9、魔法使いの倒し方は
深夜、テーブルにウイスキーを入れたグラスが二つ。月は見えず、星が瞬いている。窓から風が入ってきていて、室内の燭台から放たれる光が踊っている。
図面が2枚、グラスの間に置いてある。大雑把な手書きの地図だ。王宮にある神殿の大まかな地図と、王宮そのものと周辺の地図だ。
「ワシはどうしたらいい? 」
ダニエルはウイスキーを飲みながら問う。
「カサンドラの側に。念のためな」
スキヤキはダニエルを信じている。
「上手く逃げるさ」
ダニエルの言葉はスキヤキを信じていないようにも聞こえる。だがスキヤキは彼が自分を信じていてくれている事を感じる。
「神殿の出入り口付近になるだろう」
エルフの魔法使いが人間の国で馴染んでいないのは間違いない。あのタイプがこんな遠くの国まで旅行しているとは思えないからだ。なら霊獣が待機しているはっきりとした位置がわからない以上、カサンドラを中心に置いて、霊獣の姿を予測して魔法を落とすしかない。
「魔法使いの倒し方は師匠から教わったんだろ? 」
スキヤキは地図を見ながら、あのエルフの魔法使いの場所を考える。そして、ダニエルに話しているのか、独り言なのか、わからない声で話を続ける。
「場所をはっきりイメージできないなら、目標を視認して直接的な魔法をかけるか、目標がいることを確認して場所そのものを全て破壊するか……」
ダニエルのグラスが空になる。先に寝たりなんかしない。信用するのと任せきりにするのは違う。いや、ダニエルが信用している部分が違う。
「わざわざ生け贄を求めているのは威力を上げる為だよなあ。ならこの位置くらいから、神殿ごと消す気」
スキヤキは酒を舐める。
「神殿ごと消すなら、カサンドラをはっきりと見ている必要がない。なら距離を伸ばせる」
それから地図の中の距離を考える。単身で乗り込んでいる可能性も高いはずだ。カサンドラを道中で襲うのにかなりの人数を割いている。帝国やアデム国に、エルフの戦士がそんなに多数いるとは思えない。
強力な魔法使い。霊獣クラスの魔人や魔物を撃退出来るくらいの魔法使いなんて、例え魔法が得意なエルフ達とは言えどそういないだろう。ルチア王国でも三本の指に入るだろう。
声を思い出す。年老いたように聞こえた声。長年、研究を続けていたのか、魔法で殺しを続けてきたか……。
魔法使いを戦場で倒すなら二通り。魔法を放った直後、これが一番よい。弱い魔法は別だが、強い魔法を連発することは出来ない。ここが一番の狙い目。……今回はこの作戦が使えない。
今回はもう一つの方法しか取れない。魔法詠唱中、唱えている時を刺し、斬る方法だ。
場所を予測して魔力の動きから割り出す。いや、違うな。強力な魔法だろうからもちろん魔力を読めないとは思わないが、自分の不得意な事をメインに作戦を立てるべきではない。
スキヤキはグラスに注がれているウイスキーの香りに意識を集める。樽の香り、柑橘系の香り、燻製した時の香り。
窓の外に視線を置くる。
耳を澄ますと、深夜、草原で動く生き物の鼓動の音を感じる事が出来る。何処に何匹いるか数えていく。30を越えた処でかぞえるのは止める。
「心が踊るね」
「ワシは踊らない」
スキヤキはシナモンスティックを噛む。飽くでもなくこの香りに引き込まれている。口の中の酒の香り、アルコールの熱さとシナモンの香りが混じる時が個人的には一番好きだ。
「ダニエル、大掛かりな舞台は確かに好きじゃない。だが、やりがいのある敵ってのはいるよ」
「ふ~。仕事にやりがいを求めてないよん。仕事は趣味を生み出す為にやってるだけなん」
「まるで俺が趣味で仕事してるみたいだな」
ダニエルはグラスに再度ウイスキーを入れる。
「趣味で仕事をしてる奴は才能が高い。だがなあ……」
「趣味じゃないよ」
「いつも通り、遊ぶなよ」
ああ、遊ばない。確実に仕留める。それが主人公ってものさ。
スキヤキは既にイメージを固めていた。




