6、生け贄を使う魔法って
スキヤキは魔法が使えない。
悪魔からチートな能力をもらったスキヤキだが、魔法が使えなかった。スキヤキが思い描いた理想の姿が魔法使いでなかったからかも知れないと思っている。
スキヤキが悪魔と取引をした時に思い描いたのは、運動神経抜群で相手の攻撃をひらりひらりと交わして、アクションで活躍するようなタイプであった。
この理想の姿を悪魔が悪魔なりにこの世界に合わせた形で産み出したのが現在の身体だ。
スキヤキなりの解釈だが、スキヤキの脳みそがチートなのだ。五感全てが異常なほど鋭い。そして情報処理能力が高いからなのか身体を思い通りに動かす事ができる。敵の筋肉の動きまで見える視力があるから敵の動きもわかる。
筋肉自体は普通に鍛えたものではあるが、この能力がある限り白兵戦では無敵に近いのだ。
魔法使いを相手にしない限り。
剣術そのものを教えてくれたのは、転移したばかりの自分を見いだした謎の女だ。今でも謎なままだ。最近は彼女の事を詮索するのは諦めた。
表情から感情は見てとれる。だが、何を考えて、何をしているのかわからない。
ある時は泥棒。ある時は殺し屋。ある時は用心棒。宝石をこよなく愛し、迫害されてきた民の出身。殺し屋の時の名前は小夜鳴鳥。本名は自由と緑と歌を愛する戦女神から名を取った赤髪の美女。アールマティだ。
「スキヤキ、どうした? 」
ダニエルから声をかけられる。スキヤキは彼の感覚の鋭さにいつも驚く。自分みたいに悪魔からチートな能力をもらったわけでもないのに、彼の能力が高い事にスキヤキは憧れる。
「猫の事件」
「聞いてたんだなん」
スキヤキは馬のスピードを元に戻し答える。
「続くな」
鎖帷子の女性がスキヤキの言葉に食い付く。
「何か理由あるんですか? 」
「ああ、多分、敵さんの魔法の準備か何かだろう」
彼女は自分の馬をスキヤキの馬に寄せる。
「そんな魔法があるんですか? 」
「詳しくは知らん。だが生け贄を使う魔法ってのはいくつも聞いた事あるだろ? 猫を使うのは聞いた事ないが、あってもおかしくはない」
「そうなんですか……。わかりました。上にもそう報告します」
リナが残念そうに呟く。
「僕達が着くまで、その話も届かない事を考えると、猫達は可哀想ですね」
「いえ、報告は町に着けばすぐに送ります」
「どういうことですか? 」
「アデム国には伝書鳩といって、鳩を使って連絡することができるものがあるんです」
スキヤキはアールマティが教えてくれた事を考える。
自分の生命力を減らす事によって神秘の力を得る。魔法の力が大きければ大きい程生命力を必要とする。スキヤキに魔法を無理に教えない理由は、魔法の強さを追い求めるあまり自分の生命を捨てそうだからだと。
「でも、壮観ですね。この猫様の行列」
うっとりとした声で鎖帷子の女性が話す。
猫達は荷馬車を保護するように取り囲む一団がいて、それ以外の大多数は荷馬車の後方を付き従って列を作っている。
もうこの一団に襲いかかってくるそこらの野盗なんていないだろう。
町に着くと、大歓迎であった。人々がニコニコ笑顔で猫の大行列を見ている。ひとつ前、帝国の町を通り過ぎると大違いである。スキヤキはあらためて文化の違いを感じながら。宿について尋ねる。この町の領主の家にどうぞ泊まって下さいと言われる。
そらそうだ。自分達が崇める霊獣、アデム国を何度も救った事のあるヘクトールが守るように命じたならば、それは国賓だ。
元々歌姫カサンドラは国賓待遇で来た事もあるのだから尚更だ。
領主の館に着くと、ひとまず一息着かせてもらってから領主にご挨拶をと話すと、もちろんもちろん、と応じられる。
ここまで待遇が良いなら、ここで襲われる危険性が薄いならと、一番最初に着ていた絹の服にカサンドラには着替えてもらう。
カサンドラが青い鮮やかな服に着替えると、再び歌姫だというオーラを放つ。今着た服は高価な服ではあるが彼女にとっては普段着だ。舞台で歌を披露する時はもっと豪奢な服を着る。だが、やはり彼女の中の何かスイッチを押すのだろう。
「では、ご挨拶に伺います。歌を一曲くらい披露しないとかしら」
そう言って微笑む。その言葉が既に艶やかな歌であった。




