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10、強い奴ってのはいくらでもいるもんだな

 何故、式典をこの時間に始めたのか……日中は流石に暑いし、演出は炎を使うから夜の方が映える、でも、多分一番の理由は、猫が夜行性の動物だからたろう。


 そろそろ日が落ちる。


 神殿は石造りで複雑な模様も変わった形もしていない。ただだだ白い石で出来ている。白にも濃淡や影があり、何か不思議な気持ちを呼び起こさせる。

 大きくも広くもないその白いキャンバスに夕陽が当たっている。


 距離はなるべく近い方が良い。しかし、見張りが立つような場所は避けるだろう。見張りは一人くらいまでだろうか。

 魔法の障害になるようなものは減らしたい。となると王宮の城壁の上で、かつ神殿が見えるところ。

 遮蔽の魔法を使い、時が来るまで待って、特大の魔法をぶつけてくる。


 悪魔と呼ぶべき対象を、神に敵する存在を殺そうとぶつけてくる魔法だ。どれだけの威力かわからない。だから魔法を打つ前に倒す。


 そう簡単な話だ。


 シナモンスティックを咥えながら、周囲を探索する。今、手元にある地図は正確なものだ。綺麗な紙に正確に線が引いてある。


「腐るほど金は貰えるしな、いっちょ、頑張りますか」




 スキヤキ達が王宮に着くと、王自らが出迎え、今回の話をしてくれた。

 スキヤキは思う。なかなか素敵な絵だ。街のごみ溜めに住んでる何でも屋みたいな用心棒に王が頭を下げる。いや、彼自身が偉くなった気がしたわけではない。彼は悪魔からチートな能力を貰っている。さらに霊獣ヘクトールからの指示もあったのだろう。

 だから、スキヤキ自身が偉いわけでも、凄いわけでもない。頭を下げれる王と、それを認めるこの国の姿が素敵だと思った。


 もうすぐ囮役を買ってくれたヘクトールと、歌姫カサンドラが神殿で会う。霊力というべきかヘクトールの魔力が周辺に漏れでている。

 ヘクトール自身とエルフの魔法使いを直接街の郊外の、いや、国のはずれの大草原で戦わせるのが一番良いのだろうが、それはこの国としては認められない。ヘクトールの為に死しても戦うことを選ぶだろう。

 被害が大きくなるのをヘクトールは嫌い、自分を殺そうとしてくる所を、逆に暗殺して欲しいとの依頼だ。



「漏れてわかる程のこの生命力があるヘクトールを本当に殺せるつもりでいるのかな」


 スキヤキは独り言を呟く。

 例の魔法使いの計算通りなのだろうか? それとも想定外なんだろうか?


 式典の始まりが、神殿の周りにいた音楽隊の演奏でわかる。

 スキヤキは目を閉じる。音を感じる聴覚も閉じる。意識を魔力の流れに集中させる。


 ゆっくりと空気が、いや、魔力が流れているのがわかる。周囲の草木が持つ魔力が強い魔力に引っ張られている。もともとエルフが使う魔法は隠れて使うのには向かない。

 予想とは家二軒分の距離、後は時間との勝負。時間はある。多分、最後は瞬間的に魔力を高めるにせよ、神殿ごと、あの()()を滅ぼすにはもっと、もっともっと魔力が必要だ。


 歩き出す。刀を抜く。


 夕陽の残滓ざんしが刀に宿る。


 魔力が揺らぐ。


 慌てるな。慌ててるのは向こうだ。


 姿は見えていない。確実に斬るには、横薙よこなぎ。



 その刃が煌めく瞬間、短刀が飛んで来る。

 短刀を弾く。

 短刀が飛んで来た方へ意識を向けようとした刻、魔力が急激に膨らむ。


 先に斬る。


 手応えがある。

 刀に熱が流れてくる。手まで熱が伝わってくる。

 スキヤキは刀を手放す。

 目の前には脇腹に傷を負った、あの時のローブを着たエルフと思われる男がいた。


「まだだ、今は無理でも必ずや……」


 手負いの魔法使いは怖くない。そして、もう強力な魔法は使えまい。


 背後をとり、首筋に腕を回す。敵に慈悲はかけない。なんせ神からは悪魔と御告げが出てるくらいだ。


 命を刈り取った後、短刀が飛んで来た方を調べるが何も見当たらなかった。

 短刀を投げた者にとって、今回の作戦はたいしたものではなかったらしい。まったく殺気を感じさせず、こちらが一番周囲を感じる事ができない瞬間を狙ってきた。


「強い奴ってのはいくらでもいるもんだな」

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