表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

47/70

11、悪魔と間違われただけさ

「ありがとうございます」


 カサンドラの声がスキヤキの耳を喜ばせる。やはり二人きりで会うべきでなかったとスキヤキは思う。


 美しい記念式典だったらしい。


 アデムの民は伝説であった霊獣の幻影を確かに感じた。そして、ヘクトールへ捧げられるカサンドラの歌。当代随一の歌姫の調べを耳にして国民はみな感動し泣いたという。


 アデム国王は、ヘクトールの指示により、エルフがヘクトールを襲った件を発表しなかった。今回の事件は伏せられたのだ。ヘクトールにとって、神の声を聞き間違えるエルフ達に対しての怒りや恨みなどないも同然らしい。存在の大きさの違いから来る余裕なのだろうか?

 エルフにこれから先さらに襲われる心配はないという。

 神の声に対する解釈が変わるだろうと、変えなくてはルチア王国は成り立つまいと、ヘクトールは言っていた。

 神はそもそも悪魔を恐れはしないと……。永い年月の中ではたまに見られる光景。神にも近しい存在であるヘクトールだから語れるものだ。


「悪魔と間違われただけさ、スキヤキよ」


「ヘクトールは神を恐れてないのかい? 」


「本物の悪魔か、悪魔のしもべにとっては恐ろしいことかも知れないな。だが神が私を狙ったわけではない」


 ヘクトールの表情がニヤリと笑ったように見えた。もちろん今の彼は霊体であり、そもそもスキヤキには猫や豹の表情なんてわからない。だがそう見えた。いや、ヘクトールがそう見せたに違いない。

 黙るスキヤキにヘクトールは続けた。


「神は悪魔を狙いなどしない。悪魔も神の創りしもののひとつだからな」




「スキヤキさん? 」


「ああ、大丈夫」


 スキヤキの顔を覗き込むようにカサンドラが見ている。


「いえ、あの、本当にありがとうございました。ヘクトールが敵が敗れていなくなった事を教えてくれて……」


「たまたまうまくいった」


 こういう時に上手く話せない。スキヤキは自分のシミュレーション不足を呪う。敵と戦うだけが全てになってしまっている。


「ヘクトール……霊獣様が苦戦する相手にたまたま? 」


「相性とかタイミングってのがあるから」


 全てにおいて相性とタイミングと言うのはある。そして、スキヤキは()()()()タイミングを逃す男だと自分で思っている。不器用だから。


「帰るのでしょう? 」


「カサンドラはここに? 」


「霊獣に愛されてる女よ」


 カサンドラは笑う。スキヤキ達とは別にカサンドラ用に準備された部屋は広く、彩り豊かな草花や意匠の凝らされた調度品が飾られている。カサンドラの瞳がスキヤキを捉えている。


 スキヤキにはカサンドラの言葉の意味なんてわからない。カサンドラにもスキヤキの言葉の意味なんてわからない。


 ただ甘い香りをスキヤキが感じただけだった。


「そうだ、お願いがあります」


 カサンドラが空気を変えるように声を出す。


「なんなりと、歌姫」


「あなたの師匠とあなたは違うし、リナさんもあなたではない」


「どういうことです? 」


 カサンドラはニッコリと笑う。天井を見上げて彼女は答える。


「私の師匠と私は違う。私は全てを捨てられない。歌姫で、死ぬまで歌姫です」


 スキヤキはカサンドラの表情を読まないように目を閉じる。彼は自分の求める憧れの自分を考える。


「ありがとうございます。その言葉大切に心にしまっておきます」




 これが世にいう『歌姫カサンドラの神歌』だ。


 霊獣ヘクトールが人々の前に顕現したのは、歌姫カサンドラの神歌が起こした奇跡だと。

 アデム国内でカサンドラは聖人となり、霊獣ヘクトールは真の霊獣として他の国々まで知れ渡った。

 多くの人々には、ルチア王国がヘクトールを悪魔と見ていた事は広がらなかったし、カサンドラを連れてきた用心棒達の事なんてさらに知られていない。


 たが、それでいい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ