気のせいだよな……?」
◇
床に倒れ込みながら、俺は冷や汗を流す麗香を見上げた。
俺葉「……見事な右フックだ。まるで『繊細系・麺形生命体』の湯切りを彷彿とさせるキレ味だったぞ」
麗香「ひゃうっ……!? ご、ごめんなさいまし……っ! あまりにも急で、体が勝手に……恥ずかしくて思わず……っ!!」
真っ赤な顔で両手で自分の頬を隠し、その場にぺたりと座り込んでしまう麗香。
俺葉「ふっ……気にすることはない。コミュニケーションとは時に痛みを伴うものだ。だがこれで、俺たちの距離(次元)は確実に縮まったと言えるだろう」
麗香「(……なんて懐の深いお方……! 私に殴られても怒らず、このようなお優しい言葉を……♡)」
俺葉「ところで麗香、我が母体に帰る前に『繊細系・麺形生命体』のお湯を入れてもらってもいいか?」
麗香「はい喜んでぇぇぇーーーっ!!!(※執事に湯沸かしを爆速指示)」
――こうして、麗香のお屋敷での危険すぎるスキンシップ修行は、いつもの狂った着地と共に幕を閉じるのだった!
よろしければ次回も読んでいただけると幸いです。
ラーメンばっかだな、こいつ
次回もお楽しみに!




