3、大きいか小さいかではないよ
酒場で飲みながら話を続ける。スキヤキはウイスキー。リナにはジャスミンティーを飲ませてる。もちろんこの酒場も顔馴染みの店である。
スキヤキとダニエルが常宿にしている酒場は、治安が悪い地域を抜けたどん詰まりにある。まともな客はそもそもいない。いや、客そのものが少な過ぎる。
「猫ですか」
「野良猫が増えたって話と、猫が逃げたって話と、倉庫に居着いてる猫がいないって話があったな」
リナはフードの中で何かぶつぶつ言ってから、スキヤキに尋ねる。
「師匠、どちらの話を調べますか? 」
「決め打ちはしなくていいよ。とりあえずここらをぶらついて見よう」
「もう夕方ですし、廻るなら早い方がいいですね」
通りに出る。日が傾き、そろそろ夕方かと思う。腕時計なんてないから、太陽の位置と腹時計は大事だ。多分今は16時くらい。スキヤキはのんびり歩く。ただ普段と少し違うのはいつもの日本刀(スキヤキ命名)が腰にはなく、短刀を差していること。もうひとつは外套を黒染めのものに変えている。普段は生成りの外套だ。
一軒の店に入る。
色々な甕が店先に並んでいる。木蓋はしてあるが、匂いは香る。中にはエルフがいる。エルフの事はエルフに聞けばいいと薬草を扱う店に着た。
「スキヤキ、ご無沙汰じゃない」
「ああ」
「それ変装? 」
「外套を黒いのに変えただけさ」
「隣に連れてる黒のローブの方とあわせての話。はじめまして、シルフィよ」
シルフィはリナに手を差し伸ばす。
「はじめまして、僕はリナです」
リナが店内をキョロキョロしている。瓶がいくつも並び、乾燥させている薬草などが壁に掛けられてもいる。
スキヤキはリナの視線の不自然さに気付きながら、最近よく出回る薬草なんかを聞き、足りない薬草を採って来ようかなんて会話をしている。
リナは視線を完全にシルフィに戻して口を開く。
「なんで帝都にエルフの方々が増えているんですか? 」
シルフィは苦笑して、スキヤキを見る。スキヤキが両手を開いて、申し訳ないという表情をつくる。
「理由は知りませんが、最近、確かによく同胞に会う気がしますね」
「そうなんですか……どうしてなんだろう? ありがとうございました」
「申し訳ない。カリギュラ草をひとついただくよ」
シルフィは今度こそはっきりと笑いながら、スキヤキに商品をわたす。
「お買い上げ誠にありがとうございます」
店を出て次の路地までゆったり歩く。スキヤキは動作をゆっくり行うことに注意を払う。剣の型を意識しながら素振りをするように。
路地に入ると、振り返って、お説教開始……ってわけにもいなかないかとため息をついてから、リナに説明する。
「先に説明してなくて悪かった。エルフはエルフ同士の身内意識が強い。身内の事を尋ねられてべらべら喋ったなんてわかったら他のエルフから何て言われるかわからないし、彼女も身内を売る気はさらさらない。だから世間話の中から知るつもりでいた」
「ああ、申し訳ない」
「でも彼女は情報をくれたよ」
「え? 」
「理由は知らない、これは表情から本当なんだ。で、他のエルフを同胞と呼んだ。普段はそんな呼び方をしない。これはエルフの王国、つまり、北のルチア王国がらみって事だと言うメッセージだと読む」
帝国の北、騎馬民族達の支配する大草原を越えたところに大森林がある。その大森林を支配するエルフの国がルチア王国だ。
「難しいです」
「普段からの付き合いがないとわからんさ」
そんな会話をしている二人の横を二匹の猫が駆け抜けて行く。
「追ってみるか……」
猫が駆けていった方へ二人は歩いて行く。通り抜けた猫は既に見当たらないが、また別の猫が目の前の三叉路を左から右へ駆けて行く。
「あの、師匠。質問があります」
「なに? 」
「エルフの件はいいんですか? 」
「いいんじゃない」
「猫に何か事件性あるんですか? 」
「知らない」
猫が集まっていく道を進む。ゆったり進むスキヤキにリナは焦れて訊く。
「エルフの動きは不自然ですよね? 」
「ああ」
「エルフは何か重大な事で動いているのでは? 」
「そうだな」
「ほっといていいんですか? 」
スキヤキは笑って言う。
「事件や被害が大きいか小さいかではない。悪魔が囁く方に行くだけさ」




