7、凶戦士です
リナは呼吸を整えながら動く。乱戦こそ冷静かつ瞬間的な考察が必要だ。敵は増える事が確定している。傷付かずにどれだけ相手を行動不能にしていくかが大事だ。
ナパート族の緑の銛がすっと伸びて、すっと引かれる。この銛が戦闘用に進化させてきたものだからだろう。銛の先にかえしが付いてないからすぐ引き抜けるようだ。的確に鎧の隙間を銛で突き刺す、その姿は恐ろしくもあり、頼もしくもあった。
あっという間に10名の私兵を倒して、屋敷内へ乗り込む。
屋敷中に怒号が飛んでいる。フッガー家からしたら賊が侵入してきたわけだから当然である。
玄関ホールの中央には広い階段がある。その階段の踊り場に待機していた私兵は既に剣を構えていた。
先程より人数は少ない。リナは自身がここで戦うのが不利だと思っているが、突き刺すのが主体のナパート族の不利にはあまりならない気がした。彼女はダルトン達の後ろに回る。後方からの敵を警戒しつつサポートに回るのが妥当だろう。スキヤキやダニエルのサポート役になることが自然と身に付いていたからだ。
「我らが道を開くのだな? 」
ゴブリンの一人が尋ねてくる。口調に責めた感じはなく、確認の為であった。
リナは階段の先に目をやる。踊り場の先だ。喧騒の中に一際響く音が聞こえるのだ。まだ確認は出来ないが、何かある。
かなり天井が高く、幅が広い作りであるが、それでも少人数の五人戦士達が戦う場所として悪くない。野外で戦うのであれば人数差があれば囲まれてしまうが、この場所では前と後ろだけでよい。さらに前に進むことだけを考えたなら、ナパート族の一撃で敵を戦闘不能に追い込むスタイルはかなり有利だ。止めを刺す必要のない戦場での闘い方だ。
そんな事を把握しながら周囲を見渡すリナは、戦場では一番役に立たないとも見に染みてわかる。
体格がない。一撃で仕留めるには敵に近付かないといけない。動きの速さには自信があるが、速く動き回るスペースが保てない。
だからこそサポートに徹して、状況を観察している。
そして、階段を抜けた先にいた脅威を一番早くリナが気付いたのは当然なのだ。
鎧を身に纏ったドワーフがいる。一般のドワーフより背は高く、さらにドワーフ特有の体格の良さも併せ持っていた。そう、一回り以上大きいドワーフだ。さらに戦斧も通常のものより大きい。
ここまでリナ達に大きなケガを負ったものはいない。私兵のレベルが低かったようにリナには思えない。どれも戦い慣れていた気がしたからだ。連携が凄く取れていたとまでは思えないが、場馴れしている感じはあった。それでいてこちらが傷付いていないのはナパート族のゴブリン戦士に覚悟があったからだろう。
だがこのドワーフは普通じゃない。体格や戦斧だけじゃない。足を踏み鳴らし、唸り声を上げ、涎を垂らし、何にも考えてないだろう表情。
「狂戦士です。多分。いや、間違いないです」
大きなドワーフの、狂戦士の後ろに明らかに身なりの整った男がいる。彼は笑っている。
「物知りさんがいらっしゃるのは楽しいですね。そう、狂戦士ですよ。さあ、彼の強さを私に見せて下さい」
そう話した男は、口笛を鳴らす。そして指示を出す。
「ゴブリンの戦士四人とあの小僧を殺れ」
声を耳にしたドワーフは戦斧を振り回す。その勢いは凄まじい速さで、的外れな場所を通っているにもかかわらず容易には近づけない。
リナ達はしっかり距離をとり、戦斧の軌跡を頭に刻み込む。避けるだけでは勝てない。いずれ敵の応援がやって来る。
タイミングを図る。奴が戦斧を振り切り、態勢を崩した時に刺し込もうと四本の緑の銛が窺っている。
リナは廊下の端に置いてある燭台を手に取り、狂戦士の足元に転がす。
狂戦士の戦斧が振り切られ、もう一度逆方向に降り戻されようとする。その時、転がってきた燭台を彼は踏む。
狂戦士のミスを見逃す、深碧の銛はなかった。彼の身体に四本の銛が刺さる。
轟音が響く。
それから、四つの音が続く。




