5、スイートトリップという
甘い罠という言葉を聞いても、ピンと来ない。
リナは自分に身に起きた出来事を考えると罠というのはわからなくない。だが甘いというのはどういう事た?
ハニートラップというのは聞いた事がある。だが、当然リナがそれに引っかかるわけない。
目の前に立つゴブリンの戦士をもう一度よく見る。剣は抜いていないが、気迫が伝わる。リナに対する敵意ではない。だが、同胞の復讐は絶対に行う、障害がどれほどあろうと行うという決意がその顔つきから見てとれた。
「同胞バルブは角砂糖の精製工場で働いておりました」
リナは頷く。今日、調べた事と違いはない。
「彼は数日前にこう相談に来たのです。自分の働いている工場では角砂糖に混ぜ物を入れていると。そしてそれは嵩を増すためではないらしいと」
詳しく話を聞く。何でも嵩増しはわりとどこでもやっている事らしい。だから亡くなったバルブも始めは気にしていなかった。ああ、ここはこんな感じなんだと。
混ぜ物を入れ始めて生産量も増えたし、何より客が増えた。それから働いてる者達に変化が起きた。
仕事をしている最中にフラフラになり倒れる。口からヨダレをたらし、ぼーっとする者が出てくる。食欲がなくなる。突然、隣で仕事してる奴を殴りつける。
バルブがおかしいと思って、同胞のダルトンに相談をしたということだった。ダルトンは荷の運搬の仕事をしているらしく、この地域に住む六人の同胞達の中でバルブの一番近くにいたそうだ。
「それで調べていたら、昨晩、暴動が起きたと話を聞いた。バルブを探していたらリナさんが最後を看取ってくれたと」
リナは申し訳なく、頭を振る。
「もう少し早く気付いてあげられれば……」
「いや、とんでもない。で、さらに日中、身体がおかしかったと知って……」
リナは少し考える。彼女が体調不良だったなんて、誰が知っている?
「我等、今から例の工場を動かしているフッガー家を襲います。もし御一緒されるならと伺いました」
話が急すぎる為、頭が追い付かないリナは確認をする。
「その、フッガー家が関わっているのは間違いないのですか? 」
「はい。確かな筋から情報をいただきました。……確かな情報を求めてバルブを失ってしまいました。彼らは角砂糖に毒を含めていたのです。中毒性があって快楽を促し心を壊す薬草を混ぜていたのです。一度はまると抜けられない。既に金持ち相手には毒草の純度を上げたものも売り出したそうです。『甘い旅行』という名前で、物凄い値段で売っています」
ダルトンはしっかりと見つめてくる。
「深碧の銛として、我々を貶めた者には裁きを与えます。御一緒されますか? 」
フッガー家はこのカラハタスでかなりの力を持つ商家だったはず。そこに襲うのに躊躇ないのは凄いと思った。
「ダルトンさんが戦士とは思いますが、残りの、えーと、バルブさんを数えないから四人か、合計五人で大丈夫ですか? 僕も参加するのは構いませんが、無駄死にをしに行きたくはないです」
ダルトンが笑う。その顔は、ついこの間修羅場を潜り抜けたばかりのリナを震わせるものだった。
「ナパート族は皆戦士。我々に手を出したのです。相応の報いを与えてあげなければなりません」
リナは、すぐに降りて行きます、と伝えて戸を閉める。状況はよく分からないが、ダルトンが嘘を言ってるとは思えなかった。故郷を出て、用心棒になろう、そう思って今ここにいる。だが、故郷を忘れた事、故郷を憎んだ事はない。
「よし、行きますか」
階段を降りて酒場を通り過ぎる。スキヤキもダニエルもいない。少し期待をしていたリナはそんな自分を情けなく思う。
夜も更けると涼しくなる。月は半月。鳥の鳴く声が聞こえた。
五人の戦士が並んでいる。皆、手に銛を持っている。
「では、行きましょう」
リナはゴブリン達の背を追う。彼女は流されているとの自覚はある。だが、流されてもいいではないか、そう思っている。




