8、遅くなって申し訳ない
四本の銛は確かに、狂ったドワーフの身体に刺さった。
バランスを崩し、銛が刺さったまま、身体がバネ仕掛けの人形の如く動く。それも激しく、あり得ない速さで、耳をつんざく声をあげながら。
四人の戦士の方が吹っ飛ぶ。
まさしく狂戦士。
確かな技術も、固い信念も、荒ぶる力と狂った精神が薙ぎ払う。
四人の戦士は飛ばされただけで、致命傷ではない。だが、このままでは同じこと。蹂躙されるのみ。
狂戦士の後ろに控える男が目に入る。
リナは間違えなかった。彼女の決断は正しいとゴブリン達は思った。ナパート族の戦士は死を恐れない。死を望んでいるわけではない。目的の為に必要かどうかだけである。今は必要ではない。奪うべきものが奪い取れるならば……。
狂戦士が銛が刺さったままで、戦斧を振るった時、指示を与えていた男の喉にナイフが突き刺さる。狂戦士の動きは止まらない。しかし、後方の男の命が尽きる事も止められない。
「ゆ……め……がか……」
男が最後に何を言ったかはわからない。
戦士達は死を受け入れる。彼等の次の目的も決まっているからだ。ナパート族は仇を赦さないし、仲間をこそ大事に思っている。
リナにそれぞれが出来る合図を送る。
手を振る者。
顔を振る者。
声を上げる者。
目線で示す者。
リナは躊躇する。確かに仕事は果たしたのかも知れない。先程まで戦士達は彼女に逃げるように促したりはしなかった。彼女が逃げて責めたりはしなかったろうが、促す事はなかった。
リナはナイフを投げた事が正解だった事に気付くが、次にどうするかを決められない。
眼を閉じない事しか決められない。逃げるべきか、ともに戦うべきか……勝てるイメージがないなかで。何か出来ることはないのか?
あの男にナイフを投げれたことのように……。
大声を喚き散らしながら進んでくる、ドワーフの狂戦士のその大きく開いた口の中に一筋の光が飛び込む。
飛び込むと同時に爆発が起きる。
口元がぐちゃぐちゃになり、血液を飛散させながら、それでも前に進もうとするその巨体の今度は目元に一筋。さらに一筋。
叫びは声にならず、息づかいの激しさだけがわかる。狂っているのは変わらない。痛みは感じているようだが、攻撃を続けようと振りかぶった両腕の左側の腋窩から肩口へと剣が振り切られる。
リナはその剣の動きを見て始めて、その存在に気付く。背に弓矢を背負い、美しい細身の剣を手にした者がいる。麻の外套がフード付きで顔は見えない。
狂戦士の左腕を切り落とした者は、狂戦士の裏に流れる。リナからはやはりその者の顔は見えず。狂戦士の腹から新たに生えた細身の剣が突き出てくるのがわかる。
狂戦士の後ろから声が響く。
「遅くなって申し訳ない」
「我ら皆、かすり傷程度です」
「フッガー家の元凶も始末済みとは、流石、深碧の銛」
リナはダルトンと話す外套の人の声に深碧の銛はなかった。彼の身体に四本の銛が刺さるを覚える。味方であるのは当然なのだが、まだ興奮が醒めやらない。
「いえ、色々調べて頂けただけでも有難いところ。さらに命まで助けて頂きました」
「紅の弓と深碧の銛は常に魂の友。何かあればいつでも。それと、そろそろ衛兵達が来ます。正門から来ますので裏門の方から帰られて下さい」
「何から何まで……。アールマティ様には頭がありません。どうかエンダラ様の御加護があらんことを」
リナはエンダラという名の神を知らなかった。多分、ナパート族の神なのだろう。そして、自分達を救った者の名がアールマティというのだとわかった。
リナがゴブリン達が立ち上がるのを手伝っている間に、アールマティはいなくなっていた。
リナは一つの自信を手に入れて、数多くの非力さを知って、裏門から逃げ出した。
仕事が成功したのは間違いない。




