6、神の声を聞けぬ者達よ
笛の音が鳴る。かなり高い音だ。
スキヤキはとりあえずアイラトの首筋に手刀を叩き込む。スキヤキはアイラトの口笛を取り上げ、放り投げる。ベルトの位置に巻いている縄を取り出して、後ろ手にアイラトを縛る。口には布で猿ぐつわをはめる。
白き獣を見て、知性があり、人語が解せる事にかけて話しかける。
「多分、ルチア王国から潜入しているエルフ達が集まって来る。何でも悪魔がこの地に生まれたとのお告げがあったらしくてな。お前さんを悪魔と考えるらしい」
「エルフは目と耳がよい。だから神の言葉を間違える」
白き獣が返事をする。余程、アイラトより話せそうなタイプだ。
「早く逃げてくれ。流石にエルフの兵士多数とは戦っても勝てる気がしないな」
「それは出来ない。我はカサンドラを守らねばならない」
「エルフの兵士達はお前さんが逃げないとカサンドラを襲いかねないぞ? 」
「我はアデム国から贈られた霊獣。霊獣は言い過ぎだが、アデムがそう思っているのは確かな事だ。その我を襲うと言うのはアデムへの宣戦布告も同然たぞ? ルチア王国のエルフもそこまで愚かではあるまい」
「あぁ、アデム国はお前さんの事を知ってるわけか……よくカサンドラに贈呈したな」
「カサンドラの歌声は奇跡だ。守る価値がある。それと我の名前はヘクトールだ」
「俺の名はスキヤキだ」
スキヤキは懐からシナモンスティックを取り出して咥える。隣でよく分からないという顔をしているリナに話す。
「猫は悪魔じゃなかったろ? リナ」
「は、はい。師匠の言うとおり……でした」
「まだ疑ってるの? 」
「いえいえ、そんな事ないです」
「アイラトも馬鹿ではあるが、大馬鹿でないのが問題だな」
スキヤキはアイラトを見ながら呟く。アイラト1人ではどうにも出来ないと判断して、すぐ味方を呼ぶのは、アイラト目線で言えば正しい。
「そこな少女よ。名前はリナというのかな? 」
「は、い」
「リナ。エルフが悪いと言ってるわけではない。エルフだろうが人間だろうが、獣だろうが、間違える事はよくある事だ。我は霊獣でも悪魔でもない。我はヘクトール。アデム国を助ける事があったのは我の住処を大事にしてくれるからである。この周りの猫どもは我を心配して集まった眷属だ」
リナは猫の姿のままでありながら、猫以上の存在、豹のような大きさにも見えるヘクトールをじっと見ていた。小さいようにも大きいようにも見えるヘクトールが人語を話すのを驚きながら聞いている。
道の下側から五人のエルフが集団で近付いてくるのがわかる。先頭に立つ旅装のエルフが口を開く。
「まずそこの男を開放しろ」
「アイラトは開放するから、話を聞けよ」
先頭のエルフが頷くのを見て、アイラトの縄を外す。それから猿ぐつわを外して。まだ意識がぼんやりしている彼をエルフ達の方へ追いやる。
「こちらの猫様は悪魔ではなく。アデム国の霊獣だ。確認してから出直して来な」
アイラトが戻るまで、エルフ達は何も言わない。アイラトがよろよろ歩いてる時に、スキヤキ達が来た方からも別のエルフが五人来る。アイラト含めて11人のエルフが道の両端を抑えている。
「アイラトを返してくれてありがとう。さあ、そこを離れるのだ人間達よ」
スキヤキはリナの顔を見てから、エルフ達へ語り掛ける。
「聞いてた、俺の話? ここにいるのは悪魔でも魔族でも魔物でもない。アデム公認の霊獣だ」
「人間どもは愚かだな。霊獣でない。霊獣と、人間に思い込まれているだけだ。神の声が聞こえないのはわかるが、悪魔にだまされるな」
二組のエルフ達がそれぞれ剣を抜く。その内の二人が何か魔法を唱え始める。
これだけの騒ぎになって初めて邸宅から庭へ1人の女性が出て来る。
青地の煌めく布で出来た服を身に纏い、茶色の長い髪は腰まで伸びている。知性を高く感じさせる瞳が庭の前を通る道の状況を確認し終わった時、雅な調べが奏でられる。
「私の庭の前で何をしているのかしら? 剣はしまいなさい」
「この家の者か? 」
「剣をしまいなさい」
「それは出来ん。悪魔と、そこにいる悪魔に魅入られた者どもをどうにかしない事にはな。それとそこの猫の悪魔からは離れてくれ」
「私はカサンドラ。この猫はヘクトール。貴方達こそ帰りなさい」
エルフ達の剣が光輝く。彼らの魔法だ。
スキヤキが再度口を挟む。
「アデム国から歌姫に贈呈された猫だ。アデム国からだ。わかったなら剣を納めろ」
エルフのリーダーが声を大きく言い放つ。
「その猫は悪魔だ。神の声を聞けぬ者達よ。退かぬなら押し通る」




